虎
床の冷たさで目が覚めると薄暗い牢に入れられていた。
韻鉄に神器がない。腕輪はあるな。
ここは一体何処なのだろう?
暫くすると兵士がやって来た。なにも言わずにまるで荷物を運ぶかの様に移動させられる。
大きな門の前が音をたてながらゆっくりと開く。
久方ぶりの太陽に目が眩む。
辺りを見渡すと闘技場のようだ。夥しい数の兵士が取り囲んでいた。
大きな鐘が鳴ると兵士の一人が大きな声で「皇帝陛下万歳」と叫んだ。全ての兵士が復唱すると地面が揺れた。
兵士たちの目線の先には今にも事切れそうな老人が座っていた。
老人が手を挙げると静寂が訪れる。
向かいの門が開くと虎が牙を剥いて駆けてきた。
刀が目の前に置かれている。
「さあ、その力を見せてみよ。」
刀を抜くと虎がゆっくり動いていた。
背後に気配を感じ振り向くと全裸の女性が浮いていた。「ナッ!!」
『ナッ!!だって初心だね~。』
「貴女はいったい?」
『私は%&’()’神器だよ。まだその時ではないのに・・・・。』
「すまないが名前が聞き取れなかったのだが。」
『名前か・・・嬉しいことを言ってくれる。まあ、銘は追々わかる。それより今の状況を説明してやろう。』
胸が背中にあたっている。心なしかいい香りがする。
『私が魅力的なのは知っている。それより集中しな。今の状況は刹那の時に過ぎない1秒の1000分の1の速度で動いているだけだ総司も同じようにゆっくりとしか動けない。』
確かに動きずらい。
『200年経っても生きているのはこの力のお陰だから感謝するように。』
「体が変化しているのはどういう事だ?」
『稀有な事だが細胞が環境に適応しようとしての事だよ。サルが人になったのと同じだ。』
「そうか、腹が満たされないのも同じ理由か?」
少し寂しそうな顔をした。
『いいや、それは違う。虎を殺せばわかるよ。ただ今回は初めてだからお姉さんが助けてあ・げ・る。』
刀を持っていた手が急に軽くなった。勝手に腕が上がるそして上から下に振り下ろした。
『これでお終い。次に呼ぶ時は、せめて儀式が終ってからにしてね。』そう言うと消えていった。
会場がざわめき始める。
虎が襲い掛かってきた。鋭い爪が顔の近くまで来ていた。
目を逸らすと縦に一筋の亀裂が浮かんだ。すると虎が真っ二つに裂けた。
「やはり神器!待っていたぞ!」
「なぜこの様な事をする。」
「お忘れですか若様?まあ仕方ありません。よく馬になっていた男などお忘れでしょう。」
「馬?まさか・・・馬ずらの吉田か?」
「そう!その吉田ですよ。父君を亡き者にしミツルギ国を潰し今の私がある。」
「貴様!!貴様が父の敵か!!」
次の瞬間首に劇痛が走る。
「ぐあ!!」立っていられず跪くとニヤニヤしながら白衣を着た男が近づいてくる。
「これは電撃が流れる仕様でして動けないでしょう?ほら、ポチっと」
「ががあああ!!」
「意識を失いましたか。」
「万代!神器を解析し使える様にしろ。」
「かしこまりました皇帝陛下。」