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第三話 その3

 先が見通せないほど深く広大な森が、カールとエリザ、そして小春の前に広がっていた。


「はいっ、というわけで今回は…………なんと、異世界の森にやってきました!」


 スマホのレンズを森の入り口に向け、虚空に向かって語りかける小春。そしてしばらくスマホを空中に彷徨わせた後、画面をタップしてスマホを下ろした。


「……うん、バッチリ。よく撮れてる」


 今しがた録画した映像を確認し、小春は満足そうに微笑んだ。


「あれはあの子、何をしているの?」


 その様子を数歩引いた位置で眺めていたエリザが、同様にして隣に立つカールに尋ねた。


「あれは撮影でござる。風景を動画として記録しているのでござるよ」

「ふぅん……?」


 撮影と聞けば写真撮影としか結びつかない世界に住むエリザは、いまいちピンと来なかった。


 あの後、三人はギルドで臨時パーティー(クエスト一回だけのパーティー)を組み、捜索対象の猫がよく行っているというこの森――クローニワの森にやってきた。その大きさたるや想像を遥かに超えるもので、初見である小春はもとより、あらかじめ地図で確認していたカールでさえも、初めて目の当たりにした時にはしばし言葉を失うほどだった。


「二人とも、ちょっとこっち来て」


 小春が二人を手招きする。


「ふっ……ようやく拙者の出番でござるか」

「結局私たちは何に協力する事になってるの?」

「要するに、全世界に拙者らの姿を知らしめるというわけでござるよ」


 二人のクエストの手伝いをするに当たり、小春が二人に提示した『報酬の分け前』は、動画の撮影に協力する事だった。未だ異世界でKOJIKIしかしていない小春が動画撮影をするには、現地の案内役がどうしても必要だった。


「それは…………とても良い事じゃない」


 当然の事だが、インターネットの無いこの世界にはネットリテラシーという概念は無い。全世界に姿を知らしめるというカールの言葉……即ち、動画で自分の姿を晒すという事を、エリザは偉業を成した人が国を挙げて祭り上げられるのと似たようなものと捉えていた。


 そしてもちろん、パソコンとインターネットの世界に住んでいたカールには充分なネットリテラシーが備わっていたが……この世界では姿を晒しても特に問題は無いだろうと、カールは小春の出した条件を承諾した。この世界では、個人の住所を特定して嫌がらせをする人間が現れるほどSNSは発達していない。カールはそれこそエリザと同様に、偉業を成した人が国を挙げて祭り上げられる事とさして変わりは無いだろうと考えていた。


(有名になれば、握手会みたいなチョロいクエストで大金を稼ぐ事も可能になるかもしれないでござるなwwwドゥフフフwww)


 要するに、こんな調子だった。


「えーと……じゃ、ここに並んで」


 二人に森の前で並んでもらった後、小春は再びスマホを操作して撮影を再開した。


「えー、こほん。今回はこの森を捜索するに当たり、現地の人に案内を頼みました!」


 そう虚空に語りかけた後、小春はスマホのカメラを二人に向けた。


「エリザさんとカールさんです! 今日はよろしくお願いします!」


 小春が二人の姿を映す。心なしか、カメラはエリザ寄りで。


「こちらこそ、よろしくお頼み申すでござる」


 カールがカメラを占有するかのように、ずいっと前に出た。


「案内人のカール・ケーニヒでござる。まぁ案内人と言っても、拙者もこの森に入るのは初めてでござるが。しかしながら拙者は『地図作成』という、世界のあらゆる場所を地図として頭に浮かべられるスキルを所持している故、例え初めての場所でも拙者にとっては庭も同然、大船に乗ったつもりでいるといいでござる。小春氏と拙者は同郷の者同士、手と手を取り合ってクエストの攻略に臨む所存でござるよwwwフォカヌポゥwww」

「……はい、どうもありがとうございまーす。そして、エリザさん! 今日はよろしくお願いします!」


 カールに寄っていたカメラをエリザに戻す。画面内の不快指数が急速に減少した。


「……えぇ。こちらこそよろしく。今日はお互いに頑張りましょう」

「…………。……はい、えーと……それじゃあさっそく向かいたいと思います! ……はい、カット」


 小春がスマホのカメラを切る。


「どうでござったか? なかなかのカメラパフォーマンスだったと自負しているでござるが」

「あんな感じでいいのよね? ちょっと無難過ぎたかもしれないけど、掴みとしてはあんなものかしら」

「うん、まぁ……とりあえず」


 初めての撮影に手ごたえを感じる二人に、小春はまず率直に感じた事を述べた。


「台詞の分量、逆!」

「……ム?」

「はい?」


 二人がきょとんと首を傾げる。


「カールさんは喋りすぎ! 何行使ってんの! あと絵面が酷くなるからあんまり前に出てこないで!」


 カールのパートは太ったキモオタが画面の八割以上を占有するという、地獄のような絵面になっていた。これでは低評価後即ブラウザバックされても何も言えないので、当然カット対象である。


「フム……拙者の旺盛なサービス精神が仇になった形でござるな」

「逆にエリザさんは喋らなさすぎ。エリザさんは今回の動画の華なんだから、一言で済ませないで、もっとこう……視聴者サービス? 見てる人が喜ぶようなのをお願いします」

「空手の型くらいしか出来ないけど、それでいい?」

「それは…………またの機会に」


 逆にアリな感じもしたが、初回はスタンダードに行く事にしているので、エリザの申し出は丁重にお断りした。


「あとカールさん。さっきボクと同郷だとか手を取り合うだとか言ってたけど、そういう誤解を招くような発言はやめてよね。いわゆる男の影ってやつ、視聴者はものすごく気にするから」

「フム……あい分かった。確かに女性実況者の彼氏疑惑は、炎上の原因の最もポピュラーなものの一つでござるな」


 それは実況者としての去就をも左右するほどの事なので、女性実況者にとっては徹底すべき事なのである。マジで。


「しかし炎上を懸念するほどの女性実況者であれば、やはり拙者が知らないという事は無いはずでござるが……」


 そこまでの女性実況者となると、必然的に数が限られる。特に小春は歳も若く、ぶコ抜(ぶっさ、コミュ抜けるわの略)とは無縁の容姿なので、ニコつべのヘビーリスナーであるカールが知らないほど無名であるとは考えにくいのだ。


「……ほ、ほら、こないだも言ったけどボクまだ新人だから。で、下積み時代の火種って有名になってから燃え始めるでしょ? だからなるべく排除しておきたいんだよ。うん」

「フム…………それもそうでござるな。しかし新人の割には、やけに動画撮影に手馴れているように見えるでござるが……」

「い、今時の若い子は機械に強いんだよ」

「……なるほど。確かに今時の若者は、幼少のみぎりから複雑な機構の電子機器に触れているでござるからな。十字キーとAボタンBボタンしかなかった拙者の幼少期とは大違いでござるな……」


 今や十字キーの上と下で出来る事を、わざわざセレクトボタンという専用のボタンを用いて実行していた頃を思い出し、カールは懐かしい気持ちになった。ぶっちゃけ当時からあのボタン要らなくね? とは思っていたが、その手間さえもゲームを楽しむ重要なファクターなのであった。


「いや、あなたの年齢だとそれはそれでおかしいんだけど。それだと学生時代に電話のボタンプッシュで文字打ってた時代の人になるんだけど」




 撮影は順調に進んでいった。


「昔はここを開発して森林公園を作ろうって話も出てたんだけどね。群生してる植物や生息してる動物が危険とかいう話で、結局流れちゃったみたいだけど」

「へー……例えばどんな植物や動物がいるんですか?」

「…………危ない動物や植物よ」

「……そ、そうですか。以上、現地の方の貴重なお話でした!」


 撮影は続く。


「あ、こんな所に道があったんですね」

「然り。雑草の成長に伴い視認し辛くなっているでござるが、拙者にかかれば隠された道も丸裸同然でござる。先日の遺跡の開拓の時も、拙者の機転により窮地を脱したのでござる。そう、迫り来る巨大な岩石、さながらインディ・ジョー〇ズのような状況下にあって、拙者は冷静に地図を開き、隠された道の手掛かりを――」

「い、以上、現地の方の貴重なお話でしたありがとうございます!」


 そうして小一時間ほど撮影は続き、ようやく一段落ついたので小休止という運びになった。


「ちょっとカールさん! 隙あらば自分語り入れてくるのやめてよね!」

「フム……むしろ隙だらけなそちらサイドにこそ問題があるのではなかろうか?」

「いや隙見せなくてもねじ込んできたよね? さっきも聞いてもいないのに初めて魔物を倒した時の話をねじ込んできたよね? しかも武勇伝っぽく話してたけど絶対に話盛ってたよね。だってその体で飛び膝蹴りなんて出来るわけないもん」

「フッ……あの時半月板に矢を受けていなければ、この場で飛び膝を披露して見せるところなのでござるがな……!」

「小春、私は? 私はどうだった?」

「エリザさんは…………いいんじゃないかな、今のままで。うん……」


 小一時間ほどの撮影を経て、小春はエリザに対してだいたいの事を察していた。


 と、このように多少の問題はあれど撮れ高は充分、撮影は至極順調といった感じなのだが……


「で、猫は?」

「…………」

「…………」


 エリザの一言に、カールと小春は目を背けて口を閉ざした。


 撮影は順調だったが、クエストには全く進展が無かった。


「そもそもここによく来ているという情報が大して役に立っていない件」


 このクローニワの森はかなり広大で、その面積は日本最高峰の山の樹海の数倍もあるほどだ。加えて申し訳程度の遊歩道をひとたび外れれば、二度と元の道に戻る事が叶わぬほどの深い森に迷い込む事になる。そんな所によく来ていると言われても、範囲が広すぎて何の指針も立てられないのである。


「この森全部を捜索するのはさすがに無理だよね。日が暮れるどころの話じゃないし、危ない動植物も生息しているみたいだし。どんな動植物かは不明だけど。カールさんの地図には載ってないの? 猫の集会場になってるところ」

「さすがに地図にそのような記載は無いでござる。そもそもここの開拓はかなり昔に行われている故、例えあってもそれは『当時の』集会場という事になるでござる。……ジモッティーのエリザ氏には何か思い当たる事はないでござるか?」

「(ジモッティー?)……ここには小さい頃に二、三回来たくらいだから何も。さっきも言ったけど、ここの動物や植物には危険なものがあるから町の人もあまり近寄らないのよ」

「フム…………これは手詰まりでござるな。そもそも猫はここによく来るというだけで、生息しているに非ず。ここに来ていない可能性と常に半々なのでござる」

「それって……ここをいくら探しても無駄かもしれないって事だよね」


 小春がどんよりした表情で言った。


 どれだけ頑張って探しても、そもそもここにはいない可能性があるという、徒労である可能性を頭の片隅に置いた捜索というのは、体力のみならず精神をも削り取っていくのだ。


「然り。チョロいクエストかと思っていたでござるが、これは長丁場を覚悟すべき案件でござるな。日を改める事も視野に入れておくべきでござる」


 こういった捜索は、長く付き合う構えで臨む必要がある。決して無理はせず適度な時間で切り上げて、時には休日を挟んで英気を養って、心身共に常に万全の体勢で臨む事が肝要であり正道なのだ。


「あ、言い忘れてたけどこのクエスト、期限は今日までだから」

「…………。フム……きっと台詞の後半部分が若年層にしか聞こえないモスキート音で語られていたのでござるな。期限は今日までだからという事はないのでゆっくり時間を掛けて行うべき……とエリザ氏は言ったに違いないでござる」

「最年少のボクが言うけどエリザさんは間違いなくクエストの期限は今日までとだけ言ったよ」

「仔細の説明を要求するでござる」

「明日マダム友達とペットの見せ合いするんだって。だからそれに間に合わなかったら自動的にクエスト失敗、報酬もゼロよ」

「まずは頻繁に逃げられないようペットとの信頼関係を構築する事が急務のような気もするでござるが…………道理で割が良いはずでござる。いや、既に適正価格のような気がしないでもないでござるが。つまり我々には、あまり時間が残されていないというわけでござるな」

「そうね。でも闇雲に探しても……ってかそもそも闇雲に行ける広さじゃないし、何らかの取っ掛かりは欲しいところよね……」

「キシャー!」

「話の途中だが魔物でござる!」


 森林バニット×2が現れた!


「うわっ、何アレ!? ウサギ……にしては大きいし、なんか獰猛そうで微妙に可愛くない! 色もなんか緑色だし……あれは何!?」


 初めて魔物と遭遇した小春が色めき立つ。


「アレは森林バニット……主に森林に生息する、ウサギ系の魔物でござる! としか言いようが無いくらい、そうとしか言えない魔物でござる!」

「へー、あれが……すごい! やっと異世界っぽくなってきた! まぁこっちに来てからはKOJIKIしかしてなかったから実感出来ないのは当たり前なんだけどね! ところで今気付いたけど二人とも丸腰だよね。どうやって戦うの?」

「その質問はエリザ氏にしてほしいでござる」


 そう言いながら、カールは陣形で言うところの後衛の位置まで下がった。


「……カールさんは戦わないの?」

「開拓者のようなホワイトカラーが前線で戦うわけがないでござろう?」

「思いっきり足を使うジョブだよね、それ」


 そう言いながら、小春も陣形で言うところの後衛の位置まで下がった。吟遊詩人は正当な後衛職だった。


「時に吟遊詩人とは、戦闘において何が出来るのでござるか?」

「えーと、なんだっけ……固有スキルとかいうので、歌にバフ効果を乗せられるみたい」



 ワード・エンチャント(歌)……吟遊詩人の固有スキル。歌に乗せた詩に魔力が宿り、パーティー全体に詩の内容に則した効果が付与されます。効果量は使用者のレベルと曲の完成度に応じて変動。



「フム……ではさっそく頼むでござる。景気が良いのを一つ」

「無理だよ、ボカロPじゃないしボク。曲なんて作れないよ。もちろん詩も作れないけどね」

「とても吟遊詩人に適正があった者の発言には聞こえないでござる」

「なんか隠された才能でもあるんじゃない? 作詞でも作曲でもないやつが。全く見当つかないけど」


 実際は単に吟遊詩人になるために必要な条件が緩いだけであって、小春に隠された才能など存在しないのであった。


「まぁ……今更戦闘で役に立たないのは責めないけどさ」


 戦闘そっちのけで喋りをする二人を、エリザが呆れ顔で見ていた。


「おっとそうでござった、今は戦闘中でござる。拙者は防御コマンドを選択するでござるよ」

「右に同じー」

「いや、もう終わってるけど」


 エリザの後ろで、二匹の森林バニットが倒れていた。


「え、うそ、いつの間に……ってかどうやったの? 魔法?」

「いいえ。普通にこう、こうしてこんな感じよ」


 エリザがシャドー空手を繰り出す。空を切る音が聞こえてきそうなほどの、鋭い正拳突きと中段蹴りだった。


「あぁ…………異世界なのにすっごい物理」


 しかもステゴロだった。


「なんか全然異世界っぽくな――」



 ――真っ先に気付いたのは、小春だった。



 エリザからは死角の位置。木の陰から音も無く現れた森林バニットが、エリザめがけて飛びかかった。


「な――」


 ぞくりと気配を感じ、寸前でエリザが気付く。森林バニットはいわゆる雑魚モンスターではあるが、その鋭い爪は乙女の柔肌を裂くに足る鋭利さを有しており、エリザに悪寒を抱かせるには充分だった。


(やば、躱せない――)


 エリザが咄嗟に防御姿勢を取る。死ぬ事は無いが、痛みと出血は免れないだろう。エリザもそれを覚悟して、身を強張らせた。


「…………。…………?」


 ――のだが、それは一向にやってこなかった。迫り来る凶刃は、いつまでもエリザの手前で止まっていた。


「エリザさん、やっつけて!」

「……っ!?」


 小春の声で思考が戻る。エリザはひとまず疑問の一切合財を頭の片隅に追いやって、魔物に対してとるべき行動を実行した。


「ギジャッ!?」


 殴りやすい位置に止まっていた森林バニットに拳を叩き込む。森林バニットは悲鳴を上げ、そして頭の中に大量の疑問符を浮かべながら吹っ飛んでいった。


 今度こそ本当に魔物は全滅した。エリザが詰まった息を吐きだすと、戦闘の緊張が徐々に解れていった。


「……え、無事? 私、無傷?」


 目を白黒させながら、エリザは自身の体を確認する。


 エリザの体に傷は無く、強いて言うなら殴った拳が少しだけジンジンしているだけで、彼女は至ってノーダメージだった。


 それは何とも不可解な事実だった。何故なら森林バニットの爪は、確実にエリザに届いているはずだったからだ。


「フム……拙者の見た限りだと、あの魔物は空中で急停止していたでござる」


 一部始終を見ていたカールが、見たままを話した。


「空中で止まった、って……森林バニットにそんな能力あったかしら?」


 もちろん森林バニットに飛行能力は無い。それに例えあったとしても、あの場面でそうする必要は無い。いくら知能が低くとも、不意打ちを仕掛けておきながら絶好のチャンスで動きを止めるなどするはずがないのだ。


「フフ……今のはボクだよ、お二人サン」


 と、二人から少し離れた位置で、小春が少々のドヤ顔を浮かべながらスマホを小さく掲げていた。


「ム……撮影再開でござるか? 不意の魔物との遭遇にも、拙者は冷静に対応し必殺の飛び膝蹴りを――」

「いや違うし。あとそれ事実とも違うし。そうじゃなくて、あの魔物の動きを止めたのはボクだって事だよ。このスマホでね」

「……フム」


 その一言で、察しの良いカールは今の現象についての解答を得た。


「それが小春氏の『チート能力』というわけでござるか」

「うん。ギルドの人もびっくりしてたよ。こんなスキルは初めてだって……ほら、これ」


 小春が自分のパーソナルカードを二人に見せた。



 エクステンション(異界物質)……古牧小春の固有スキル。この世界に存在しない物質の機能を拡張し、特別な能力を発動させます。リソース不要。



「フム……パッと見なんの事か分からない辺りが非常にチート能力然としているでござるな」

「つまりスマホにすごい能力を付けられるって事だよ」


 かなりざっくりした説明だが、言っている事自体は一言一句間違っていなかった。


 この世界のものでない物に様々な能力を付与するスキル――これが、小春が異世界で得たチート能力だった。


「じゃあさっき魔物を止めたのも、この特別な能力ってやつなの?」

「うん。さっきのは『撮影スナップ』って機能で、被写体の動きを五秒間だけその場で止める能力だよ」

「……なるほど。それがあれば猫の捕獲も容易であるという事でござるな」

「まぁね。猫の捕獲に関してならもっと適したやつがあるけど、見つけさえすれば簡単に捕まえられるよ」


 得意気に言う小春。同じ世界から来た異世界人なのに、片や凡人、片やチート能力持ちと、二人の間には両極端というものを体現するほどの大きな隔たりがあった。


「拙者と小春氏、どうしてここまで差が付いたか……慢心、環境の違い」


 もちろんカールは大して気にしていなかった。カールはチート能力どころか一般的な能力すら持ち得ないが、メンタルだけはとても強いのだ。


 ともあれ、無事に戦闘が終わったところで、改めてエリザは言った。


「で、猫は?」

「…………」

「…………」


 現実に引き戻すエリザの一言に、カールと小春が口を閉ざす。今この瞬間においては、二人の間には何の隔たりも無かった。


「その板……スマホ? ってやつで、猫の居場所とか分からないの?」

「いや、さすがにそこまでは……」


 いくら万能無比のチート能力とはいえ、決して全能ではない。特にこのチート能力は小春の固有スキルなので、小春が「いや、さすがにこれは無理でしょ……」と思うような機能は付けられないのだ。


「フム……ならばやはり、心当たりを一つ一つ当たるしかないでござるな」

「その心当たりが無いから困ってるのよねぇ……」

「実は先ほどマップを立ち上げてみたところ、少々興味深い場所を見つけたでござる」


 このクローニワの森は非常に広大であり、しかも少しでも遊歩道を外れてしまうと、人間の足では普通に歩く事すら困難となる。カールたちが何気なく歩いて来た遊歩道も、それを作るに当たっては並々ならぬ労力と年月が掛かった事は想像に難くない。その上この森の地図を作成するとなれば、それ以上の労力と年月が掛かるのは必然だ。


 それに加えて昼間でさえ薄暗さのあるこの森は、陽が落ちればあっという間に視界が利かなくなる。この森は、開拓に掛けられる時間さえも他より少ないのだ。


 要するに――この森の開拓には、非常に時間が掛かるという事だ。


 そしてそういった場所の開拓には、必然的にあるものが作られる。短い時間を最大限、開拓に当てられるようにし、掛かる日数と手間を少なくするためのもの――即ち、


「この森の開拓、そしてこの森の開発の拠点となった場所……つまり、キャンプ地でござる」

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