もらい湯
僕がまだ幼かった頃、近所にさっちゃんという一つ年上の従姉の一家が住んでいた。
さっちゃんの家にはお風呂がなかったので、僕のうちまでもらい湯に来ていた。その頃はまだ僕の田舎には、もらい湯という習慣が残っていたのである。
ときどき僕はさっちゃんと一緒にお風呂に入らされることがあった。そんなとき、さっちゃんは僕のからだを洗ってくれたりした。
「男の子って変なものがついてんだね」
「痛いよ、引っ張らないでよ」
僕が拒むと、さっちゃんはますます面白がって、引っ張ろうとするのだった。仕返しをしようと思ったが、さっちゃんには何も付いていなかった。
「いいなあ、あたしもほしいなあ」
「やだよ、あげないよ」
さっちゃんはつまらなさそうに、湯船に入った。僕もあとに続いた。
「来月、あたしんちにも、お風呂ができるんだ」
「ふうん、そうなったらもう、いっしょにお風呂には入れないね」
「あたしももうすぐ小学生になるから、男の子といっしょにお風呂に入っちゃいけないんだって。お母さんが言ってた」
「どうして?」
「知らない」
翌月、さっちゃんのうちにお風呂ができた。それ以来、さっちゃんたちがもらい湯に来ることはなくなった。僕は何だかちょっと寂しい気がした。
それから年月が流れ、ふたたび僕はさっちゃんと一緒にお風呂に入っている。
そう、僕とさっちゃんは大人になってから愛し合うようになり、とうとう結婚したのだ。
そうして僕は、さっちゃんと一緒に湯船につかりながら、幼かったころのことを思い出しては、語り合っているのである。