野球漫画のその後
※1300文字の超短編です!
※野球漫画のその後をひねくれて書いてます
野球漫画のその後
今日何度目かわからないあくびをした
今年で30歳を迎える俺は、トラックに乗りながら変わらない景色をぼんやり眺めていた。
仮眠をとったばかりで眠くはないが、どうしようもなくあくびが出る
退屈なのだ。
10年以上も前
何の変哲もない普通の高校に入学し、毎日テキトーに過ごしていた。
昼休みも友達と何のためにもならないくだらない話で盛り上がり、放課後は速やかに帰宅する。
そんな繰り返しだった。
かわいい女子はたくさんいたが、面倒くさかったのと、どうせ無理だという思いから付き合いたいとはならなかった。
…まぁ、あこがれていなかったといえばウソになる。
怠惰な生活を送っている自覚はあった
それでも変える気はなかった
そんなある日の昼休み、校庭側の窓辺に腰かけていると、後頭部に強い衝撃が走った。
そして気が付けば俺は保健室の天井を見ていた。
どうやら気絶してしまったらしい。
まだ痛む頭を押さえながら起き上がると、心配そうに見つめる結構かわいい系の女子生徒と、背もたれのない椅子で仰け反りながらも爆睡している男子生徒がいた。
話を聞けば、女子生徒の方はまだ人数もそろわない野球同好会の監督だそうで、男子生徒の方は、将来有望だが強豪校にはいきたくないと意地を張った豪腕投手らしい。
そのあとほどなくして俺は、なんの気まぐれか野球同好会に入ってしまう。
たぶん、女子生徒…いや、監督が気になってしまったのだろう。
俺が入ってからはものの1か月くらいで、野球ができるメンバーギリギリの9人が集まり、なんとか先生方と生徒会を説得して部活動として成り立つようになった。
部が設立してたった1週間で県内トップクラスで甲子園常連校との練習試合。
5回コールドすらならない3回で90点も取られるという大敗。
それでも最後まであきらめなかったあの豪腕投手の姿は今でも覚えている。
敗因は豪腕投手が全力で投げれなかったこと。
デブだからという理由だけで選ばれた、キャッチャーの俺がまともに捕球できないのだから当然だろう。
そのあとも何度も練習試合をやって、何度も負けて、たくさん練習して、死ぬほど汗を流した…
そして、高校最後の県大会。
初めての練習試合で大敗した強豪校が相手だった。
その時の俺の手に収まったウイニングボールの感触は今でもはっきり覚えている。
初の甲子園
豪腕投手は甲子園優勝だ!と叫んでいる
監督は少し涙目になりながら嬉しそうに笑っている。
ほかのメンバーも個性は豊かで何度も衝突したけれど、この時は一つになれたと実感した。
残念ながら甲子園は準決勝で豪腕投手が怪我したことで優勝はできなかったけれど、俺の人生の中で一番濃密な時間を過ごせた。
そのあとは、豪腕投手はもちろんメンバーのなかでも数人ドラフトに名前が挙がり、プロ野球選手として今でもテレビに出たりしている。
ちなみに豪腕投手と監督は卒業した年に結婚したそうだ。
3年間ずっとキャッチャーだった俺にもプロ野球の道は当然あった。
でも断った、ずっとスポーツをしてこなかった俺はたった3年間で体を酷使しすぎたのだろう、本来ならあの剛腕投手よりも先にドクターストップがかかってしまうところだ、自分の根性をほめてやりたい。
トラックのハンドルを握りながらも俺は時々高校時代を思い出す。
キャッチャーミットにボールが収まる快音は俺の耳の中でまだ響いている。
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