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第十四話 その10

 ボルゾーイ流空手総本山、天守閣。


「よくぞここまで辿り着きましたな……」


 畳が敷き詰められた、最上階の大広間。エリザがそこに踏み込むと、部屋の奥にカールと禿頭の男の姿を見つけた。


「……あなたが最後の一人ってわけね」


 禿頭の男をラスボスと判断し、腕を鳴らすエリザ。


「おっと、私は黒幕ではありませんぞ。私はただ、このイベントの進行役を務めただけの者です」

「進行役? ……つまり腹いせにぶん殴ってもいい人って事?」

「……カール殿。エリザ門下生は普段もあのように気性が荒いのですか?」

「お主たちのやった事を顧みれば、ガンジーでもああなるんだよなぁ……」


 仲間を誘拐して戦わせるなど、ボコられても文句など言えようもなかった。


「ともあれ、お見事! これにてエリザ門下生は、ボルゾーイ流空手男女合同親睦会を修了したものとするッ!」

「あれ、名前違くね?」

「おめでとうエリザ門下生。ささ、カール殿をどうぞ」


 エリザにぶん殴られたくない禿頭の男は、カールを引き渡してさっさと帰ってもらう事にした。


「どうぞ、じゃないわよ。まず目的を聞かせなさいよ。えー、なんだっけ……男女合同親睦会?」

「男女混合三本勝負ですぞ」

「そうそう、それそれ。あれ、なんで私今、合コンみたいな名前を口にしたんだろ……」

「しましたっけ……したかな? してないと思いますぞ。で、ええと、目的ですね。目的は……」


 目的はもちろん男女合同親睦会なのだが、本当の事を言ったら己の身の安全は保証され兼ねるので、男は誤魔化すために禿頭を捻った。


「……実はあれは、昇段試験だったのです」

「……は?」

「三試合を行ってもらい、次の段位を与えるに相応しいかどうかを見極めるためのものだったのです。結果は残念ながら現状維持という事になりましたが……」

「いやいや……みんな私より段位低いし、しかも最初の一人は素人同然だったじゃない。そんな試合が昇段試験であるはずがないでしょ」

「……むむ」


 エリザの反論は非の打ちどころが無く、男は完全論破された形になった。


「…………。……ふっ、よくぞ気付いたエリザ門下生。今のはエリザ門下生の心を試したもの……そう、此度の試合はエリザ門下生の精神を鍛えるためのものだったのです!」

「…………。え、なに言ってんの? 通るわけないでしょそんなの」

「……ですよね」


 さすがに無理がありすぎた。


「……今回の件に関しては、カール殿が代わりに説明します」

「ファッ!?」

「なんとか丸く収まるよう頼みます……今日までの飲み食いの代金だと思って」

「強制的に連れてきてその言い草は草も生えないでござるが……」


 とはいえ、それにかこつけて普段はあまり食べられないようなものを用意させていたのも事実。図々しさの裏に、ほんの少しの後ろめたさが無い事も無かった。


「……まぁ、やってみるでござる。えーと、エリザ氏……」

「え、なに? まさかあんたもグルなの?」

「ファッ!? えーと、えー……女の子と触れ合いたいだけだったみたいでござる」

「ぬおおおカール殿ォ!?」

「いや無理無理下手したら拙者も共犯としてボコられるし」


 カールの後ろめたさは、エリザの一睨みで霧散したのであった。


「…………。つまり、私という美少女と触れ合いたいからこんな真似をしたって事?」

脳筋(エリザ氏)らしからぬ解釈の正確さでござるな……」

「…………。こうなっては致し方ありませんな……」


 怒りに燃えるエリザにもはや言い訳は不可能と見るや、禿頭の男は前に出た。


「もしかしたら私は、こうなる事を望んでいたのかもしれません……」


 ゆっくりと構えを取る。


「考えようによっては、この状況はくじ引きで外れたのに半ば合法的に試合が出来るという事。喜びこそすれ、嘆く事は無いのです」

「フム……いわゆる逆転の発想というやつでござるな。……時にお主はどれくらいの実力の持ち主なのでござるか?」

「こう見えて、二人目の男よりは段位はずっと上ですぞ」

「あっ、ふーん……」


 サリーナと比較しない辺りで、カールはいろいろと察した。


 こうして、エリザと禿頭の男とのエキシビジョンマッチが始まったのであった。


 詳細は省くが、結果として禿頭の男は金的に沈んだ。



「さて、と……」


 エリザは諸々(カールが大切な人ではない事の説明と交通費の請求)を済ませると、禿頭の男に言った。


「今日ここに泊まるから、部屋用意してね」

「は……?」

「次のクエスト、エルストに戻るよりここから向かった方が早いのよ」

「…………。だったら交通費を渡す必要は無かったのでは……」

「誘拐、強制猥褻未遂……ツーアウトってとこかしら」

「お部屋ですね、喜んで!」


 禿頭の男がてきぱきと部下に指示を出す。


「あ、部屋は2つね」

「それはもちろん、総本山で男女同衾などあり得な……あ、はい、お二人はそんな関係ではありませんね、ハイ。……では、いったい誰の部屋で?」

「それは――」


 エリザが言いかけたその時――天守閣の中央に、光が迸った。


「ファッ!? なんの光――!?」


 驚き、目を見開くカールと禿頭の男。

 その現象が予定調和であるエリザは、落ち着いた様子で言った。


「……この人の部屋よ」


 エリザが指した光の中から現れたのは――


「ふっ……この精度、もはや転送装置は実用化に至ったと断じてもいいわね!」


 白衣を着た不健康そうな女が、現れるや否や高らかにそう宣言したのであった。

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