表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

5話 夢

 白い廊下が続く。あたりには消毒液の、清潔感のある涼しい匂いが漂っている。


「さて、さっさと仕事を終わらせなければ。」


 幸い、本日の仕事はこれで終了だ。緊急なことがない限り、すぐに帰ることができるだろう。

 それにただの事務仕事。そんなことに時間を割くぐらいならば、次の仕事の練習がしたほうが有意義なのだ。が、いかんせん書類がたまっている。ためた方が悪いが、そのためにいる助手はいったい何をしていることやら。

 苦笑交じりに、なぜか遠くは霧がかっている廊下を進み、自分の部屋に向かう。自分の足音が淡々と鳴り響き、まるで自分だけがこの世界にいるかのようだ。

 自分の部屋の前につく。気づけば、ずいぶんと自分はワクワクしていた。

 ただの事務仕事に何の期待が、…いや、期待している理由は知っているのだが、いつもの自分では考えられないことだ。気分がいい自分自身を鼻で笑い、ドアをゆっくりと開く。



 そこは、鮮血にあふれた、戦場が人がっていた。


「隊長ッ、今どちらに…ッく!」


 いつの間にか持っていた剣を、自由自在に操り、目の前の化け物をぶった切る。

 

『王の謁見場だ急げ!』


「はい!『縮地』!」


 そう唱えると、一瞬にして数メートル離れている扉に進む。あまりの出来事に目がちかちかする。

 その勢いのまま、ドアを蹴破り、途中で襲ってくる化け物たちを吹き飛ばしながら突き進む。

 

 ちなみに『縮地』と唱えたあたりで、私はこれが夢だと気づいた。途端に意識がはっきりとし、自分ではできない動きだとわかる。…これは私の願望なのか?


 戸惑っているうちに、無双乱舞が終わり『王の謁見場』だと思われる場所についた。そこには大きな鎌をもち、お話に出てくる巨人のような、まさしく死神がそこにいた。


「なぜだ…? 理論通りのはず…!」


「王様、今は集中を!」


「…! 来るぞ、構えろ!」


 死神が死体に手をかざすと、黒いチェーンがひとりでに発生し、その死体を縛り付けたかと思いきや、消える。少し時間がかかれば、死体が動きし、三人に向かって走り始めた。

 三人は軽く蹴散らしていくが、あまりの数に死体たちにしか集中ができていない。その隙をつくかのように、死神は構え始める。


「王様! うおおぉおお!」


 体が叫び、死神にとびかかる。それを見据えていたかのように、死神はこちらをしっかりとみて、鎌を一回転して振り抜けた。


「…あ。」


 一瞬の出来事に、声が漏れる。気づけば、頭と胴体が離れて散った。



「なぁあ! はぁ、はぁ、…?」


 あまりの出来事に飛び起きる。起きた後真っ先に、首と胴体がつながっているか確かめる。

 つながっているとわかったのちに、周辺を確認する。ここはどこだろうか。何やら光っているものが多い。なんだ、どうなっている? やっぱり私は死んだのか?


「おーい、大丈夫か? 落ち着けよ、お前。」


 その声にびっくりする。しかし、言ってることはその通りなので、素直に深呼吸を始める。…何か、もう疲れてしまった。


「ああ、ちょちょちょちょ! 何寝ようとしてるんだよ! 隊長起きましたよー!」


 慌てつつ、さわやかな青年は階段を下りて行った。…いったん状況を知るべきだろう。すごく心地がいい椅子に深々と座り、周りを見回す。

 目の前の天井には豪華なシャンデリアが周りを照らし、自分から階段に長い絨毯が敷かれている。下を見下ろせば、騎士の甲冑を来た男性二人と。女性一人が話し合っている。

 慌てて椅子から飛び出し椅子を見る。…これはあの夢で見た椅子とそっくりだ。

 考えるに、ここは『王の謁見場』なのだろう。王の椅子に座っている理由はわからないが、何らかの理由で私はここに来たのか。


「おお、起きたか若僧。…何を考えているんだ?」


 おっと、そうだった。誰かいるんだったな。後ろを振り向く。

 そこには白髪の初老の男がいた。隻眼の眼をしており、片目には傷跡が付いている。眼光は鋭く、まさしく歴戦の戦士を醸し出している。そのたたずまいは油断を感じないが、余裕を感じるほどの力の抜き具合だ。何となくだが、今まであったことのないタイプに思う。


「ああ、いや、少し状況の…ん?」


 久しぶりの喉の震えに、違和感を感じてしまった。


「…ふむ、どうやら首が飛んだという錯覚を覚えたのが相当堪えたと思う。…すまない、まさか彼の経験が映し出されるとは知りもしなかったのだ。」


「ああ、いや、違います。…あなた方のお姫様に、口を縫われてしまっているので。」


「はっはっはっは! いや、それはすまなかった。だがあの体はまったく筋肉がない。言葉を発するのは結局無理な話だ。」


 なるほど、結局話せないのか。


「ではなぜここでは?」


「ああ、ここは君の…無意識の世界というべきか…。まあ、近いもので夢だ。よって君ができることは大体ができる。言葉もそのうちだな。」


 面白い。しかし私には記憶がないのだが、何故この部屋があるのだろうか…。


「ちなみにだが、私たちの記憶も少し影響が入る。この場は私たちの記憶なのだろう。」


「私の思考を読まないでほしいのですが…。」


「はっはっは、わかりやすくてね。」


 …そこまで表情に出てるのだろうか。


「ちょっと隊長、私たちも混ぜてくださいよ~。」


「ああ、すまない。彼女は少々さみしがりやでね。」


「ひどい! 初めまして、あなたが姫様の魔物ね。にしても細いわね~! ちゃんと食べてるの?」


 体のあちこちをじろじろと見られた。…少し恥ずかしい。

 少し小動物じみた彼女を、隊長はひょいっと後襟をつかみ、離す。


「それに、おせっかい屋でもある。しかしこう見えて一番隊隊長…一番剣術がうまいのだ。よろしくしてやってくれ。」


「ま、あまり隊長呼ばわりされないけどね~。よく呼ばれるのは一番だよ、よろしく!」


「よろしくお願いします。」


 しっかりと握手をする。…戦う人だからか、彼女の手の感触はごつごつしている。


「おーい、そろそろ俺も紹介してくれませんかね。」


「ああすまない、遅くなった。彼は君が見ていた夢視点の張本人だ。」


「おう。さっきはすまなかったな。運がなかったと思って許してくれ。」


「この通り軽いやつでな。こう見えて守りが得意で二番隊隊長でもある。よろしくしてやってくれ。」


「俺もよく言われるのは二番だな。まったく人を数字で扱うとか、どうかしてるぜ。」


「ほんとだよね! 失礼だよ。」


「ま、まだまだということだ。甘んじて受け入れろ。…さて、私は総隊長を務めている。よく周りからは隊長と呼ばれている。よろしく頼む。」 


「あ、ああ、よろしくお願いします。」


 二人にも同じように握手をする。…相変わらず、ごつごつしているが。


「さて、君は姫様の護衛を任されている。しいては君は強くなければならないのだが、先ほどの戦闘を見ると、能力は強いが技がなってないように見える。…何かを切除することにも、たけているようにも見えるがな。」


 鋭い目つきが、さらに射貫くほど強くなる。


「ッ…!」


 体が動かない。体中を奪われてしまったかのようだ。…これが歴戦の戦士の風格…!


「ちょいちょい、隊長隊長、完全に固まっちまってるよ。」


「ああすまない、癖でね。多分君は暗殺者に向いているのだが、私の好みとは違うし護衛には向かない。それでだ、君には戦い方をここで学んでほしい。」


「戦い方ですか? しかし…」


「なに気にするな、ここは夢だ。時間についても気にする必要はない。それに、夢を見て強くなった隊員もいる。そいつは夢でご先祖に訓練を受けたと言っていてね。つまり、夢の中で訓練は可能、ということだ。」


「そうだそうだ、細かいことは気にすんなー。」


「そうだそうだー!」


 …少し頭が痛くなってきた。その隊員は一夜をかけて訓練をした可能性もあるだろう! そんな時間なんてあるはずがない。


「まあ、心配するのもよくわかる。あんな場所で待たせるなんてバカがすることだからな。しかし、案ずることはない。教えることは基礎だけだ。あとは君なりに力をつけることだ。」


「…わかりました。それで、どういった練習を?」


「なに、簡単だ。型を教えた後、剣で撃ち合う。ほら、君のだ。」


 すると、2番が剣を投げてきた。


「うわ!…危ないですよ。」


 隊長は快活そうに笑い、


 構えずに突きを繰り出してきた。



「ガッ!」



 貫かれた状態から、抜く動作につられ体も前に倒れる。状況が何もわからないまま、自分の中に動揺が続く。


 見えなかった。一瞬も、動作すら。うそだろ、ここで死ぬのか…?


「おいおい落ち着けよ兄さん。血、でてねえぞー。」


「ま、まだ、何も…!」


「ほらしっかりして、お兄さん!」


 思いっきり頭を蹴られる。その衝撃で仰向けになる。

 頭を抑えつつ、ゆっくりと起き上がるのだが、おかしい、あの衝撃は頭にたんこぶ以上のものができるはずだ。


「ふむ、やはりここでは死ぬことがないのだろう。それでは、参る!」


 またもや構えず、フッと力を抜き刺し貫く。そこを何とか受け止め、くいしばる。


「あ、あの! 基礎は!?」


「ああ、すまない。行っておいて忘れてしまったな。もう年かもしれない。」


「いいから教えてください!」


「基本は簡単! 腰を落とし、剣を牽制するように少し前に置け。あとは突く、切る、殴る何でもしろ! 相手が動かなくなるまで!」


 それを言い終えた瞬間、拳を顔面に叩きこんできた。


「ブっ!」


 意識をしてないところを狙いうったその拳を振りぬき、勢いのまま回転切りを繰り出す。拳によって背中を見せた私はその回転切りによって背中を切り裂かれ、あおむけで倒れる。


「ほら、さっさと立ち上がれ。まだまだこれからだぞ?」


 剣を杖にして座っている私に、隊長んはいい笑顔でこちらを挑発してくる。これがまだ続くのかと思うと…。


 顔面真っ青になりつつ、私は何度も切り付けられながら、ゾンビのように突撃を繰り返した。





「よし、ここまで! まだまだ荒いが、十分戦えるだろう。よくここまで頑張った、お疲れさん。」


 殴られたり切られたりした場所をさすりつつ、やっとかと息をつく。

 本来なら、途中で投げ出すぐらいのスパルタ式。しかし、


「ふう…にしても、アドバイスもないまま続けると思ってたのですが、少し驚きましたね。的確なアドバイスを、ところどころ教えていただき、ありがとうございます。」


 しばらく打ち合いを続けると、いったん休憩時にアドバイスをもらい、練習をする。その結果思った以上に早く覚えることができた。


「君は、相手を倒すほど強くなれるだろう。しかし技も覚えなければ強大な敵を倒せない。重々承知しておくことだ。」


「…それは、一体どういうことですか?」


「ふむ、それでは君の特質を教えよう。『魔物』とは、敵を倒した後魂が抜ける前に捕食し、その魂も融合するというキメラ兵器だ。これのおかげで戦争で生き残った者はさらに強くなる。ちなみに、『魔物』に用いられる魂は意志が強き物でなければならず、呼びかけに答えた魂がその条件で判断ができる。まあ、大体が暴走を起こし反旗を翻すが、そのために隷属の術式を用意する肉体に植え付け、制御下に置く。これをすることによって、戦争時に魔物を扱った作戦を使えるということだ。」


 …なんだそれは、そんなものを造ったなんて、まるで神の所業ではないか。


「…待ってください。その肉体を作るときに用いる素材は、いったいどこから?」


「魔物の亡骸とかを使う。…あとは、原生生物である『魔獣』から、とかだな。」


 ふむ、まさしく『キメラ』を作っているのだろう。しかし、私が思うキメラと違うのは、敵を倒した分だけ力が増すといったところか。


「ということは、私はその『魔物』であり、倒した分だけ強くなれる、と?」


「ああそうだ。私たちは君に吸収されたことになっている。しかし、それはどうやら君の無意識の世界に置かれるだけのようらしい。私たちの力は君に託されるが、意思は残るようだ。君が目をつぶり、私たちから話を聞きたいと強く願えば、きっとまた会えるだろう。」


 なるほど、私の中で広場ができたようなものか。


「む~隊長ばっかずるい! 私も相手したかったのにー!」


「お前は手加減を知らないだろ。ともかく、そろそろ起きる時間だ。この場で寝れば、きっと現実で起きることができるだろう。」


「じゃあまたな! ちゃんと姫様守れよ!」


 いい人たちだな。きっと心強い人たちになるだろう。


「はい、それでは、また。」


 私はその場で寝ようとする。が、なにやら一番と二番によって担がれる。


「え、ちょ、なにを…。」


「そこじゃ床で痛いでしょ? 王様の席で寝たら?」


「え! いや、それは…。」


「なにかしこまってんだよ。こういう時には、遠慮なく使えっての。よいしょっと!」


 無理やり席に座る。どんどん眠気が出てきた…。


「君に、君にとっての、よりよき導きを。」


 優しい微笑みを最後に、私の意識は深いところへと潜っていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ