グル‐風と共に生き、風と共に散る。草原を駆ける遊牧民族
グル、または蜀腫は、シージア東方、蓮国西方に住む遊牧騎馬民族の一団である。彼らは定住地を持たない遊牧騎馬民族であり、牧畜と略奪を主たる収入源として、草原地帯一帯を支配している。
信仰:ホンタイジ‐草原を駆る大神よ、数多の大地を踏破したまえ。我らは貴殿の現身となろう。
グルは、牧畜によって発展した集団であるため、他国と比べて土地に対する執着が薄い。その為、彼らの信仰するホンタイジは、元来神と呼ばれる者達が有するような明確な支配領域を持たない。彼らが信仰とする狼の化身ホンタイジは、草原を駆け、大地の末端を目指す「不完全な神」であり、他国から見れば「国境を踏み躙る厄介な異端」であると言える。グルにとって草原のさざめきはホンタイジの息吹であり、彼らが風を感じるその時、ホンタイジはまさに息をつき、大地を蹴るのである。故に、彼らの神は定住国家の信仰からは外れ、数多の大地を踏破しつくす事を目指す「彼ら自身」に身を委ねるのである。
文化的叡智
・騎乗
彼らは家畜の餌を求めて草原を移動しながら生活するために、簡易的に移動可能な手段を多く発明してきた。手押し車の代わりに西に荷馬車を発明する者があれば、東に家そのものを移動可能なテントを発明する者もある。彼らの交易は衝突と同義であり、移動の最中の戦闘に堪えうる騎馬戦術と共に、騎乗に関する技術が非常に発展している。馬を手足のように操りながら、武器を振るうその姿は、彼らの被害を受けてきた人々にとっても「美しきギャング」と表現されるほど見事な物である。
・ジャムチ
彼らは様々に移住する遊牧騎馬民族であり、明確な定住地を持たない存在ではあるが、いわばテリトリーのようなものは存在しており、季節ごとに定住するべき場所を設営するような集団もある。このような、半定住地化された集落を「ジャムチ」と呼び、これは彼らのうちでも特に東方に近い人々によって開発された制度である。彼らは付近のジャムチに定住しながら羽を休め、異なる部族の作った無人のジャムチなども不規則に利用しながら、各々の生活を営んでいる。この結果、様々な集団が各々の好き好きにジャムチを建設していくために、彼らは様々な「家の形」に応じて生活を柔軟に変えるという独特の進化を遂げる事が出来た。
このようなジャムチ制度は文化的寛容性を育み、彼らは自分達の略奪に対して服従する人々の集落や文化に対していちいち批判的にならない「宥和政策」を育むに至った。このような寛容性のために、ジャムチを見た人々はグル達の事を一種の「連邦国家」のようなものだと考えており、それぞれが細分化された国家主体のようなものだと考えている。しかし、彼らは相互に利益の衝突に対しては闘争を繰り返すのであり、空のジャムチを見つけられなかった人々の中には、周辺地域を脅かす蛮族となり替わるような者もある。
・クリルタイ
遊牧騎馬民族であり、まとまりを持った集団とは言えない彼らだが、明確な意味で全く相互の交流を持たないわけではない。彼らの間で行われる一種の会議の事を、「クリルタイ」と呼ぶ。
クリルタイは、特定の期間(この期間とは彼らの各々の暦の読み方によって若干のぶれが生じるのだが)に彼らが中心に据えた大駅站に集合して行われる、彼らのうちの代表者を選ぶ会議であり、この会議で選出された代表者が、対外的には「王」や「首相」と呼ばれる存在として扱われる。その為、クリルタイによって選出されたカーンが一部集団による他国への略奪を「不可」と判断した場合、彼らは一斉に、その集団を攻撃するようになる(ここでカーン側に付いている友軍の事をクリルタイ・バートルと呼ぶ)。このような不明瞭な支配体制を通じて、彼らは非常に大雑把な秩序を築いてきたのである。
国家の問題
・クリルタイ・バートルと大戦乱
先述の通り、彼らは指導者に意思に沿わない略奪行為をクリルタイ・バートルによって粛清するという緩やかな刑法を持っているが、必ずしも略奪が全て防がれるわけではない。現に、彼らは要求に応じなかった集落に対する略奪はほとんどの場合許容しているのであり、このような緩やかな支配がきっかけで、グル全体へ対する宣戦布告が成されることがあり、他国との衝突がたびたび生じるのである。
この場合、彼らは全てがクリルタイ・バートルとなって相手国を蹂躙するのではなく、中には、カーンの招集に批判を出して戦闘への不参加を表明する者や相手国の友軍となる集団も存在する。このような状況となった時、クリルタイ・バートル全体では彼らを反逆者として攻撃する事も出来ないため(ルールに背いた存在ではないため許容され、通常の武力衝突として処理される)、グル内部の小集団が各自で戦争を行うような状況が作られることがある。このような状況を、彼らは「カーンの勅命に背く事」を意味する「ウム・ジャルリグ」と呼び、こうなるとカーンは複雑な政治的選択を迫られることになる。
・中央集権の不存在による文明化の遅れ
彼らはカーンを中心とした内部統率機構を持ってはいるものの、基本的には小集団による緩やかな繋がりであり、明確な中枢を持つわけではない。その為、彼らは国家方針等によって一つの道を開発する能力を持たないでいた。その結果、技術的には大きな進歩をする事がなく、他の文明に比べて大きく後れを取っている。それを補うだけの騎馬戦が可能な点は目を見張るものではあるが、それを除けば彼らは完全なる「後進国」と見なされ、他国からは単なる蛮族として扱われていく事になる。