インスコインス‐資源と資源に挟まれた、交易のオアシス‐
インスコインス連合王国は、点々と連なるオアシスに拠点を置く、砂漠の楽園である。彼らは多くの飛び地と未開拓地との間を取り持つ足であり、二つの世界の生命線でもある。
信仰:インドゥルゼント‐金貨が樽に落ちる音が聞こえた時、貴方の魂は救われる。‐
彼らは特産品を持たない後進国であった。彼らの発祥はオアシス周辺の小さな集落であり、多くの国が注目しなかったこのような地の住民が、必要な物を互いに運びあう為に交流した結果生まれた国である。そのため、かなり早期から、貨幣経済が発達しており、信仰も「硬貨の恵み」によるところが大きい。
彼らの生活が輸入品に溢れているように、彼らの神も輸入品だ。インドゥルゼントは、大穀倉地帯シージア公国に古来から伝わる伝承、「エン・ドゥルジア」の訛った形である。エン・ドゥルジアは、シージアのブロート神からの命により、地上に灌漑とを伝えた者であるが、インスコインス国民にとっての彼の偉業は、灌漑は従たるものである。エン・ドゥルジアはシージア内での開拓地を巡る争いに対する解決策として、道を作り、そして藁束製の紋章と共に互いに物を交換し合う事を提案した者である。これが神格化したのがインドゥルゼントであり、彼の直接の伝承とは異なる幾つかの要素として、新たに藁束製の紋章を硬貨に差し替え、そして、これを神に返すことで魂を救済する宗教を創始した。
そのため、インドゥルゼントは徹底的に施しを要求する。神の寛大なる行いの為には、まずもって硬貨を要求するのである。それは、古くより道によって世界を結んだ国が唯一持つ「資源」であって、それ以外のものを要求しないこと自体が、彼らの神の「寛大さ」である。
文化的叡智
・貨幣経済と先物取引
十全な食料自給率を持たないインスコインスは、まずは生活必需品の前に食料を獲得する必要があった。しかし、自分達には何もない。そこで、自分達が持っていないものを何者かに予め売ることを契約し、先に得た財を使って目的の商品を持っている場所から取り寄せ、予定期日に販売するという手法を編み出した。やがて貨幣経済が世界に行き届くと、自然とインスコインスは交通の要衝を抑えた国となって発展し、このような不安定な取引に依存する必要がなくなる。そして、彼らは以前行っていた先に契約を取り、それを元手として販売する手法を発展させた。これを「先物取引」と言う。
先物取引は、まず商品を特定の期日に一定の価格で買い上げる契約に始まる。その物の商品価値が、将来高騰する事を見越して契約をし、これを仕入れる事で消費に答えるのである。
また、逆に余剰の入荷商品を特定の期日に一定の価格で売る契約も行う。この場合、余剰の入荷商品の相場が下がれば、その差額が利益となる。
このような取引によって、インスコインスは非常に手際よく硬貨を手に入れる手法を得た。その結果、手に余る大量の硬貨を保管・消費する新たな手法をも生み出したのである。
・銀行と手形取引
まず彼らが編み出したのは、大量の余剰資産を保管する方法、即ち銀行である。銀行は大口の貯蓄に対して微細な保管料を支払わせるか、これを資本として異なる取引によって利益を得た。この制度の最も優れた点が、銀行を経由して概念上の貯蓄から、金銭のやり取りを行う手形制度を可能にしたことである。これによって、インスコインス国内、さらに国外支店を通して、全ての国家を金で繋ぐ巨大な市場が完成した。
国家の問題
・限界を迎える水源
インスコインスは、あらゆる生活が砂漠に出来たオアシスを中心に営まれている。それゆえ、彼らは常に水の管理を徹底し、古来より人身御供を騙った体の良い口減らしや、外地商人からの水の輸入によって、拡大する人口を維持してきた。
しかし、インスコインスの都市の中には既に水資源が失われつつある地域があり、彼らはついに、一つの商品によって、体のいい口減らしを思いつくに至ったのである。
・軍人奴隷
彼らは過酷な旅と蛮族への備えのため、読み書き算術などの基礎学問の他にも、様々な護身術を持っている事が多い。それらの護身術を利用して、彼らは子が「増えすぎた」場合に、これらを他国へ軍人奴隷として売り出すという商売を始めたのである。この騎馬戦術と奇襲攻撃、護衛任務などに長けた軍人奴隷をマムルークと呼び、彼らは外交・行政にまで枝葉を広げる教養と優れた軍事的素養を武器に、後に他国で重要な地位につく事になる。
賢人ではない年老いた老人は砂漠に捨て置き、余りに増えすぎた青少年は奴隷として売り飛ばす……。彼らは硬貨への信仰と生活の恵みの為ならば、優れた「人」さえも商品にするのである。