隔離病棟
これは、病院不足に悩む、ある田舎町の話。
その田舎町は、都会から少し離れた山の中にあった。
田舎町とは言っても、寂れているわけではなく、
かといって都会というほどでもない。
年々若者が減ってきてはいるが、老若男女が生活をしている。
たまには住民同士のトラブルが起きる程度の規模の町だった。
その田舎町に不足しているものは特に無かったが、
唯一不足しているもの、それは病院だった。
その田舎町には病院がひとつもなく、
町の人達は、町の外にある遠くの病院まで通っていた。
ところがある日突然、その田舎町に病院が現れた。
「なんだ?あの真っ黒なビルは。」
「あんなところに建物なんてあったかな?」
「いや、どうだったかな・・。」
「どうやら病院みたいだよ。」
「誰か入ったことある?」
その病院の建物は真っ黒な見かけをしていたので、
その田舎町の人達の間ですぐに噂になった。
元々その場所に何があったのか誰も覚えていなかったが、
まるである日突然、その場所に現れたようだった。
不思議なことに、病院を開業するのに必要な手続きは、
いつの間にか全て済ませてあった。
「いらっしゃい、いらっしゃい。どんな症状でも診てあげるよ・・。」
その黒い病院の前では、黒衣を着たスタッフらしい人たちが案内をしていた。
その田舎町の人たちは、突然現れた黒い病院を不審に思い、
診察を受けに行く人はしばらくいなかった。
しかし、町には他に病院が無かったこともあって、
黒い病院は徐々にその田舎町の人たちに受け入れられていった。
黒い病院の中は一般の病院と大差無かったが、
ひとつだけ特徴的なものがあった。
それは、隔離病棟と呼ばれるものだった。
黒い病院で診察を受けて問題があると判断されると、隔離病棟に入れられる。
ここでいう問題とは、一般にいう病気とは違うものだった。
隔離病棟に入れられる人とは例えば、
偉い人の言うことに従わなかった人、
協調性がないと判断された人、
多数決に従わなかった人、
果ては、ゴミの捨て方や喫煙で揉め事を起こしたという人まで、
周りの人とトラブルになったと判断されると、隔離病棟に入れられた。
黒い病院に電話で通報しさえすれば、
問題があるとされる人を半ば強制的に連れて行ってくれた。
「電話一本で、患者さんを引き取ってあげるよ・・。」
電話をするだけでトラブルを解決してくれる便利さから、
黒い病院の隔離病棟は、
その田舎町の厄介者の送り先として使われるようになった。
隔離病棟が使われるようになってしばらく、
厄介者がいなくなったその田舎町の人たちは、平和に暮らしていた。
しかしそれがしばらくして、状況が変わった。
その田舎町のあちこちで、隔離病棟の人たちが優遇されるようになったのだ。
原因は、隔離病棟に送られた人の人数が、町の人口の半数を超えたからだった。
その田舎町では物事を多数決で決めていたので、
人数が多くなった隔離病棟の人たちの意見が通りやすくなったのだった。
隔離病棟の外の人たちがそれに気がついた時には、既に遅かった。
「さあさあ、今日は隔離病棟の人たちのサービスデーだよ!」
「お客さん、そこは隔離病棟の人たち専用なんだ。」
「隔離病棟の人たちが優先です。」
その田舎町に黒い病院が出来てからしばらく、
隔離病棟に入れられた人たちは自由を取り戻し、
その田舎町はすっかり隔離病棟の人たちのものになっていた。
今や隔離病棟の中が、その田舎町の中心だった。
「厄介者を隔離したはずだったのに・・・。」
「あ~あ、俺も隔離病棟にいきたいなぁ。」
厄介者を隔離病棟に送り込んでいた人たちは、
その厄介者たちに町の主導権を奪われ、
黒い病院を見上げながら自問するのだった。
終わり。
自分より数が多い相手を隔離しようとするとどうなるか、
それを表現したくてこの話を書きました。
特定の人を主人公にせず、町という集団を主役にしたつもりです。
お読み頂きありがとうございました。