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第三話 その6

「ああっ、ジョセフィーヌちゃんっ!」


 猫を受け取った太めの貴婦人は、服を着たその猫を思いっきり抱きしめて頬ずりをした。それは猫がカートゥーン調に姿を歪めるほどの、力強い頬ずりだった。


「ニ、ニェアァ……」


 猫は表情を歪めながら、息絶える寸前のような声を上げていた。


「…………」


 その様子を、心も体も二、三歩引いた位置でエリザは眺めていた。


 エリザは猫を引き渡しに、依頼主の邸宅にやってきていた。立派な門扉に広い庭付きの、エリザの実家にも劣らない立派な家構えだった。


 その家の門の前で、エリザは猫を依頼主に引き渡した。小春は動画の編集をすると言って町に着くなり二人から離れ、カールはクエストの報酬を受け取りにギルドに行っているので、ここにはエリザが一人でやってきていた。


「本当にありがとう! これで無事にジョセフィーヌちゃんをお友達にお披露目する事が出来るザマス!」

「そ、そうですか……よかったですね」


 猫から目を逸らしつつ、エリザが返事をする。ぶっとい腕に締め付けられながら全てを諦観したような表情を浮かべる猫を見てしまうと、自分のやった事が本当に正しかったのかどうかを自問させられるような気がした。


「また同じような事があったらお願いするザマス。一日で連れ戻してくれたのはアナタたちが初めてザマスので」

「は、はぁ……」


 まず猫が逃げる理由をきちんと知る事が先だと思ったが、口には出さないでおいた。


「それじゃ、私はこれで……」

「……ところでアナタ。どこかで見た事があるような気がするザマスが……」

「……!? き、気のせいでしょう。よくある顔ですし……ハハ」


 言いながら、エリザはササっと顔を背けた。


 エリザの記憶には無いが、彼女とはどこかで顔を合わせていたらしい。


(この家の感じからして、何か社交界的なパーティーっぽい場所で一緒になったのかも……気を付けないと)


 エリザは一応お嬢様なので、廃屋で暮らしながらクエスト生活に身をやつしている事はあまり知られたくなかった。もっとも、敢えて隠したりはしていないので、バレるのは時間の問題ではあるのだが。


「そうザマスかねぇ……?」

「(この人ザマスの使い方がカールのござると同じなのよねぇ……)そうそう、実にありふれたポピュラーな美少女顔ですよこんなの、ハハハ。……そ、それじゃ、また今度!」


 これ以上追及される前に、エリザはそそくさとその場を退散した。




 チャイムに呼び出されて玄関のドアを開けると、見知った少女が立っていた。


「ム……小春氏ではござらぬか」

「うわ、ほんとに住んでるんだ……」


 少女――小春は、その事実に若干引いていた。


「フム……逆に屋根があって水が出て、古くて汚れてはいるが家財道具もあり、しかも家賃がタダである家に済まない理由があるでござろうか、いや無い(反語)」

「そこまで揃ってるなら空き家って言うよりはもう普通に人の家じゃないかな?」

「さもありなん。して小春氏、こんな朝早くに何用でござるか?」


 クエストをこなした日の翌日。カールとエリザの住む廃屋を、小春が訪ねてきた。


「朝早くってか昼前だけど……昨日の動画が出来たから確認してもらおうと思って」

「フム……然らば上がるでござる。汚い家で恐縮でござるが」

「まぁ、廃屋だしね」

「あ、土足厳禁でござるよ」

「廃屋なのに?」


 小春は靴を脱いで家に上がった。一応掃除はしているのか、埃の上に足跡が付くという事は無かった。


「エリザさんはいないの?」

「エリザ氏なら買い物に出掛けているでござるよ。エリザ氏はスキルで安く買い物が出来る故、この家での買い物はエリザ氏の担当になっているのでござる」


 エリザはプリンセスのスキル『ゴールドカード』で、あらゆる商品を二割引きで買う事が出来るのだ。


 なお、当然言うまでも無いが、カールと二人でお買い物をするなどというイベントは発生しないのであった。


「ふぅん……じゃあカールさんは料理でも担当しているの?」

「食事は専ら既製品か外食でござる」

「じゃあ、お掃除とか?」

「それに関しては綺麗好きのエリザ氏が時折モップを掛けたりしているでござる」

「……カールさんは普段何をしているの?」

「元の世界と同様の事、とだけ言っておくでござる」

「元の世界と同じ……あっ、ふーん(察し)」


 小春は瞬時に察した。


 二人は廊下を進み、リビングに入った。


「動画の確認はリビングで不都合無いでござるか?」

「うん、別にどこでも……ってうわ、なにこれ!? 廃屋なのに意味が分からないくらい高級そうなテーブルがある……」


 廃屋には異次元レベルで不似合いな純白の鏡面テーブルに、小春は目を丸くした。


「それはエリザ氏の失態でござる。それのおかげで拙者ら、危うく破産するところだったのでござる」

「へぇ、そんな事が……そういえばカールさんも意味が分からないくらい高級そうなジャケット着てたけど、あれは?」

「あれは必要経費でござる。異世界転生人たるもの、それに相応しい衣装を身に纏わなければならぬ故、ああいうジャケットは異世界転生人のデフォルト装備なのでござる。まずは見た目で一線を画す事から、というわけでござるな」

「あ、そう……」


 普段着で転生してきてそのままの小春には、いまいちよく分からない理屈だった。


「でも今日はそれ着てないみたいだけど、なんで?」


 もっともらしい理屈を掲げておきながら、しかしカールの今の服装はくたびれたシャツ一枚に履き古したズボンという、何からも一線を画していないモブ同然の格好だった。


「あれは…………先日のクエストで」


 カールの表情に影が落ち、眼鏡が眼球を隠す感じで鈍く光った。


 昨日のクエストの最中、井戸から這い出しそうな熊から逃げる際に道なき道を走り回ったせいで、ジャケットは枝葉に引っ掻かれてダメになってしまっていた。あのジャケットは完全に見た目重視だったので、防御力は布の服も同然だった。


「あぁ……だからそんな無課金アバターみたいな格好になってるんだ」

「拙者ただでさえチート能力皆無なのに、このような出で立ちでは村人Aも甚だしいでござる……」

「そんな濃い見た目で村人AならBから先は悪夢でしかないけど……まぁそれはどうでもいいや。それより、鏡ない?」

「鏡でござるか? ……そういえばこの家で自分の顔を見た記憶が無いでござるな。エリザ氏の部屋にならありそうでござるが、無論勝手に入ると殺されるでござる」

「まぁ、どうせそんな事だろうとは思ってたけど……じゃあ、これ」


 小春はバッグから手鏡を取り出して、カールに渡した。


「フム……」


 カールは受け取った手鏡で、様々な角度から自分の顔を眺める。


「ひょっとしたらこの物語の主人公は、痩せたらイケメンルートなのかもしれないでござるな……」

「寝言はいいから。……『配信ストリーミング』」

「……ム?」


 小春がスマホを操作すると、鏡の中の痩せてもイケメンにはなり得ないであろう太っちょの顔が、別の映像に切り替わった。


「これはクローニワの森……という事はこれはさしずめ、鏡をモニター代わりにするスキルといったところでござるか」

「そ。一応カット編集はしたけど、見られたくないところがあったら言ってね」

「心得た」

「んじゃ、スタート」


 小春がスマホをポチると、映像が動き始めた。


『はいっ、というわけで今回は…………なんと、異世界の森にやってきました!』


 聞き覚えのある口上から、動画がスタートした。


「…………」


 動画の内容は、だいたいが見知ったものだった。異世界の森にあるものを映しては、解説なり感想なりを述べている。キャンプ地で小春が単身で撮影にいった時の映像も、概ね似たようなものだった。


 動画は20分ちょっとで終わった。なお言うまでも無い事だが、カールの自分語りは当然のようにカットされていた。


「……どうだった? 何か問題とかあった?」

「……フム。では思うところを一つ」


 カールはレンズを光らせつつ眼鏡の縁をクイっと上げて、動画を見て悟った事を口にした。


「小春氏――お主実は新進気鋭でも何でもない、いわゆる底辺実況者でござるな?」

「――――」


 底辺実況者とは、チャンネル登録者数、及び動画の再生数が著しく低い実況動画投稿者を指す言葉だ。早い話が、面白くない動画を上げている人の事である。ただ、テレビのバラエティでよく見る芸能人がそんな感じの再生数を叩き出している例もあるので、底辺実況者だからといって『つまらない奴』であるとは限らない。決して、そういう奴はテレビの力で面白く見せかけられているだけで実際は何も面白くない奴であるとか、そういうわけではないのである。決して。


「…………。……い、いや、何を言ってるのかな? 何を根拠にそんな、ボクが底辺実況者だなんて……」


 小春の目が泳ぎ出した。もちろんカールは、小春の頬に流れた一筋の汗を見逃さなかった。


「根拠は二つ。まず、動画がつまらなすぎるでござる。先ほどの動画は風景や動植物を映しては一言付けていくといったスタイルなのでござるが、そのまま何のヤマもオチもなく最後までずっとそのままというのは、退屈を通り越してもはや睡眠導入剤でござる」


 要約すると、『あっ、道端にタンポポが咲いています。黄色いですね~』というのを延々と続けているような動画だった。たぶん最後まで見る奴は存在しないであろう感じの内容だった。


「そっ、それは……ほら、ボクってばまだ新人だから。だから動画が拙いのは仕方ない事なんだよ。うん」


 小春の言い訳じみた反論を、カールは意に介した様子も無く続けた。


「そして二つ目の根拠でござるが、その割に撮影や編集は非常に手馴れているのでござる。映像にブレやピンボケは無く、カットや字幕編集は非の打ちどころが無い。これは相当な知識と努力と経験が無ければ為し得ない事でござる」

「え……そ、そうかな。えへへ……」

「総括すると小春氏の動画は、編集技術が極めて高くなるくらい長くやってる割に内容がクソつまらないというものなのでござる」

「うぐっ……上げて落とすなんて なんて非道な……」

「故に、小春氏はいわゆる底辺実況者という式が成り立つのでござる。以上、証明終了。QED」

「う、ぐぐっ……」


 小春は反論しようとしたが、言葉が出てこなかった。


 何故ならカールの主張は、全てその通りだったからだ。



 こはるんチャンネル……古牧小春のニコチューブチャンネル。開設四年。チャンネル登録者数12、平均再生数40。近年は再生数の減少が著しく、動画を出すたびに平均値が減少しています。顔出し、及び自宅配信はしないので、本人特定の危険性はごく僅かです。



(などと異世界のスキル風にして改めて確認しても、やっぱりどうしようもなく底辺実況者……)


 底辺の理由は、全く以てカールの指摘通りだった。具体的に底辺たる所以の動画を一つ挙げるなら、今時メン〇スコーラをやるくらいセンスが壊滅的だった(もちろん暴れ狂うコーラを驚いた風の実況を付けながら映しているだけのものである)。


「……ふっ。ふふっ……」


 しかしそんな大ダメージ必至の事実に、小春は不敵に笑みを浮かべた。


「小春氏の情緒が不安定に…………これがいわゆる事実陳列罪というやつでござるか」

「事実は事実、受け入れるよ。ボクは底辺実況者だった。だけどね……ボクが底辺だったのは、あくまで『元の世界』での事なんだよ」

「ム……?」


 カールが怪訝そうに眉をひそめると、小春は勝ち誇ったように言った。


「この世界にいる限り、ボクは底辺実況者ではなくなるのさ。何故ならこの世界には――ボク以外の実況者は存在しないからさ! つまりこの世界ではボクこそがパイオニア、ボクこそがHI〇AKINなんだよ!」


 例えばメン〇スコーラ。今でこそ誰もやらない、そんな動画を上げたところで芸能人がやるでもなければ誰一人視聴しないであろう目新しさ皆無のコンテンツだが、発見当初は一大コンテンツだった。それこそ動画を出せば確実な再生数が見込めるという、空に向けて発砲すれば確実な収穫が見込めるリョコウバトみたいなコンテンツだったのだ。


 つまり何が言いたいのかと言うと、最初にやるという事はそれだけで大きなアドバンテージなのである。ナンバーワンなのである。HI〇AKINなのである。


「フム……確かにパイオニアこそ大正義という風潮はあるでござるが、しかしそれにも限度というものがあると忠言するでござる。いくら原初の動画とて、つまらなすぎれば誰もついては来ないと拙者思うでござる」


 HI〇AKINだって、ああいう動画を最初に上げたからというだけで今の位置にいるのではない。その動画に確かなクオリティがあったからこそ、彼はお〇スタに出るまでになったのだ。たぶん。


「フフン、分かってないなぁカールさん。ボクの動画がどれだけつまらなかろうが……いや、そこまでつまらなくはないけど、まぁとにかくつまんなかったとしても、それは大した事じゃあないんだよ。何故ならこの世界では、ボクしか動画を配信する事が出来ないからね。そう、ボクはこの世界では、パイオニアにしてオンリーワンの実況者なのさ!」


 動画のクオリティが多少アレでも、母数自体が少なければ再生数はかなりのものになる。ましてやそれがオンリーワンならいわんや、である。


「フム……確かに動画がそれしかないのであれば、再生数が内容に見合わぬほどに膨れ上がる事は否定出来ないでござる。例え動画がクソつまらなくとも、まぁ物珍しいしこれしかないし、とりあえず流しておくか程度の意識で動画を再生する者はかなりの数に上ると推測出来るでござる」

「ボクの動画がクソが付くほどのものかは後で審議するとして、まぁそういう事だね。この世界の環境なら、ボクは実況者としての覇権を握れるって事さ!」


 自信満々に小春は豪語した。


 随分と後ろ向きな覇権ではあるが、それは真理だった。例え日がな食っちゃ寝してるだけの男であろうとも、人類が彼唯一人だけならば、彼こそが『世界最強』なのである。もちろん、それに価値があるかどうかはまた別の話であるが。


「……まぁ、よしんばそうだったとして、でござる。それでどうやってお金を稼ぐつもりでござるか?」

「もちろん、広告を付けてだよ。動画の合間にCMを流して広告料を貰うって感じで。その辺りは元の世界と一緒かな。この世界にはレストランや雑貨店、武器屋とか防具屋なんてのもあるから、広告を出すお店には困らないしね」

「……フム」


 手法としては大いにアリだとカールは思った。しかもそれは現状小春にしか出来ないので、そういう宣伝をやろうとするなら小春に頼るしかない。それは広告業を独占しているようなもので、上手くすれば億万長者も夢ではないだろう。


「…………」


 しかしだからと言って、そう簡単に事が運ぶとは思えなかった。


 ここは異世界――外国よりも遥かに遠い世界で、文化様式も人々の考え方も、元の世界のそれとは異なるのだ。


「それじゃ、動画も問題無いみたいだし、ちょっとお店と交渉してくるよ」


 そんなカールの懸念などつゆ知らず、小春はウキウキ気分でリビングから出て行った。


「ふふっ、どうしようかな……競合してる二つの店から同時に頼まれちゃったりしたら」


 去り際に小春が、そんな事を口にする。


「あっ……(察し)」


 小春の先行きが確定した事を察し、カールは心の中で合掌した。




「ダメだったよ、なんで!?」


 案の定だった。


 家を出てから約30分。小春は今度はチャイムも無しに家に上がり込み、勢いよくリビングに転がり込んできた。


「この結果の推測は非常に容易だったでござる。だって家出る時きっちりフラグを立ててたからね」

「事業計画は完璧だったのに…………こんなの絶対おかしいよ」

「人々の考え方が元の世界とは違うという事でござるよ」


 小春の失敗の理由は、まさにカールの言葉通りだった。


 この世界の住人は、『優れた物を作れば必ず認められる』という意識を持って商売を営んでいる。彼らにとっての企業努力とは、自分の商品の良さを宣伝する事ではなく、品質の向上にただひたすらに努める事なのだ。web広告打ってインターネット掲示板でステマしてレビュー工作して豪華声優陣と銘打って、ガワだけ綺麗に見せかけた中身スッカスカのゲームで客からお金を巻き上げてやろうという根性は、この世界には未だ根付いていないのである。


「うぐぐ……確かに、『そんな事しなくてもうちの商品は最高さぁ!』としか言われなかった。この世界にはアカウント買いまくって高評価爆撃するような人なんていないんだ……」

「然り。動画で荒稼ぎしようなどと考えず、真っ当に働いて生計を立てるでござるよ」

「そ、そんなの嫌だっ……! ボクもソシャゲのお知らせを読み上げてお気持ち表明するだけの10分ちょいの動画で荒稼ぎしたい~っ!」

「誰かいるでござるなそれ……」


 小春はテーブルに突っ伏して、じたばたと駄々をこね始めた。


「しかしながら、こればかりはどうにもならないでござる。小春氏の言うような生活がしたいのであれば、ソシャゲ文化が発達するまで待つしかないでござる」

「そんな……本音で語ると言いながらその実運営からの案件を貰いたさがひしひしと伝わってくる運営持ち上げ動画(10分ちょい)でお金が稼げるようになるには、あと何年待てばいいっていうのさ……」

「だからそれ、誰かいるでござるよな……?」


 小春が肩を落とす。異世界でなら自分もあの有名ニコチューバーのように楽してお金を稼げる(小春主観)と思っていたのだが、元の世界と同じく全く上手くいかなかった。


「異世界でならボクだって成功出来ると思っていたのに……」

「どんな世界でも、地道に働くのが成功への一番の近道なのでござるよ」

「……さっきも思ったけど、それ一番カールさんには言われたくないセリフだからね」


 それは、この作品のタイトルの主語が如実に物語っていた。絶対に働きたくないでござる!


「それに関しては拙者も承知しているでござるが、同族の言葉なら響くと思った次第でござる」

「別に同族だからって親近感とか…………同族?」


 小春の眉がぴくりと動いた。


「小春氏も拙者と魂を同じくするNEETの者なのでござろう?」

「は、はは……何を言ってるのか分からないな。そもそもボクは義務教育中だよ? NEETになんてなりようがないじゃないか」

「その義務はきちんと果たしていたでござるか?」

「…………も、もちろん」


 小春は露骨に目を逸らした。


「……まぁ、敢えては追求しないでござる。拙者、失意の少女に追い打ちをかけるほど情け容赦なくは無いでござる故」

「あれっ、ボクが如何に底辺ニコチューバーかを正確無比に証明して見せたのはいったい誰だったっけ……」

「……ゲフン。それはともかく、別の金策を講じる事を勧めるでござるよ」

「ううっ……異世界ならクソゲーを褒め倒して運営からお金を貰うような生活が出来ると思ったのに」

「もういっそ名前を出してしまった方が潔いのでは?」


 いくらパイオニアでオンリーワンでも、システムが整備されていなければお金を稼ぐのは難しいのであった。


「はぁ……別の手段を考えるしかないか。この世界で動画が珍しいのは確かだし、最悪紙芝居みたいなのでもお金は稼げると思うけど」

「ついでに駄菓子を仕入れて販売するというのはどうでござるか? まさに往年の紙芝居屋のように」

「カールさんもしかして生まれた元号一つ前じゃない……?」


 とても24歳とは思えない発言に、小春は訝しむような目を向けるのであった。




 で、結局。


「街角で動画を流して見物料を取る形にしたよ。大道芸人みたいな感じかな。一応ボク吟遊詩人だし、まぁジョブらしいお金の稼ぎ方かなって。安アパートで生活出来る程度の収入だけど、労力に対する収入としては充分チートかもしれないね」

「フム……そこまで稼げるなら撮影交渉をもっとがめつくやっておくべきでござったな」

「そんな交渉が出来るほど動画にカールさんの出番はないからね。エリザさんならともかく」


 動画の内容はさほど面白いものではなかったが、物珍しさから結構な人が集まるようになっていた。それをあてにして露天商がやってくる事もあり、そんな彼らから礼金を貰う事もままあって、なんやかんやで小春は生活出来るくらいには動画で稼ぐ事が出来ていた。


 動画で生活するという小春の望みは、一応は叶えられた形となった。


「ただいま……」


 リビングでカールと小春が話をしていると、買い物に出ていたエリザが帰ってきた。


「ム……どうしたでござるかエリザ氏、覇気の失われた顔をして」

「おじゃましてまーす」

「あら、いらっしゃい小春。……いや、特に何かあったってわけじゃないんだけど。なんか私がクエスト生活している事が街中に知れ渡っているのよね……」


 買い物袋を置いて、疲れたように息を吐くエリザ。買い物中にいろいろあった事が窺えた。


「ム……? ひょっとしてそれは秘密にしていたのでござるか?」

「いや、別にそういうわけじゃないけど……ただ、いくらなんでも広まるのが早すぎるような気がするのよね」

「まぁ、猫探しの時の動画を連日流してるしね。そりゃあ知れ渡るってものだよ」

「ん……流す? 猫探しの? え、なにどういう事?」

「つまりこういう事でござるかくかくしかじか」


 カールはかくかくしかじかとエリザに説明した。


「な……なんですってぇ!」


 エリザが声を荒げた。


「あれ、顔出しOKって言ってたよね、確か」

「そ、それは言ったけど……でもなんか思ってたのと全然違う! 偉業を成し遂げた人を祭り上げるようなものじゃなかったの!?」

「そんな事は一言も言ってないでござるが……まぁ結果は似たようなものでござろう」

「結果だけ似ててどうするのよ! 道理で行く先々で『クエストで生計立ててるみたいだけど、住むところはどうしてるの?』って訊かれるわけだわ! 『ハハ……まぁ、ね。ハハ……』って苦笑いしか出来なかったわよ!」

「別に正直に話せばよかろう」

「話せるワケないでしょ!? 『あ、ハイ。空き家に容姿と言動がかなりアレな男と二人で住んでます』なんて言えるワケないじゃない!」

「フム…………やはり乙女心というものは拙者には理解し難いものでござるな」

「いや、これはそんな複雑なものじゃないと思うけど……」

「とにかく……小春! その、動画とやらを流すのを止めてもらえる?」

「うーん……エリザさんの意見は尊重したいけど、こっちも生活懸かってるしなぁ……」

「フム……では動画差し止めの代わりに、エリザ氏に新たな動画の撮影に協力してもらうというのはどうだろうか?」

「まぁ、代わりの動画を用意してくれるんだったら……」

「じゃあそれで決まりね。さっさと撮影しちゃいましょう」


 エリザが胸の前でパン、と手を叩く。体育会系らしい決断力と行動力の早さだった。


「もちろん拙者も協力を惜しまぬでござるよ。然らば早速提案でござるが、拙者の生い立ちについて本音で語る動画など如何でござるか?」

「キモオタニートの自分語り動画なんてチャンネル登録解除の理由として充分なんだよなぁ……。やっぱりここはエリザさん主役でやった方がいいかな。その方がウケもいいし」


 小春の面白くもない動画に人が集まる理由の一つに、エリザのカットが多かったという事があった。やや凶暴で少々脳筋ではあるが、エリザはかなりの美少女なのだ。


「フフン、任せなさい。今の動画とは比べ物にならないクオリティの私の姿を以て動画の差し止めを…………あれ、何かおかしいわね?」

「フム……ならば拙者が45秒で何が出来るかを検証する動画は如何でござろうか」

「カールさんを45秒ぶっ続けで映すのはキッツいかなぁ……」


 そうして三人は、新たな動画を撮影するために街に繰り出した。


 その結果、エリザがクエスト生活をしている事が更に広まったのであった。

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