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千慮国‐現人神を祀る、東夷の島嶼‐


千慮国は、東方の島にある、閉鎖的な独自の文明を築いた海の皇国である。

千慮国の民は自らを東夷あずまえびすと名乗り、進化した造船技術と漁業技術によって、他国には類を見ない独自の文明を築き上げた。


 信仰:東皇あずますめら‐いとやんごとなき者、天津国より来たりける。千代も泰平を慮る者、東路の果てより政を始めけり。祖は八百万の神なり。現人神、即ち東皇なり。‐


 千慮国の信仰は非常に独特で、神を万物に宿るものと捉え、それらの八百万の神を束ねるにあたって、天津国から現れた神の血を継ぐものを神として崇拝する(これは蓮の信仰の柱である天命の思想を発展させたものと考えられる)。この血統者こそ、人としての有限の命を持つ唯一の神、即ち現人神「東皇」である。

 よって、千慮の国では信仰以上に東皇による統治にこそ神権の意味が問われる。東皇の選択が誤った場合、その神は「間違いを犯し」、東皇の行いが功を奏した場合に、神は「正しい行いをした」のである。

 このように、千慮国の神はどの国と比べても個性豊かで人間的である。何故なら彼らの神は「人」であり、人に宿る「八百万の神」であるからである。


 文化的叡智

  ・玉鋼

 玉鋼は、非常に純度の高い鋼鉄であり、千慮国で伝統的に行われている、木炭を使用して低音長時間に及ぶ製鉄を行うたたら製鉄によって生成される。

 他国と比較しても、玉鋼は良質の鉄資源であり、軍事的にも非常に優れた原料となった。

 この鋼鉄を用いて作られた片刃の剣である刀は、非常に細身かつ軽量で切れ味がよい。とはいえ、角度によって切れ味も大きく変わるので、刀を用いる場合には相当な鍛錬が必要である。

 刀の他にも、玉鋼はその性質を利用して様々な鉄製道具に利用される。鍛接の容易さから、強度の高い武具は勿論、やかんや火ばさみなどの日用品まで様々に利用され、千慮国の主要な二次産業を支えていると言える。


 ・寺・寺子屋・五孝

 彼らの信仰は常に万物に向けられている。その為、貴賤貧富の別こそあれど、あらゆる物質には神が宿り、出来る限り無駄なく尊重されなければならない。この考えを基に、彼らはあらゆるものを完全に使用不可能な状態になるまで徹底的に使い古すという、言ってしまえば「ケチな」循環経済の手法を編み出した。この真髄を纏めたものを「五孝」という。

 五孝では、まず使用するもの自体を最低限に抑える事(謙抑の孝)、使用中の物それ自体を、不要になった場合には他者の需要あるものに譲る事(再使の孝)、使用不可能になった物には再加工して新たに役割を与える事(循環の孝)という三つの柱を重視する(三孝)。これらの三孝に加え、完全に不要となったものは他の資源を損なわせない為に整頓して処分し(整地の孝)、これを遺棄する場合にも土に還り木材の養育の助けとなるように努める事(還林の孝)を含めた五孝によって、完全に無駄のない循環社会を作り出した。

 これを管理するために聖職者でもある寺の僧侶は幼少期から自分達の管理する地域(檀家)に向けて読み書き計算、加えて五孝の真髄を教え、また個別の家族もこの社会を維持するために教育をする。

 これらの知識が連綿と積み重ねられてきた結果、千慮国は他国と比べて非常に高密度の森林資源と美しい河川、海洋資源に恵まれた世界一美しく、識字率の極端に高い国家となったのである。


 国家の問題

 ・制限貿易と制御経済

  千慮国は、他国と比べて非常に無駄のない循環社会を形成している。服は三着もあれば事足りるうえ、使えなくなった後も再利用のための古着屋があるし、古着としても売れなければ雑巾にもなる。雑巾としても使え無くなれば燃やして灰にし、灰は洗剤の用を満たす。

 とにかく何もかもが循環し、利用しつくされるために清潔ではあるが、それ故に物自体の物価が高く、そして経済活動は非常にゆっくりとしたものになる。

 必然的に他国から流れてくる商品の価格は非常に安く、千慮国の無駄のない経済に圧迫を加えてしまう。

 そこで、彼らは他国との交易や経済活動に関してかなり神経質になり、必要最低限の取引以外を行わない制限貿易を採用してきた。

 この結果、彼らは非常に高い教養を、他国からの知識で昇華させる機会に恵まれず、巨大な科学的進歩を今までに果たしたことがない。勿論、彼らはそれでも満足に生活できているうえ、一度獲得した知識を発展させる能力は非常に高いのであるが。彼らが各国からの先進技術の流入と言う一つの衝撃を受けるのは、まだずっと先の出来事になるだろう。


 ・密集市街

 彼らの国は兎に角土地を開拓する事が少なく、同時に居住環境も非常に狭い。そのため、彼らは一つの建物に多くの世帯が住む「長屋」や、一つの建物を高くし、そこに幾つかの商店を構えるような、密集した住環境を持つ。

 この住環境自体はそれほど問題とならないのであるが、問題は火災や疫病などの影響を非常に受けやすいという点である。

 幸い、彼らは清潔で健康的な自然の中で生活しているため、他国と比べて疫病等の問題はそれほど生じていない。しかし、火災や災害だけは避けられないため、一つの災害で町が一気に壊滅するような事態に陥ったこともある。そして、その被害が甚大になるのは、受け入れ先のない「狭量な」住環境という、彼らの無駄を排斥する営みの負の遺産の為なのである。


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