こんばんは、ガチャです。
皆様、こんばんは。いろんなところに引っ張りだこなわたし、ガチャです。
毎日毎日いろんなところで、石と通称ばれる物と皆さまの運気をいただいて結果を返す、そんな存在でございます。
昔はのんびりしてました。なんせコインを入れられてレバーを回されて、それでカプセルをコロコロ皆様にお届けしていただけのごくごく限定的な、でも大人気なだけでしたから。
近所には同期の、コインを入れられては横のダイヤルのような物をカリカリ回されて、カードをお届けするダス君もいました。わたしたちはよく、このままいっしょに子供たちを喜ばせていけたらいいね、なんて話したものです。
でも、いつしか時が過ぎて。わたしはもう所狭しと並べられ、いろんな楽しみを皆さまにお届けすることができるようになりました。しかしダス君はいつのまにか見かけなくなってしまいましたね。寂しそうにたたずむ彼のプレートを思い返すと、彼はわかっていたのかもしれません。自分がやがて飽きられる存在であると。
ですが、少し前。わたしは思わぬ要素と出会い、ダス君との三人共同生活を始めることになったのです。
いつのころだったか。わたしは気が付くと華やかな世界にいました。わたしの周りにいるのは、まるでダス君が届けていたようなカード。しかし絵柄がまるで違う。
見目麗しいお嬢さんやお姉さん方。男性の方もおられますが、みんなダス君がお届けしていたようなのとは、明らかに雰囲気が違うのです。
戸惑うわたしに声を駆ける要素がいました。
「これからよろしく、センパイ」
と気のいい雰囲気の声でした。彼はランダム君と言って、わたしとは一蓮托生の関係なんだそうで。
わたしはランダム君とは微妙にことなっているらしく、限られた数の中から気まぐれに結果を返すのが彼。わたしは決まった順番に結果を届ける者。
で、わたしがどうしてこんな華やかな世界にいるのか、と聞いてみましたら。
「俺のことを、世間じゃ『ガチャ』って呼ぶそうっすよ」
ランダム君がそう教えてくれました。なるほど、一蓮托生なのはそういうことかと納得しました。
カードたちにぼんやりと重なる懐かしい影を見たのは、それから少ししてのこと。もしやと思って声を賭けたら案の定、ダス君でした。
「気が付いたらぼくもここにいたんだ。どうやら君と同じでランダム君に呼ばれたみたいだ。一定数の物と引き換えのカード排出って言えばセンパイっすよね、って。そう言われたよ」
なるほど。ランダム君はてきとうなように見えて、わたしたちのことをよくわかっているようです。
そうして始まった共同生活は、いいことばかりではありませんでした。
「ガチャセンパイ、どーゆーことっすかこれ?」
不満そうに声を出すランダム君に、どうしたのかと問いかけてみました。
「どうもこうもねーっすよ。なんでガチャセンパイ、ラノベに出てんすか。そこは俺もいっしょに出るべきじゃねーっすか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれないか? いったいどういうことなんだ、それは?」
「これ、みてくださいよ」
言われて見てみたそれは、ガチャやそれに類する言葉が書かれた物語。しかしガチャとは名ばかりで、結果を操作されたわたしともランダム君とも違う、ガチャの名を借りたなにかでした。
「これは……」
驚愕するわたしに、ランダム君がしっかりとわたしの目を見て言ったのです。
「なんなんっすかね。この、ランダム要素を全部ひっくるめてガチャって言う世の中。全部センパイの知名度が高すぎるせいじゃないんすか?」
「そ……そんなこと言われても、わたしにはどうしようもないじゃないか」
今なにか、楽しむ物を作り出す皆さんが、わたしといっしょに育った子供たちだったり、ランダム君とわたしを一蓮托生とした物に親しんでいる人達なら、それはいたしかたないことではないか。そう思いましたが、流石にいきり立つランダム君に、そのことを伝えることはできず。
「ただのランダム要素すら、ガチャを引くとか言われるんすよ。俺の立場、ないじゃないっすか!」
「ランダム君」
ランダム君は、よく見たら涙を流していました。血の涙を。
「ランダム。昔はちくしょうとか言われながら、それでも一つの要素として、しっかり認識されてたのに。なんだよ。これじゃあ俺が、ガチャセンパイに吸収されたみてえじゃねえか! 俺は。ランダムはここにいるって……生きてるって言うのに! ちくしょう! ちくしょうっ!」
彼の涙は、よく見れば血ではありません。赤 青 白 銀 金 虹色と、流れる毎に色がかわっていました。それも、赤 白 青 白 赤 銀 赤 白 金 白 赤 青 青 青 白 白 白 虹、と順番はそれこそランダムです。
「これが、ソシャゲによる言葉の毒。そういうことだねガチャ君」
「ダス君。君は平気な顔をしてるじゃないか。同居人がこんなに悲しんでいるのに」
「ぼくは、ランダム君の気持ちはよくわからないんだ。昔からかわらないからね、ぼくができることは。君と一色侘にされたりもしてないから、絶望にも落ちようがない」
「ダス君、君って奴は……」
親友の薄情さに初めて、ダス君に怒りを覚えました。
「大変だね、君たちは。一蓮托生どころか一色侘にされて。ほんとうに、悲しいことだ」
そう言って、カリカリとダス君はダイヤルのような部分を空転させました。
「君も……泣いてるのか?」
「出る物なんて、なにもないけどね。今、ぼくには出すためのエネルギーがないんだから」
「ダス君。君も。悲しいな」
気付くとわたしは、カプセルをコロコロコロと体から流していました。
「ガチャセンパイ」
様々な色の涙が収まって、ランダム君が晴れやかな声で声をかけて来ました。
「なんだい、ランダム君」
「俺、考え直せたっすよ」
「考え直した?」
「そーっす。俺はランダム。必要悪の憎まれ役っす。ガチャセンパイはそれを肩代わりしてくれてるって」
「物は言いようだな」
苦笑が漏れた。
「で。俺は日陰になったんだから。センパイ方の稼働を支える、縁の下の力持ち。そう思えたんっすよ。
派手なところはガチャセンパイに。排出動作はダスセンパイに任せたっす。
よく考えたら俺。二人がいないとなんもできねーんだなーって。わかったっすからね」
ハハハと困り笑いをするランダム君を見て、わたしたちもつられて笑ってしまいました。
悪いことだと思ったランダム君の不満は、結局わたしたちの絆を深める結果になりました。
そんなちょっとした喧嘩もありましたが。今日も今日とてわたしは。
「ガチャセンパイ。こことこことここで課金と石がナダレっす! ダスセンパイ、呼吸 合わせてくださいよ。そうしねーと、処理落ちクソガチャとか言われて、被害被るのガチャセンパイなんっすから」
テキパキと支持をくれるランダム君の言葉に頷いて、
「よし。ランダム君、ダス君。いくぞ!」
今日もわたしは、
「よし」「っしゃー!」
わたしたちは全力で。
皆様に幸と不幸と、喜びと怒りをお届けいたします。
ただ。目的の物が出ないからと、あまり課金を使いすぎないようにしてください。
彼 ーーランダム君がいる限り、確実な出現などありえないのですから。
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