3話 現状把握
あれから数十分、何とか糸スプール一個分ができた。円形の魔力一つ分で、糸スプール分一個だった。
糸スプールからは淡い光が漏れ、部屋の一つの明かりのようになっていた。
…魔法とはなんと幻想的なのだろう。少々うっとりとしていると、少女が唖然とした顔になっている。
「お、お主、どうやってここまで質のいいものを…?」
…どうやら想像以上のものを作り上げてしまったらしい。
よくわからないことを察したのか、いろいろ教えてもらえた。少女が言う分には、最初は必ず少ない魔力でやらなければならないらしい。理由は練りすぎると人体の耐久範囲以上を持ってしまい、爆破する可能性があるから、という。
「お主はどうやら限界をわかっているらしい。…前世は高名な魔術師じゃったのかもしれぬな。」
ふむ…。どうやら、話を聞く限り魔力は見えるものではないらしい。
さっきのように軽く魔力を込め、少女に見せつけるようにしたが、気の抜けた顔で首を傾げた。よし証明完了。
「ここまでくると、人体に縫い付けてもさほど問題なさそうじゃな…。軽い殺菌作用もあるぞ。」
…そこまでとはさすがに驚いた。魔法とは万能なものだな。
よし、糸はできた。次は針を探す。確か少女が探しに言った方向は…。
「む? どうした。針はもう持って来とるぞ?」
おお、それはありがたい。
針の穴に糸を入れ、少女の前に膝をつく。
「ぬわ!?」
少し切れて穴になっているスカートを、糸でつないでいく。流石に破れているところは無理なので、あとで布を探すとしよう。
縫い終わったところ少し引っ張る。うん、ほどけもしないしなかなかに頑丈だ。実験としてはまずまずだろう。少女もスカートを引っ張って耐久力を確かめている。
「…その、なんじゃ、ありがとの。」
気にするなと手を振り、糸を一本取り出す。
ついでだ、色々と実験してみよう。その糸をぎゅっと引っ張る。…ちぎれない。
もう一度、手のひらを合わせ円形の魔力をイメージする。感覚をある程度覚えてるので、すぐにできた。
レンコンをイメージし、糸を作る。手を離すと、先ほどのようにできた。手のひらからプツリと切るイメージをすれば、糸が離れる。
細い糸を取り出し、同じように引っ張る。…すぐにちぎれた。
なるほど、質のいい糸ができた理由がわかったような気がする。糸を合わせ精製したということになるんだな。
「…? お主、先ほどは固く頑丈な糸を作ったのに、なぜそんなすぐ千切れるものをつくったのじゃ?…にしても面白い作り方をするんじゃな。無数の糸を一つに合わせ頑丈なものを作るとは…本来は作った後にやる作業を、一人でやるとはのぅ。」
興味深そうにうなずく少女。
…そうか、私の作り方は一般的ではないらしい。本来は一本の糸を生成するのか。と、なると…。
指先に魔力の球をイメージし、つまんで引っ張る。するとスルリと一本の糸が出てきた。
「おお、そうじゃそうじゃ! 一般的にはそのように作るのじゃ。お主は勘が鋭いのお!」
…確かに初級の時点で、派手過ぎても困るか。
一般的な作り方をした糸でも、耐久力を測るためその糸であやとりをする。ちなみに私はホウキしかできないが、よどみない動作でできる。
何度か試し、普通の糸ぐらいの耐久力ということが分かった。服とかの応急処置ならば、十分なものだろう。
「…浄化付与がかかっている糸であやとりとは、豪勢なもんじゃの。というかホウキしかできないのか、お主。」
うるさいぞ、少女。