3人目
『ティルトが人間に捕まったそうなんです!』
ティルトが?
『ウルモスの悲劇の例もありますし、心配でございます』
ウルモスの悲劇
昔、ウルモスという国があった
そこの貴族達は何を求めたのか妖精族 フェアリーを捕まえ 玩具のように弄んだ
フェアリーの涙はとてつもない高い値がつく宝石になる
ある者はフェアリーを泣かせる為に羽をもぎ四肢を砕いた
ある者はフェアリーを大量に捕まえ、涙が出なくなると殺していった
そんなことを繰り返していて妖精族が怒らないはずはない
妖精族はウルモスを滅ぼした
だが、その時には多くのフェアリーは喪われてしまった
だから、フェアリー系の妖精族は滅多に人前に姿を現さない
ティルトも女神とやらに頼まれなければ故郷から出てくることもなかっただろう
しかし、今でもフェアリーの涙は取引されている
1部のマニアからは……
「……ティルトを助けに行く」
「はい、ご主人」
「りょーかーい!」
「セレスは眼鏡を外して情報収集して」
「お兄さんは酒場とかで情報を集めてみるよ」
「ご主人様は?」
「私は陽蘭亭に行く
あそこなら何か情報があるかもしれないから
2時間後に中央広場で」
「はい」
「はいはーい」
陽蘭亭に訪ねて行くと店員がいたが、すぐ店主が出てきた
店主を呼ぶ手間が省けたので助かったが……
「さあさあ、お客様いらっしゃいませ
本日はどのような御用件でしょうか?」
「最近、奴隷商でハイフェアリーを捕らえたという話はきいていないか?」
「ハイフェアリーで御座いますか?
私共は人族の奴隷を扱っておりますので……
詳しくは御座いませんが裏通りには違法な取引を行う店も御座います」
裏通りね……
「お役に立てず申し訳ございません」
「いや、教えてもらえて助かった
もしハイフェアリーを取り扱う奴隷商の情報が入れば教えて欲しい」
「はい、お客様の頼みでしたらお任せください」
「……ありがとう」
陽蘭亭を後にする
そろそろ2時間か、情報を整理しよう
「あ!ハニーちゃんこっちこっち!
酒場の方にはそれらしい情報はなかったよ」
「俺の方はジギタリスという裏通りにある店で
ハイフェアリーかどうか分からないですがフェアリーの奴隷を入れたらしいという情報がありました」
裏通りのジギタリスか
「ジギタリスかあ、あそこは最悪だね〜」
「アイザック、何か知っているの?」
「うん?お兄さんあそこ出身よ
とにかくあそこは奴隷の扱いが最悪なんだよ
死ぬやつも多いし……ティルトくんがいるとしたらヤバいかもね
どうするの?ハニーちゃん」
「……襲撃ですか?」
「襲撃なんかする必要はない
真正面から行ってやるさ客としてな」
「ヒュー、ハニーちゃん男前!」
「だ、大丈夫なんですか?お金とか」
「心配ない、行くよ」
裏通りのジギタリス、陽蘭亭と違い血の匂いや腐ったような臭いがしている
「大丈夫かいハニーちゃん?」
「問題ない」
吐き気を堪えながら店の中に入って行く
「……今日はどんなご用で?」
中に入ると無愛想な店員がこちらを窺うように言った
セレスとアイザックは後ろに控えている
「フェアリーの奴隷が入ったと聞いた
それがハイフェアリーなら買い取りたい」
「……フェアリー系の奴隷はたけぇぞ」
「問題ない
いるんだろう?さっさと出せ」
「……少々お待ちを」
暫くして店主らしき男が出てきた
……こいつからも血の匂いがする……
「お客様がハイフェアリーをお求めのお客様ですか?
残念ですがお求めのハイフェアリーは既に売れてしまいました
他にもフェアリー系ならおりますが、いかがいたしましょう?」
「それは緑色の帽子に緑の服のハイフェアリーか?」
「はい、そうでございましたが……?」
「どこに売った?」
「は?」
「どこに売ったかと聞いている
いないのなら自分で交渉に行くだけだ」
「それは個人情報ですので……お答えできかねます」
念の為にと袋に入れてきたティルトのフェアリーの涙を1つ出す
「いくらあればいい?」
「!これはフェアリーの涙!?しかもこんな大粒を
……しかし、私どもも商売ですので……」
店主の目が金に変わる
「それなら別の店に聞くまでだ
もういい……邪魔したな」
「お待ちください!私どもしか売り先は知りませんぞ!」
「では、吐け
……私の気が変わらないうちにな……」
「お望みの物でしたらボンズレー様にお売りしました」
ボンズレー……どこかで聞いたような
!!セレスを買った時に会ったガマガエルか!?
「情報提供感謝する」
妖精の涙を1粒渡してジギタリスを後にした
「ハニーちゃん、よかったの?
あんな貴重品アイツラに渡しちゃって……」
「ティルトの涙がなんだからティルトの為に使えばいい」
「うん……でも、袋で見せたのは失敗かもね
…………後、尾けられてるよ」
「セレス……眼鏡を外して骨抜きにして来い」
「え?俺ですか?」
「力で解決すると、あとで慰謝料だなんだと因縁をつけられかねない
その点、セレスなら悲しそうな顔をすれば相手が勝手に帰るだろう?」
「なるほどねぇ」
セレスが眼鏡を外して後ろを見ると歩いて行く
すると男どもがセレスにフラフラと引き寄せられる
「ありゃ、光にあつまる蛾だな」
「……セレスくん、気の毒」
暫くセレスが何かを話すと1人、また1人と元の道へ帰って行く
「お疲れ様」
「あのご主人様、さっきの中にボンズレーの居場所を知っているやつがいて聞き出しました」
「よくやったセレス!」
「行きましょう!」
ボンズレーの屋敷に着いた時、辺りは夕闇に包まれていた
呼び鈴を鳴らすと男が出て来た
そして、こちらをチラリと見る
「そちらの主人が買った奴隷のことで話があって来た」
「当主人はただ今出掛けております」
「部屋の明かりが着いているようだが?」
「使用人でございましょう
どうぞ、お引き取りを……」
「1029が訪ねて来たとお伝え願いますか?」
男の声を遮るように眼鏡を外したセレスが言う
「1029とは?」
「そう伝えていただければ分かります」
「……少々お待ちください」
「セレス?いいのか?」
(お前、あのガマガエルが苦手だったんじゃ)
「今はそんなこと言ってられる状況じゃありませんので」
暫くして男が戻って来た
「主人がお会いになるそうです」
通されたのは豪華ないかにも金持ちというような応接間だった
「ああ!1029!来てくれたんだな!」
ガマガエルは抱きつかんばかりの勢いでセレスに近づく
流石のセレスも顔を引きつらせて、後退りながら
「ボンズレー様、お久しぶりでございます」
「おおおお!1029が私に微笑みかけてくれている!?」
「今日、お尋ねしたのはボンズレー様がジギタリスでお買い上げになった奴隷のことです」
「……それをどこで聞いたんだい?1029?」
「ジギタリスの店主からでございます
ハイフェアリーの奴隷をどうしても手に入れたいと主人が申しますもので
こうしてボンズレー様の元を訪ねて参りました
ご無礼をお許しください」
「ハイフェアリーの奴隷をこの阿婆擦れが?」
セレスに向けると違い私に向ける顔には敵意が込められている
「見た所、金を持っているようにはとても見えないが
1029、お前苦労しているんじゃないか?」
「いえ、今の主人の元、とても幸せに過ごしております」
ガマガエルの手がセレスの手を撫で回す
セレスは振りほどかず、そのままにさせている
「どうか、主人の願いを聞いていただけませんでしょうか?」
「1029の願いなら聞いてやりたいところだが……それは出来ない」
ガマガエルがセレスから手を離す
セレスの色仕掛けが通じない……か
「ハイフェアリーの奴隷を買い取らせてもらいたい
お金ならいくらでも払わせてもらう」
「ッハ!本性を出しおったな女狐め!
貧乏人が金を手にして男を侍らして満足か!?」
「ボンズレー様!ご主人様はそんな方ではございません!」
「ええい!おおかた1029のこともその傍にいる男も従属魔法で縛っているのだろう!
そんな奴に貴重なハイフェアリーを渡せるか!!」
「なら、力づくで奪わせてもらう」
「やれるものならやってみよ!誰かおらぬか!
こやつらをここから追い出せ!」
「……ごめん、セレス、アイザック」
「うーん、まあしょうがないんじゃない?」
「ご主人様は俺たちの後ろにいてください
いくら攻撃を受けないといっても人間相手に何があるか分かりませんから」
わらわらと黒服の男たちが私達を取り囲む
一触即発、まさにそんな時だ
「んー、なんなのだ?五月蝿くて眠れないのだぁってミコ!?
ティルトのこと迎えに来てくれたのか!?
ゼロス!ミコが迎えに来てくれたから帰るのだ!今までありがとうなのだ!」
隣の部屋から出て来たティルトによって雰囲気はぶち壊された
「ティルト?あんた捕まってたんじゃ?」
私が問うとティルトは首を傾げた
「んーん、悪いやつに捕まったけどゼロスが助けてくれたのだ!」
「……ティルトや、お前が言っていたミコとはその女のことなのかい?」
「そうなのだ!ミコは素直じゃなくて天邪鬼なのだ!でも、とっても優しい女の子なのだ!
ティルトはミコのことが大大大好きなのだ!!」
「わぁお、熱烈な愛の告白だね〜、お兄さん妬いちゃいそう!」
茶化すアイザックは置いておいて
このガマガエルは良い人なのか?
「申し訳無い、友人であるティルトが奴隷として買われたと聞いて動転していた」
「いや、こちらこそ阿婆擦れなどと言って申し訳無い
友人が私のような者に買われたと聞けば動揺するのも無理はないだろう」
さっきとは打って変わってガマガエルは静かに笑った
「ミコ!ゼロスは良いニンゲンなのだ!
ティルトのように捕まって無理やり売られた妖精族や獣人族を買って
屋敷で勉強や仕事を教えてくれるのだ!
みんなゼロスのこと大好きっていっているのだ!でも、ティルトはミコの方が好きなのだ!」
ティルトは相変わらず喋りながら私とガマガエルの間を飛び回る
「こんな外見をしているのでよく誤解されるのだが
私は奴隷商の抜き打ち検査官なのだよ
違法な奴隷取引をしている店を摘発する為に客として店に通っている」
「陽蘭亭も?」
「いや、あそこは白だよ
確認に行った時に1029の魅力にやられてしまってね
ついムキになってしまって、あの時といい今回といいすまなかったね」
「だが、ティルトを友人というなら忠告しておこう
ハイフェアリーが街にいるというのは違法な奴隷商にとって
鴨がネギを背負っている様なものだ
今回のジギタリスは前々から我々がマークしていた店だからなんとかなったが
次も無事だとはいえないよ」
「はい……」
「そこでだ、ティルトは君を好いているようだし
君はティルトを友人と呼ぶなら、奴隷にするというのはどうかな?」
「!?」
「奴隷といっても仮のものだ
誰かに従属していると分かれば普通は手を出してこないものだからね
それでも出してくるようなら実力行使で黙らせればいい」
「ティルト、ミコの奴隷になるのかー?」
「ティルト……」
「そしたらミコとずっと一緒にいられる?
もう置いていかれない?
なら!ティルト、ミコの奴隷になるのだ!」
「そうと決まれば陽蘭亭まで送って行こう」
「いや、でも……」
「私もティルトと1029……今の名前は何ていうのかな?」
「セレスといいます」
「セレスくんともう少し一緒に居たいからね」
こうして私は3人目の奴隷を手に入れた




