はじまりの朝②
2人が頷く。
信じるしかないか・・・。
「200年経ったと聞いたが我が国はミツルギ国はどうなった?」
「実は、あれから義弟君が宰相になり国を盛り立てようとしていましたが、詐欺にあい隣国に莫大な借金を負わされ属国になり更に数年後にはスオウ国に無条件降伏をしミツルギ国は歴史上の国になっています。」
「そうか・・・。200年か・・・。」
外に目を向けると子供たちが走り回っていた。
「子供が元気に走り回っているなら平和な証拠か。」
彼女は神妙な顔をしている。
「若様ここは普通の人里とは違うのです。」
「どういう事だ?」
隕鉄が遮るように話し始めた。
「ここは人の理から外れた者の里です。神器を手にした者か某の様に神に武器にされた者が集う里、それがナトリの里です。」
「では、彼女も?」
「私はレイピアの武人です。銘もなくここから離れてしまえば只の武器になります。しかし韻鉄様のような銘がある方は上位の武人であれば人の姿のまま人里で暮らす事も出来るのです。」
だから名前を聞いても答えてくらなかったのか。
「これからいかがなさいますか?我等ナトリの里の者は若様について行きます。」
「すまない。今すぐには決めれない。少しこの里を見て回っても良いだろうか?」
「もちろんです。皆喜びます。」
外に出ると数件の家が見える。東西に真っ直ぐ道があるがその回りは不思議な光に包まれていた。
あの光は結界です。普通の人には見えません。
「この里には何人位住んでいるんだ?
「何人ですか?いえ、すいません。ここには全部で20のモノが住んでいます。内銘があるモノは5、あとは私のようなモノが15です。
「そうか。」
先ほどの子供たちが遊んでいる。
「あっ!!若様だ!!こんにちわ!!これあげる!!」
渡されたのは小さなお菓子で『やばい棒』と書いてある。
「ありがとう。」
「はやく元気になってね!ばいばい!!」
子供は手を振りながら走り去っていく。
「良い里だな。ちとあそこに見える丘まで行こうか。」
「はい。」
里を一望できる丘に登ると辺りを見渡す。
本当に200年後か。
丘の上から見える景色は異様だった。
巨大な建物がそこら中に見える。空を見上げれば煙を吐きながら飛ぶ鳥。
きっとあそこが城があった所だろうか。今は天にまで届きそうな櫓が立っている。
こんな世界で俺は何が出来るのだろうか。国王としてこれからと決意したとたん今は国すらないとは。
俺の事を知っている者も顔見知りもいない。
さてどうするかな・・・。
物思いに耽っていると緑色の風が見えた。
「なあ先ほども見えたんだがあの色のついた風?はなんだ?」
「それは精霊でしょう。見え方は違いますが色で区別がつく方は稀です。」
「そなたにも見えるのか?」
「幽かではありますが。」
精霊か・・・まるでおとぎ話の世界だな。
「ああ・・・これは参ったな~。」思わず声が出た。
すると緑色の風から笑い声が聞こえてきた。
『ふふふ。王が参っただなんて可笑しいわ。だっておうがまいった・・・オーマイガ!!アハハ!』
「なにが可笑しい!!」
「っ!!申し訳御座いません。」彼女が土下座している。
「いや。君に言ったのではないんだ。精霊が笑うもんで、つい。」
「精霊の声まで聞こえるのですか?」
「ああ。小馬鹿にされたよ。」
「ですが、素晴らしい事かと。私も文献でしか読んだことがありませんが、精霊の声が聞こえる者は王だけだと書いてありました。」
「王か・・・国もないのにな。」
アッという顔をして彼女は慌てながら取り繕った様に話し出した。
「でっでも私たちは若様についていきます!!だから・・・その・・・大丈夫です!!」
あまりの必死さに笑いが込み上げてきた。
「アハハハ!精霊の言う通りだな!これは面白い!!」
「そんなに笑う事無いじゃないですか。」
彼女は少し恥ずかしそうに言った。
「そういえば君はまだ銘が無かったんだよな?」
「はい。」
「それじゃ呼びずらい今から君は白雪と名乗るがよい。」
名を与えると彼女の体が光輝いた。
「若様軽々しく銘を与えては・・・」
「良いんだ。きっと白雪は俺の事をずっと見ていたんだろう?」
頷くと彼女の目が潤んでいた。
「それに名前が無いと呼びずらいじゃないか。今までのお礼と合わせて受け取ってくれ。」
「銘を頂けるなんて・・・ありがたき幸せ。」彼女は泣きながら感謝していた。
「白雪。俺は世界を見て回ろうと思う。そして俺に出来る何かを探そうと思う。」