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第二話 その5

 カモフラージュされていた道の先は、かなり入り組んだ構造だった。


「こうも分かれ道が多いと遺跡の所有者でも迷いそうね。……まぁ、それでもあんたは迷わないんでしょうけど」

「然り。ダンジョンがどれだけ複雑怪奇でも一度歩いた場所なら拙者、完璧な把握が可能でござる」


 開拓者の固有スキル『地図作成』により、カールの歩いた場所は地図に自動でマッピングされる。カールの頭の中のオリジン・マップには、ここまでの道のりが正確に記載されていた。


 隠しエリアに侵入してから小一時間。これ以上無いほど正確なマッピングのもと、二人の開拓は順調に進んでいた。


「その調子で出口の場所も把握していて欲しかったんだけどね……」

「それは叶わぬ望みでござるな。拙者のスキルはあくまで歩いたエリアをマッピングするというもの。未踏破のエリアは未知のままなのでござる」


 カールのスキルは『知っている場所を完璧に把握する』というものであり、知らない場所に関しては見当すらもつかない。例えるならヘンゼルとグレーテルが目印に落としたパンくずが鳥に食べられないような能力であり、お菓子の家の場所に関しては地道に探すしかないのである。


 まぁそれはそれとして、二人はとある深刻な問題に直面していた。


 今度こそ隠しエリアを開拓するぞと意気込んで歩き出した矢先、エリザの脳裏にふとある疑問が浮かんだ。


 ――さっきの岩石って、どこまで転がってくのかしら?


 一本道を転がる岩石の始点は、二人の終着点である行き止まりだった。


 ならばその終着点は、二人の始点である隠しエリアの入り口という事になるのではないだろうか。


 嫌な予感がした二人は新たな隠しエリアの開拓を一時中断して、来た道を引き返した。


 果たして嫌な予感は的中した。岩石の進路を辿った末に二人が見たものは……岩石に砕かれ、そして岩石に塞がれた、隠しエリアへの入り口だった。


 端的に言えば――二人はここから出られなくなっていた。


「それ以前に、他に出口がある保証も無いのでござるがwwwドゥフフwww」

「笑い事じゃないわよ……このままじゃ私たちあっという間に干物よ干物」

「キシャー!」

「ていっ」

「ギジャッ!?」


 通常エンカウントした洞窟バニットは、素早さが一番高いエリザの一撃(中段蹴り)で行動順が回る事無くノックダウンした。


「フム……ところで魔物という存在は食せるでござるか?」

「えっ……さぁ、知らないけど。……って、まさかこれ食べるつもり?」


 エリザが地面に倒れる洞窟バニットを指す。エリザが食べると言った瞬間、気絶しているはずの洞窟バニットがびくりと身を震わせた(ような気がした)。


「そうしたいのはやまやまでござるが……サバイバルEでは動物の解体はおろか火を起こす事さえ叶わぬ故、生食OKでない限り魔物食は不可能でござるな」

「それを聞いて安心したわ。……いや、むしろサバイバル技術が頼りにならない事を嘆いた方がいいのかしら……」


 ちなみに火起こしはD、動物の解体はBランク相当の技術が必要となる。Eランクで出来る事は、基本的にプライドを捨てるだけで実行可能なサバイバル術だけだった(拾い食い、KOJIKI行為など)。


「しかし、ここに来てエンカウント率が爆上がりしているでござるな」


 今の洞窟バニットで7匹目だった。初戦以降のエンカウントでは奇襲される事も無く、もれなくエリザの一撃で倒せているので今のところ大事には至っていないが、果たしてそれもどこまで持つか。


 忘れているかもしれないので改めて言うが、二人は手ぶらでここにやってきていた。食料も水も無く、且つ魔物の徘徊する場所では、そう長くは持たない。現実でのダンジョン探索はフィールド型ではなくローグライク型のRPGなので、何もしなくても腹は減るし疲労は溜まるのだ。


「まさかここまで複雑で広大だとは思わなかったわ……」


 現にエリザは少し疲れを見せていた。本来の彼女ならばまだバテるほどの運動量ではないが、初めてのクエスト、初めての魔物との戦闘、初めての即死トラップという、初めて尽くしのイベントが目白押しだったので、知らず緊張状態に陥っていて普段よりも多くの体力を消費していた。


 加えて出口が見つからないという精神的なプレッシャーもあり、この隠し通路に突入した時のような意気軒昂さは薄れていた。


「拙者のような元ホワイトカラー(自宅警備員)には少々キツいダンジョンでござるな」


 メンタルお化けのカールはそういった精神的な疲れとは無縁だが、単純に運動不足のため普通に疲労していた。


「しかし逆説的に考えれば、それに見合うだけのものが隠されているという事でござる。一攫千金も夢ではないという事でござるなwwwドゥフフwww」

「そんなものをほったらかして遺跡を放棄するかしら……私だったら当面の生活費を工面するために持ち出すけど」

「おいそれと持ち出せないような、巨大な何某である可能性が微レ存」

「だとしたら私たちも持って帰れないから、そうでないといいわね」


 と、何度目かの分かれ道を進んだ先で、二人はこれまでとは違うものを発見した。


「フム……これは」


 その道の先には、扉があった。進路を阻むかのように設置された、両開きの扉だ。


「あからさまに遺跡の最奥でござるな」

「最奥……という事は、この先にお宝が?」

「セオリー通りならそうでござるな。もっとも、大概はボスモンスターとの戦闘を挟むでござるが」

「ボスモンスター……」


 エリザは巨大な洞窟バニットの姿を幻視した。


「……持って帰れないかもしれないお宝と引き換えにボスと戦うのは、釣り合いが取れないわね……」


 それにまだ出口も見つかっていない。どれだけ遺跡が広いのかすら分からない現状、無駄に消耗するのは避けたいところだった。


「この先に出口があるかもしれないでござる」

「そんな事言われたら行くしかないじゃない……」


 この先に出口があるかもしれないのであれば、扉を開けるしかなかった。


「……どうかこの先が、お宝と出口だけがある部屋でありますように」


 ものすごく都合の良い祈りを捧げつつ、エリザは扉を押し開け――



 ――ガチャンッ!



「…………」


 扉は数センチほど動いた後、それ以降はビクともしなかった。


「エリザ氏ひょっとしてそれは引くのではござらんか? 手前あるいは横に」

「いえ、違うわ…………この手応えは私が間抜けなんじゃなく、単に施錠されているだけよ」


 よく見ると扉には、左右合わせて二つの鍵穴が付いていた。もちろんその形状はお馴染みの、前方後円墳のようなやつだ。


 そして更によく見るとこの扉、一面に彫刻が掘られていた。


 右は太陽、左は三日月。色こそ白一色だが、その彫刻から対と言ってもいいほど左右の扉は対照的だった。


「フム……察するに、太陽の鍵と月の鍵を揃えてこいというわけでござるな」

「鍵、って……そんなのあった?」

「通っていない道はまだ無数にあるでござるよ」

「…………」


 扉を開けるためには、隠された鍵を手に入れる必要がある……という事らしい。


この迷宮じみた遺跡を、端から端まで調査して。


「…………」


 それはエリザの目的である『開拓』と重なるが、そもそも隠しエリア侵入からここまでの開拓で、もう家に帰る条件としては充分だろう。これ以上の開拓は、少々オーバーキル気味だった。


「しかしながらノーヒントでそれを探し出せというのはクソゲーにも程があるでござる故、とりまこの彫刻にヒントがないか調べてみるでござる」


 しかも暗号めいたものまで解けという始末。きっと二つの鍵は、宝箱に入って道端に落ちているとかそういうのではないのだろう。難解な暗号からややこしい手順を導き出して十重二十重のトラップを潜り抜けてようやく手に入るとか、そういった類の代物なのだ。


(これは…………めんどくさい!)


 薄々感付いていると思うが、エリザは頭を使うのが苦手だった。体を動かす事に関してはボルゾーイ流空手の紅玉の段位まで上り詰めるほどだが、勉強に関しては赤点ギリギリといった塩梅だった。


「フム……太陽は半身が雲に隠れていて、三日月は雲一つ無い暗夜に浮かんでいる。いや、扉の色が白一色で統一されているという事は、暗に時間帯が同じである事を示している可能性も否めず。太陽と月で高さが全く同じなのも何かのヒントなのかもしれぬでござるな。遺跡は石材なのに扉は木製である事も何かの理由があるのかも…………フム。全く分からんでござるな」


 だからと言って、カールが頭脳労働を担当出来るかと言われれば別にそうでもなかった。


 エリザはカールに任せっきりには到底出来ないという事を悟り、扉の暗号解読に加わった。


「何か分かった?」

「皆目何も。扉の彫刻には何の意味も無い可能性急浮上中でござる」

「あぁ、そう……」


 役に立たないカールを尻目に、エリザも扉の解読を試みた。


「これは……」


 エリザはそっと扉に手を触れて、その形を読み取るようにして手を滑らせる。


 時間にして一分ほどだろうか。エリザはアンニュイな感じで小さく息を吐き、扉から読み取った情報を口にした。


「…………木製の扉ね」

「エリザ氏の見識が拙者未満な件」

「と、いうのがまず一つ。まず一つよ。まだまだあるに決まってるじゃない……」


 そう言ってエリザは、再度扉の調査に取り掛かった。


 しかしどれだけ調べても、木製の扉である以上の事は分からなかった。


(ふむ……この月と太陽、実はブーメランと鍋の蓋なのではないだろうか? …………そんなわけないじゃない)


 こんな具合だった。


 エリザの視界の端で、カールが疲れたように息を吐く。その様子はまるで、やはり遺跡を隅々まで調査するより他は無さそうでござるな……とでも言いたげな風だった(エリザ視点)。


(腹減ったでござる……)


 ちなみにただの疲労と空腹だった。


(くっ……!)


 そんなカールの様子に領主の娘のプライドが刺激され、エリザは一層ムキになって扉を調べた。


 しかし芸術方面に著しく疎いエリザには、まずただの扉に立派な彫刻が掘られている意味すら分からなかった。


(なんで開け閉めするだけの扉に彫刻なんて必要なのよ……)


 結局どれだけ調べても、扉が木製である以上の事は読み取れなかった。


「――――」



 だが、そうであったからこそ――悪魔的な発想が、エリザの頭に浮かぶ事になった。



「……ねぇカール。この遺跡がいつ頃造られたかっていうのは、開拓者の地図には記載されてるの?」

「……そのような記述は見当たらないでござるな。ただ、この遺跡の地図が初めて作成されたのは三百年ほど前と記録されているでござるから、築三百年以上なのは確定でござるよ」

「そう……それだけ分かれば充分だわ」

「何か天啓が?」

「ええ……降りてきたわ、天の啓示がね」


 自信満々にそう言って、エリザは扉から離れた。


「フム……拙者には皆目見当も付かなかった次第。いったいあの彫刻にどのような意味が?」

「ふっ……あんな彫刻、何の意味も無いのよ」

「フム……やはり拙者の見立て通り、見事な意匠である以上の意味は無かったというわけでござるな」

「さぁ……意味はあったんじゃない? でなきゃ開閉するだけの扉にあれだけの彫刻掘らないでしょ。知んないけど」

「……エリザ氏ひょっとして錯乱しているのでござるか?」

「まぁ見てなさい……これが、私の導き出した答えよっ!」


 扉から充分に距離を取ったエリザは、その距離を今度は助走に当て――渾身の跳び蹴りを、扉に叩き込んだ。


 果たして――扉は自分の家のドアからは絶対に聞きたくないような音を立てて、壁から外れた。


「扉は木製で、三百年以上ものだというなら――経年劣化しているに違いないので、破壊は容易いという事よ」


 QED、証明終了とでも言わんばかりに、エリザはインテリ風の不敵な笑みを浮かべた。


「どう? このエリザ・フィル・ドミナリアにかかれば、ざっとこんなものなのよ」

「さすがでござるなエリザ氏。見事な脳筋探偵っぷりでござったぞ」

「フフン、もっと褒めそやしてもいいのよ……今なんか変な枕詞付いてなかった?」

「進軍するでござる」


 壊れた扉を脇にどけて、二人は閉ざされていた部屋に入った。




 照明が独立しているのか、扉の先の部屋は真っ暗だった。


「なんか新しい場所に入るたびに真っ暗な気がするわ……」

「節電意識の高さの表れでござるな」

「たぶんそんな意識で明かりを切ってるわけじゃないと思うけど……」


 通路からの明かりを頼りに部屋を進む。


「目が慣れればいずれ全容も露わになるでござろう」


 罠を警戒し、慎重に歩みを進める。即死トラップを体験していた事もあり、今の二人に油断や慢心は微塵も無かった。



 ――ブミッ



「…………」


 とても既視感のある音がカールの足元から聞こえた。


 カールは恐る恐る足を――上げる前に、部屋の照明が一斉に点灯した。


「なっ……!? なにこれ、どうなってんの!?」

「フム……どうやら足元に電源のスイッチがあったみたいでござるな」


 カールが足を上げると、足の裏サイズの例のスイッチが顔を覗かせた。


「そう、足元に…………それ罠じゃない?」

「それより見るでござるエリザ氏!」


 カールは前方を指さした。


 そこには膝丈ほどの台座があり――そしてその上には、金色に輝く宝箱が置いてあった。


「あれぞまさしくお宝に相違ないでござる! 一攫千金が手をこまねいているでござるよ!」

「そ、そう……かしら?」


 興奮するカールとは対照的に、エリザは困惑したような表情を浮かべていた。


「どうしたでござるかエリザ氏? 晩のおかずが一品増えるやもしれぬのでござるよ?」

「うん、まぁ…………それより私はあれが気になるわ」


 エリザがカールと同じ場所を指さす。ただし、気持ち角度を上方に。


 そこには――宝箱の乗った台座の後ろには、白銀の甲冑が立っていた。剣の切っ先を地面に垂直に向け、柄頭に両手を重ねて置くという例のポーズで。


「フム……拙者にお主がマスターかと問うてそうなポーズでござるな」

「知んないけど……あれって絶対カタギの鎧じゃないわよね」


 どう見てもあれは、宝箱に手を出した瞬間にヤクザになるタイプの甲冑だった。


「さもありなん。しかしながら、だからといってそのまま見過ごすという手は無いでござる。何故なら我々は財宝を目の前にしているのだから……」


 そう言うカールの眼鏡の奥は、$マークになっていた。


「……まぁ、気持ちは分かるけど」


 何不自由無かった生活から一転、廃屋で寝泊まりするという急転直下を味わったエリザは、お金が無い事の厳しさを身に沁みて理解していた。財宝に目が眩むカールの気持ちはよく分かる。


 ただ、エリザは今回の開拓で再び何不自由無かった生活に戻れるので、カールと違って危険を冒してまでお宝を手に入れる必要性は皆無だった。


「危ない真似はよした方がいいんじゃない? ほら、ボロは着てても心は錦って言うじゃない」

「エリザ氏は気にならないでござるか? 古代遺跡に眠る財宝の全容とやらは」

「…………それは」


 お宝を手に入れる必要性は無いが、しかし興味はあった。本や博物館でしか見られないようなものを直に見られる機会など、そう滅多にある事ではない。


 それにエリザは、領主の娘とはいえ好き放題に散財出来るわけではない。エリザの経済事情は月額のお小遣い制で、その額も年相応の域を出ない。ゴールドカードのスキルがあるとはいえ、欲しい物を我慢する事も少なくなかった。


 だから、お宝を手に入れる必要性はエリザには無いのだが…………欲しいか欲しくないかで言えば、とても欲しかった。


「いや、だけど……うーん」


 欲に駆られて痛い目を見るのは馬鹿げている。現実でもフィクションでも、欲に負けた人間はプライドをズタズタにされつつ惨めな感じで痛い目に遭うのが常なのだ。


「どのみち出口を探すためにこの部屋を隅々まで調査するのは確定事項でござる。宝箱だけノータッチというのはあり得ぬ話でござるよ」

「それは…………そうよね。宝箱だけ無視するなんて、それは自然ではないわよね」


 決して欲に負けたのではない。出口を探すに当たって、これは避けられない事なのだ。そしてそれは欲に負けたわけではないのだから、必然的に痛い目に遭う事も無いのだ。


 そう自分に言い聞かせ、エリザは宝箱に手を出す大義名分を得た。


「然らば早速。来たれ金銀財宝我が手に……!」

「そう言えばいつの間にあの箱の中身が金銀財宝って確定したのかしら……」


 床に突起物が無い事を念入りに確認しつつ、二人は宝箱に近付いた。



 ――ギギギ……



「……ちょっとカール。今変な音したけど、あんたまた変なの踏んだ?」

否定ネガティブ。今現在拙者の足元は平坦な石畳でござる。それに今の音はブミり音とは違う、言うなれば油分の不足した金属が擦れる音に酷似していたでござる。加えて発生源も拙者の足元ではなく、もっと前方の……そう、ちょうど宝箱の先の甲冑の位置から聞こえたような……」

「なんだってそんな所から音が――」



 ――ギギギギギ……



「…………なんかアレ、動いてない?」

「…………動いてるでござるな」


 甲冑が動き出していた。


「な、なんで動き出してんのよぉ……!」


 錆びついた関節を軋ませながら、まるでゾンビをコマ送りにしたかのように動き出した甲冑は、ありていに言って不気味だった。


「フム……察するに宝を守る防犯装置といったところでござろうか。岩石の件もあってこの遺跡、節電意識と共に防犯意識も高いと見える」


 甲冑は未だ定まらない動きを見せているが、それでも手に持った剣はしっかり握っている辺り、その目的は明白だった。


「というわけでエリザ氏、任せたでござる」


 カールがスッ、と一歩身を引く。


「えっ、何が?」

「道中のようにバシっと頼むでござる。パンチなりキックなりであの甲冑をコテンパンにお頼み申す」

「は……? なに言ってんのよ、無理に決まってるでしょ」

「……ひょっとしてMP、いやTP切れでござるか? あるいはSPが?」

「知んないけど、そんな話じゃなくて。あんな鎧、素手で殴るなり蹴るなりしたら怪我しちゃうじゃない」

「……いやいやエリザ氏。異世界にそんな常識的な事なんて、そんなまさかでござる。異世界なら素手で岩石を割る事も容易いはずでござるよ?」

「あんた異世界を何だと思ってんのよ……」


 いくら異世界の人間でも、硬いものを思いっきり殴ったら骨折するのであった。


「……じゃあアレはどうするでござるか?」


 甲冑に視線を送る。甲冑は剣の切っ先を床に擦りつけるように引きずりながら、二人に向かって歩いてきていた。


「どうするって、そりゃあ……」


 体がほぐれてきたのか(鎧に体がほぐれるという概念があるのかは不明)、甲冑の動作は徐々に滑らかになってきていて、今や老年男性の歩行速度と変わらない歩みを見せていた。


「……逃げるしかなくない?」

「まぁそれしかないでござるな。幸い彼奴の歩行速度はさほどでもないので、ゆっくりと解決策を――」


 甲冑は剣を振り上げた姿勢で、二人への距離をじりじりと詰めていた。


「……なんかあいつ、早くなってね?」

「言われてみれば若干距離が近くなったような……」


 二人は話しながらもじりじりと後退していたのだが、いつの間にか甲冑との距離が近くなっていた。


「ねぇ、これって……」

「フム……体捌きの要領を得た、といったところでござろうか。関節部のぎこちなさが失せているでござるな」


 今や甲冑の歩みは、成人男性のそれと同等かそれ以上だった。


「……という事は、つまり?」

「回れ右でござるっ!」


 二人は回れ右をして駆け出した。


「結局こうなるのねっ!」

「なかなか一筋縄ではいかないでござるな……フヒィ!」


 背後に激しい金属音の足音を聞きながら、二人はダッシュで部屋から飛び出した。

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