楓
家に戻ると隕鉄が料理を用意して待っていた。
「お帰りなさいませ若様。調度夕飯が出来た所でございます。」
テーブルの上には豪勢な料理が所狭しと並べられていた。
席に着こうとすると隕鉄が驚いた顔をしている。
「まさか・・・お主銘を頂いたのか?」
頷く白雪を感慨深く見ている。「よかったな~。で?銘はなんじゃ?」
「白雪で御座います。」
「白雪か!良い銘じゃ!若様・・・ありがとうございます。」
銘を持つことは武人にとって名誉な事らしい。
「さて!食事に致しましょう。」
夕飯に舌鼓を打つ、しかしいくら食べても満たされない。
「若様は神器と供に居すぎたのか既に人とは違いますからな・・・。 」
「きっと神器が求めるモノが満たしてくれるモノなのでしょう。」
「神器が求めるモノか・・・一体何だろうな?隕鉄、神器の事をもっと知る為にはどうしたらいい?」
「そうですな・・・神器は元の・・・・若様・・・?」
言葉が遮られる。
「すまないよく聞こえないんだ。」
「もしかしたら神器が阻害しているのかもしれません。」
「阻害?知られたくないと言う事だろうか?」
「きっとそうなのでしょう。あまり深く考えず受け入れるしかありません。そういえば若様はこの先どうするかお決めになられましたかな?」
「暫くは、この国を見て回ろうと思う。そのあとの事はそれからだ。」
「わかりました。私と白雪が同行するならいいでしょう。」
「そうか、では頼む。」
~翌朝~
準備を済ませ里の外れまで行き小さな門を潜り振り返ると里は消えていた。
「ここから徒歩で半日ほど歩けばミツルギ城のあった所に出ます。今はスオウ帝国ミノ市といいます。ミツルギの名前はあまり出さない様にしてください。」
街に着くとここが城下町だと直ぐにわかった。
「あそこの料理屋は見覚えがある。確かナルト屋だったか?」
「はい。あそこは今や国を代表する老舗です。」
「なんとも不思議な気分だ。」
聳え立つ建物に走る鉄の箱、すれ違う者は煌びやかないで立ちだ。
「今日は祭りかなにかか?」
「いえ、今はこれが日常ですじゃ。」
「裕福な時代なのだな。民が幸せそうで良かった。」
「若様・・・。」
城があった所はここのはずだが、見る影もない・・・。
「少し疲れた。」
「宿を取ってまいります。」そう言うと隕鉄は走って行った。
「お気をお確かに。」
「白雪、大丈夫だ。」
隕鉄がくるまで暫くかかりそうだ。
城の跡地は何もなく堀を流れる川も少し汚い。
あんなに綺麗だったのに変われば変わるものだな。
「待て!!泥棒!!」
後方から大きな声が聞こえた。目を向けると店の店主だろうか大柄な男が走ってきている。
目の前に子供が勢い良くぶつかってきた。
「すまない。大事ないか?」
子供は頷くと走ろうとしている。腕をつかみ引き留める。
「まあ、まて擦りむいているではないか。」
「じゃまだ!ほっといてくれ!!」
勢いあまってパンがばらまかれた。
「はあ・・・はあ・・・あんちゃん・・・よくやった・・・そのコソ泥を・・・・こっちによこせ。」
よく見ると子供は身なり貧しく、やせ細っていた。
「妹が飢えて死にそうなんだ!!勘弁しておくれよ。」
「店主よ。今回は私が立て替えておくから勘弁してやってはもらえぬか。」
「いいや!勘弁ならねえな!こいつらミツルギの子孫はいつも盗みをしやがる。」
ん?ミツルギの子孫?
「小僧はミツルギの子孫なのか?」
沈黙が答えか。
「店主よ。これを持って今回は引いてくれ。」
財布を渡し手を強く握った。
「いてててて!わかった!だから離してくれ!!」
「二度とさせないと誓う!ありがとう!!さあ小僧行くぞ。」
「なんでミツルギのおいらを助けたのさ。」
「ミツルギの者なのだろ?当然の事をしたまでだ・・・だが盗みはよくない!二度としないと誓ってくれ。」
「若様それでは・・・」
「白雪!!今は小僧と話している。」
「小僧じゃない。佐助・・・。」
「良い名前だ。佐助、もう盗みはしないと誓えるか。」
「誓うよ。」
「男と男の約束だ。違えるなよ。早くいけ妹が待っているんだろ。」
「ありがとう。」そう言うと行き良い良く走って行った。
「白雪、隕鉄は何処に居るかわかるか?」
「たぶんこの先に。」
「では、行こうか。」
きっと、ミツルギの者は迫害を受けているのかもしれん。
憤りを感じ抑えながら隕鉄の所まで歩いた。
「隕鉄!!」
「若様!如何なされましたか?」
先程の経緯を話し終えると隕鉄が悲しそうにしていた。
「若様、一緒に来てください。」
隕鉄は一言も交わさず、ただひたすらに歩く。町外れまでくると先ほどの絢爛豪華な街並みとは違う街並みが見えてきた。
「ここがミツルギの者たちの住処でございます。」
「迫害を受け、国民としてではなく奴隷として生きています。もう何年・・・いや何世代にも渡りこの状態です。」
焚火の周りに見知った子供がいる。
「佐助!!」手を振ると走り寄ってきた。
「あんちゃん!!間に合わなかった・・・。」
「そうか・・・。」
「でもありがとう。約束は守るよ。」
「そうか・・・・。」
「泣くなよ・・・あんちゃん・・・・・・」
「こういう時は泣いて良いんだ。」
「楓・・・・。」
「それが妹の名前か・・・。」
泣く佐助を抱きしめて思った。
なぜ幼い子供が死ななくてはいけない世界になったのだろうかと。