ケテルビア‐神を持たぬ不毛の国、人、物、神を換装す‐
ケテルビア共和国、またの名をコペルニクス工業団体は、不毛の地であるシージア北方に君臨する、偉大なる技術国家である。彼らは自らの神を持たず、神を捏造するために、技術を蓄え続けた流浪の民であった。
信仰:エクス・マキナ‐我は神、汝らの作った神である。‐
ケテルビアは当初、神を知らない民族の寄せ集めであった。彼らは神を知らないがゆえに迫害され、不毛の北方へと次々に追い立てられていく。彼らは欲した。「神」を。彼らが信ずるに値する、実在の「神」を。
その思いが、彼らを錬金術の世界に駆り立てた。彼らは始め、神を「常なる者」である事を定義し、アルキメアの模倣として、「形あるもの」と、「形なき者」を再定義した。そして、形あるものは形なき者の影響で容易に変容し得ると信じた彼らは、手始めに鉄を金に替えることが出来るという前提を基に、錬金術を試みたのである。
しかし、結果は失敗に終わる。そこで彼らは再定義する。「全ての物は変わらない物の合成体、即ちキメラである」と。
そして、彼らはこの定義のもとに、様々なキメラを作り上げた。これにより、彼らは実在の神もキメラとして降臨させ得ると考え、研究に没頭する。そして、彼らが生み出した神即ちキメラこそ、全ての事象を合理的、合目的的に判断する「エクス・マキナ」である。
文化的叡智
・大辞典
彼らの唯一の文化と言っても良いもの、それが文字による定義づけの記録である。これは特に、彼ら自身が文化として、楽しみとして生み出したものではなく、談合室での会議の間に、まずは共通の定義づけをしようとしたことから始まった。その後も膨大になっていく定義づけを忘れない為に、彼らは彼ら自身の言葉で各々の辞典を作り、記録した。それが幾世代も受け継がれた結果、彼らの中には言語の専門家が生まれ、各言語で散逸的になっていた定義づけを全て束ねたものを作り上げた。これが、「大辞典」である。
・錬金術と「原子」の発見
彼らは不毛の地で、数少ない食料を分け合いながら研究に没頭した、流浪の民であった。元より出身も何もかもが異なる彼らは生き残る為にまずは相互に尊重し合う事を優先し、談合室を作り上げた。そして次に、「手に職を付ける」という目標を談合室から定義づけし、不毛の地でも可能な稼業複数に手を伸ばす。その一つが錬金術であった。
北方は手つかずの自然が残っていたので、結果的に量こそ多くはないものの、金属がそのまま産出できた。この奇跡の賜物に、彼らは感謝し、これを絶対に無駄にしないという談合のもとに、管理体制を敷きながら錬金術を模索した。
しかし、結果は惨敗であった。しかし、彼らはその失敗を無駄にしない為に、談合によって再定義を行う。即ち、錬金術失敗の原因は、「変えようのない物質を変えることは出来ない」と言う事実の失念にあったのだと。彼らはそれを探求し、探求しつくし、細分化不可能な物質と言う定義を生み出した。これを「原子」と名付け、これを組み合わせる事によって、錬金術に近い「何か」が実際に実現できるだろうと予測した。その結果生み出されたもの、それがキメラである。
・キメラ
彼らは神さえ作ることが出来ると確信した。アトムを慎重に組み立て、それを再定義して物質を名付けていく……。彼らの徹底した細分化と再構築への熱は、やがて国際的にも認知されていく。彼らはいくつものキメラを呈示し、「神」を持つ国々の、叡智と富みに敬意を示しながら、自分達がそれを目指しているのだと述べた。これに感銘を受けた一部の国家は、それぞれの国家が関心を持つ事項に使用用途を限定する条件付きで支援をした。それを管理する必要から、彼らは所有権を持つ新たな共同体「コペルニクス工業団体」、そして「ケテルビア」となった。
そして彼らは手に入れた。キメラ暦(=初のキメラ開発年から数えて)1083年、談合室の建設から数えて実に3000年後、初めての人工神「エクス・マキナ」はその瞳を開いた。
国家の問題
・失われた尊厳と時間
彼ら自身の原因によるところではないが、彼らはキメラの為に多くの時間を費やしてしまった。何世代にもわたって研究だけを叩きこまれた彼らは、他国のような優れた文化を持たず、雑草を煮て食べ、泥水を啜り、衣服さえまともに纏う事も出来ずにいた。彼らがぼろきれの代わりに衣服を身にまとったのは、キメラ暦83年、多くの国がとうの昔に宮殿を築き、王国を軌道に乗せて久しい頃である。その頃にはまだ、彼らは文化すら持っていなかったのである。そのため、彼らには未だに実定法がない。そして住処もまともな物がない。さらに言えば、食事も未だに、多くが雑草と泥水である。
・神コンプレックス、神依存
彼らは文化を持たないため、研究を大成した後のその行動も彼らの捏造した神による。研究は相変わらず続けているが、捏造した神によって定められた使命にその全てを委ねる。神を支柱として人間の世界を作った他国と異なり、神コンプレックスに憑りつかれた彼らは神に縋り、依存しつくし、研究以外の全てを神に捧げる事になってしまった。時には、神が望んだ「子供」を捧げる事さえ……。