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シージア‐世界の胃袋、大地の中央に鎮座する‐

シージア公国は、大穀倉地帯として名高い、大陸中央の大公国である。

 この地を治めるシージア公爵は、各国に穀物を大量に輸出し、これを国家の収入源としている。かの公爵が注目するのは、シージアよりはるか遠く、不毛の地の需要であって、公国内部の食料自給率が突き抜けて高いシージアでは、殆ど穀物が売られていないとさえ言われる。


 信仰:ブロート‐主は我らの大地にパンの実を植え、それを広げよと仰せられた‐

 彼らの信仰するブロート神は農作物という、徹底した実態のある富を与える神である。ブロート神の手なるパンの実の奇跡は、シージアを大開拓信仰へ導いた。彼らは「膨らむ」パンと「広がる」農地に執心し、ブロート神の恵みのもとで、その地にあった穀物を研究開発しながら、無理矢理に農地を開拓した。その結果生じた多様な食文化と、実物としての「富」は、彼らの信仰の柱となって、ブロートの心臓たるシージア公爵のもとへと届けられ、ブロートの血管である道路を通り、肉体たる世界の隅々まで届けられるのである。


 この国は黄金色の稲穂、麦穂、燕麦から粟、稗まで、様々な穀物が育てられている。効率化された生産を担うのは、見た目もみすぼらしい農民たちで、彼らは決まって秋の時期には人を轢き殺しそうな速度で、王都へと馬車を走らせるのであった。


 文化的叡智

 ・クロイツブロート

  シージア特産のパンには、必ず十字の焼き印が押されている。この焼き印は一つの市場を作り出しており、まず焼き印を作る専門の鋳工がおり、そして専門的な知識を得た「公認パン職人」の為の学園が存在する。パンの生産に対して抜かりないシージアでは、この公認パン職人以外がパン屋を開く事は許されず、処罰の対象となる。公認パン職人になる為の資格は以下の通りである。


・学園での学位授与を受けている事

・パン焼き窯で2年以上修業を積んでいる事

・公認パン職人試験で優秀な成績を修めたもの

・パン焼きツンフトよりクロイツブロート用の焼き印を受け取る事


 これら4つの条件があって初めて、彼らは自立したパン職人としての地位を得る。彼らの作るパンが世界で類を見ない評価を得るのは、このような徹底した管理体制のもとでパン文化を発展されたためである。


 ・パン焼きツンフトと既得権益

  パン焼き職人へ対する比類ないこだわりと共に、彼らの中にあるパン焼きツンフトへのイメージは一種の信仰の体を為している。様々な手工業者組合ツンフトの中で、パン焼きツンフトだけが祭壇を持つことを許され、周辺地域の人々は、安息日には必ず公堂と共に、このパン焼きツンフトの祭壇に訪れて祈りを捧げる。ここでの参拝料は、学園の運営費に三割、周辺の農民たちに五割、残りの二割をツンフトが祭壇の運営費として利用されることが決められている。周辺の農民たちへ対するこのような配慮は、この国が徹底した農耕文化の中で育まれた国であることを示している。しかし、その拡大政策の失態を背負わされるのは、やはり最下層の農民たちなのである。


 国家の問題

 ・大開拓の代償

 そもそも、この国が国外へ穀物を輸出する理由は、行き過ぎた開拓に起因する。信仰の領域にまで達した徹底した農耕民的富の思想は、信仰の実物主義を生み、そしてそれを生み出すための大開拓によって賄われた。

この結果、パンの技術に反比例するように、穀物の国内価格が大暴落する。そして、これは、最も恵まれたはずの農民に飢えの苦しみを与えるまでに至った。ここに初めて危機感を抱いた政府が対外貿易に力を入れたとしても、それにはやはり限界がある。大開拓は信仰の柱でありながら、彼らの血肉とはならず、試練の時を与え続けているのだ。


 ・粉ひき迫害

 信仰の柱であるブロート神は、富を増やす事に執心する。その為、実物を目減りさせる存在に対して、国民は徹底的な蔑視を向ける。その顕著な例が「粉ひき」である。彼らは脱穀によって穀物の可食化を試みるため、不要な部分である襖を寄り分けて再分配する。当然、彼らの行動によって、実物としての小麦は「目減り」する。パンは酵母によって「膨らむ」ため、信仰の対象足り得た一方、実物を目減りさせる粉ひきは文字通りの賤民として、非常に嫌われた。彼らの仕事が例え世界の胃袋を支えたとしても、それを嫌う姿勢を拭う事は出来ない。


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