流れ星
「あ、流れ星だ」
スタジオでの練習を終え、仲間と共に外へ出た直後のことだった。
一筋の光が暗闇を突き進み、そして消えた。そのまましばらく空を眺めるが、二筋目の現れる気配はなかった。
「えぇ......見えなかったぁ。どの辺?」
隣に立つサキが、惜しそうに問う。
「ちょうど真上だよ。本当に一瞬だった」
「すごいなお前、なんで見えたんだよってか、なんで外出た瞬間に空みたんだよ?」
後ろからついてきたカナタが、笑いながら言う。
俺たちは、趣味でジャズバンドを結成し、2年目になる。高校卒業時に軽音楽部だった俺と、カナタ、サキ。そして今もう片方の隣に立つマユミと結成した。
マユミは今もなお、空を仰ぎ続けている。
「いや、なんか夜なのに明るいなと思って」
都会の夜はやはり明るく空を見ても夜空なんて霞んで見えにくい。なら、なおさら何故あの光が見えたのだろう。
まさか、幻覚なんてことはないはずだ。
「ふーん、カナデって案外ロマンチスト?」
サキがからかうように言う。今の発言にロマンティックな要素があっただろうか?
「違うよ。ほらマユミ、行くぞ」
よくわからなかったので、適当に受け流す。会話をひと段落させ、次に行く予定だった居酒屋に足を運ぼうとした時だった。
マユミが呼びかけに応じず、空を見つめ続けている。
「どうした? マユミ、なにかあった?」
俺が問うとマユミは首を横に振る。
「同じ空を、みんなで見れるのが嬉しくて」
マユミはいつもこうだった。普段は基本無口で、口を開けばなんだか意味深なことを言う。高校の時からそうだったが、その発言が案外詩に使えたりしたので、特に何も言わなかったが、十分不思議な奴だ。
「どうしたの?急に」
若干心配気味にサキ。
「ロマンチストは俺じゃなくて、マユミだったな」
「はっはっは! 本当だな。さ行こうぜ。おぉ!? もう9時回ってんじゃねーか! 急ぐぞ」
カナタが豪快に笑い。そして駆けていった。あいつは本当に忙しい奴だ。
「あ、ちょっと待ってよぉ! 道! 道違う!」
サキも本当に賑やかな奴だ。それでいて、いつもメンバーをよく見ていてくれる。
「さ、俺たちも行こうぜ」
「......うん」
コクリと小さく頷いたマユミは、カナタと同じ方向に歩いて行く。
だから道違うって。
「おいおいみんな大丈夫か? これから酒飲むんだぞ? 楽器とか壊すなよ。ほら、マユミこっちだ」
本当に楽しい毎日を過ごしている。第一志望の大学に通い。バイトをして金を貯めて、大好きな音楽を続ける。それも個性的で愉快な仲間たちと。
最高の仲間たちと。
俺ほどの幸せ者はこの世に何人といないだろう。
こんな毎日が永遠に続くといいな。
そんな風に思うと、先程の流れ星は少し悲しい。強い輝きを放った後、すぐに消えてしまう。その輝きは永遠には続かず、とても儚い。
俺の幸せもそんな風になってしまうのだろうか?
「わりぃ間違えた!」
「ほらみんな私についてきて! 全くあんたたちは個性的すぎるのよ!」
あぁ、そんな心配もいらなそうだ。こんなにも楽しい毎日が、瞬間で消えて行くはずがない。消えさせない。
1分1秒無駄にせず、この幸せを楽しんでやろう。
「ほらー! カナデ、マユミ! 早く早く!」
「カナデ......行こ」
「あぁ!」
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