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とある寂れた地に、その男はいました。
がっちりとした身体にたっぷりと髭をたくわえている姿はまるで、熊のよう。でも、そこに昔から住んでいる老齢の人たちは皆親しみを込めてこう呼びます。「隻腕の騎士」と。
隻腕の騎士の左腕は肘から下が義手です。しかも、今使われているものよりもずっと古い型のもの。昔の色はどこにもなく、既にくすんでいます。
ここは昔、とある王国の領地でした。隣国と国境で、よく戦争が起きていたのです。今は、両国に忘れ去られた集落となっています。
ここで一番若い男はこの隻腕の騎士。だから、騎士はいつも他の人たちを助けています。
「悪いね」
「いや、俺が出来るのはこれくらいだし」
「かかか。お前さんは面白いことを言う。うちの子供たちも孫も逃げて戻ってこない。そんな中で残ってくれているのはお前さんだけだ」
「俺は戦うことしか能はないし。獣狩って、力仕事するだけだ」
「それが何よりも助かるんだよ」
そんな会話が、時折されていました。
今日も一人、ひっそりと息を引き取りました。旅商人が来たら、身内に手紙を出さなくては。そう集落の人たちは思います。ですが、届いているのかも分かりません。
誰一人、身内が来ないのです。
集落の人たちはここを笑いながらこういうのです。「死にゆく集落」だと。
隻腕の騎士が最初にここに来たのは、戦の最中でした。まだ騎士になりたてで、手柄を立てるんだと意気込んでいた頃でした。
この集落はもう少し大きく、もう少し行った先には、国境があったのです。
そこが戦場でした。
簡単に手柄がたてられる場所、そういわれていたのです。
それだけ戦は激しく、辛いものでした。
昨日たくさん話した仲間が、敵国に殺される、そんな場所でした。
いつの間にか手柄をたてることよりも、仲間の仇として相手を見るようになっていました。
どちらの国が最初に攻撃をしたのかなど、誰も知りません。隻腕の騎士の所属する国は己の方だといい、敵対している国もまた己の方だというのです。
「どちらの国でもいい、早く戦を終わらせてくれ」
それがこの村に住んでいる者たちの願いだと、国の上層部は気づきません。




