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~TRAIN GIRL~

誤字を訂正しました。

貴方に聞いていいですか?

私でいいんですか?

特に取り柄もない私が好きなんですか?

言っておきますけど、私の裏を貴方は知りませんよね?

知ってしまったら、きっと貴方は落胆するかもしれません。

それでもよろしいというのであれば、よろこんでこの手を繋ぎましょう。

私の秘密、隠しましょう。ただ、これはある意味ゲームです。

貴方と私、どちらが先に勝つか。

ルールは簡単。貴方が私の秘密を知ったら勝ち。私の秘密を知らずに終われば私の勝ち。

じゃあ、尋常に始めましょう。


といった、彼女。

・・・私でいいんですか?   いいですよ。だから君に告白しているんです。

・・・特に取り柄もない私が好きなんですか?   そんなことないです。君は十分魅力があります。

・・・裏の私を知りませんよね?   ・・・は?一体何を言ってるんだ?

・・・落胆するかもしれません。   どれぐらいヤバイのそれって!

・・・これはある意味ゲームです。   ゲーム、だと?

・・・私の秘密を知らずに終われば私の勝ち。   俺たち終わるのは確定なの!?じゃあ、君はしぶしぶ付き合ってあげるって言ってるわけ!?

彼女は、僕の思考などもちろん無視してゲーム開始を宣言した。


第一試合。

今日は、初めてのデートである。かなり緊張してきた。彼女を楽しませるためにあれこれ考えてきたが、うまくいくかどうか。

待ち合わせ場所に15分前に到着。駅前のカフェで待ち合わせのはず。中に入ってお茶でもしていよう。

そして彼女はやってきた。時間を見ると、待ち合わせ時間ジャスト。すごいな。

彼女は、フェミニンな服装。ああ、もう超かわいい。俺には勿体無いぐらい。

「こんにちは。ちょっと遅かったかしら。」

「いや、全然。逆に・・・。」

「あ、典型的パターンは結構よ。大体こういうのって、『ごめん、待ったぁ?』『全然、俺も今来たところだから』とか言うのよ。かつ、かなり待たされてもこの台詞は使われる。まったく呆れるわ。」

口調を変えて典型的パターンを演じた彼女。もしかして、時間にルーズな奴が許せないとか?だとしたら、彼女は、時間にうるさい人ってことか?

というか、俺は典型的な言葉を言うつもりなんてなかったんだけど・・・。

彼女は、俺の向かいに座って、ミルクココアを頼んだ。さらっと髪の毛を指でなびかせる彼女。うわぁ、もうメロメロです。女子力高すぎません?

「それで、この後どうするつもり?」

「ああ、一応考えてはいるんだけど、君、行きたいところとかある?」

「私優先ってことね。それじゃあ、このままでいい。」

飲んでいたものを危うく噴き出してしまいそうになった。予想外の答えだ。

「大丈夫?」

「あ、うん。大丈夫。ちょっと、予想していない答えだったから。」

「因みに、貴方はどこへ行こうとしていたの?」

考えていたところは、いくつもある。カラオケ、ゲームセンター、ボウリング、カフェでのんびり話す。あとは、俺の行きたい趣味の場所・・・。でもさすがに俺の趣味の場所はダメだよな。

「カラオケとか?」

「お金かかる。」

現実~!いや、確かにかかるよ!ルーム料金だけでもかかるし、ドリンク代もかかる!けど、だけれども!

「じゃあ、ゲームセンターは?」

「ゲーム、できない。」

「俺が教えるよ。」

「なら、やってみる。」

決まったときにココアがやってきた。少し話してからお店をでよう。まだ、時間はある。

そんなおり、彼女は俺に申し出を言ってきた。

「ねえ、名前で呼んでくれない?」

何を言い出すかと思えば、名前で呼んでくれですか。

「だって、いつも『君』じゃない。」

「そうだけど・・・。」

「まさかとは思うけど、名前を知らないってわけじゃないわよね?」

「もちろん!名前は存じ上げております!」

「じゃあ、言ってみて。」

試すような言い方、小悪魔のようにも感じるスマイル。俺をいじっていたりする?楽しい?

「ねえ、ほら。私のな・ま・え。」

「か、神田 日暮里。」

「よく、言えました。」

彼女は、俺の頭をポンポン叩く。そう、彼女の名は、神田かんだ 日暮里ひぐり

もちろん分かっているけど、名前で呼ぶなんて恥ずかしい。なにせ、俺は付き合う前はあまり話したことがなかったから。いつも、「あのー」とか「なあ」とか「君」とかで、どう読んだらいいのか分からなくて。俺ってうぶだな・・・。

彼女は、ココアを飲み干した。じゃあ、そろそろ行こうかと席を立つ。伝票を取ったら、すぐにひったくられた。

「ちょっと、何すんだよ。」

「お勘定は私もちがいいの。」

「でも、悪いよ。どうせなら割り勘にしようぜ。」

「だめ。ここは素直に折れて。」

「しょうがないな、じゃあ、ごちそうさま。」

罪悪感たっぷりの状態でお店を出る。ああ、こういうのって普通男が払うべきなんだけど。

彼女がお店から出てきたので、ゲームセンターに向かった。手をだそうか、いや、まだ付き合いはじめだし、彼女いやがるかもしれない。差し出そうとした手をスッとポケットに押し込む。しばらくの間は、我慢だ。


ゲームセンターに到着。相変わらず、人がたくさん。ここは、絶好の感染地帯といえるだろう。誰か1人でもウイルスを持って来たら、この場にいる人はみんな感染する。しかも、人が多い分余計に広がる。・・・って、何考えてんだよ俺は!せっかく神田 日暮里とデートしているんだ。もっと、プラスで楽しいことを考えないか。

「私、あれやってみたい!」

さっそく興味をだしてきた。良かった。彼女がやりたいといったのはダンス・マシーン。台の上に立ってダンスをするゲーム。プレートにマークがあって、画面にでてくるマークにそって、プレートにあるマークを足で押す。ジャンプといってもいい。

「よりによってダンス・・・。」

「もしかして、イヤ?」

「イヤじゃないけど、苦手というか・・・。」

「じゃあ、やりましょ!」

「なんでそうなる!」

「だって、変なリズムの取り方をぜひ見てみたいじゃない!あと、その姿を人に見てもらうという部分がおもしろいでしょ?醜態を見せているようで。」

なんか、笑顔で毒舌吐いてません?この子。かわいいのに、俺のハートをグサグサ鋭利な物で刺してくるんですけど!Sか!Sなのか!

お金を投入。自分の分をとりあえず入れたが、彼女は自分で入れるのだろうか?少し待ってみたが、入れる気配なし。そんでもって、こんなことを言った。

「お金、払って。さっき、カフェ代払ったから。」

あ、はい・・・。と答えて、またお金を投入。

「これで貸し借りなしにしよう、と?」

「そういうこと。あと、カフェ代より断然こっちの方がお金がかかる。ならば、お金のかかる方は貴方に任せて、比較的かからないものは私が払う方がいいじゃない?」

「全て自分のためですか・・・。たいしたものですね・・・。」

「あら、ちょっと褒めてくれたっていいんじゃない?」

「どこに褒める要素があるんだ!」

「計算高いってこと。」

「そんなので褒めるか!」

「じゃあ、何なら褒めてくれるの?」

「知るか!」

ダンススタート。なんだか知らない曲。だけど、ノリにはのれる。いいな、この曲。

次第に足もついてくる。なんか、俺今日調子いいかも!

ダンス終了。トータルで、俺は自己最高記録を出した。そして、神田 日暮里は、俺よりももっと点をたたき出していた。同じリズムで遊んでいたのに、ゲームできないとか言っていたのに、なぜに得点が違うんだ!

「以外にとれたんだ。醜態さらさなくて良かったね。」

「まあな、自己最高記録だよ。」

「これが、自己最高記録?私の点数には程遠いわね。」

「言うな!つか、お前ゲームできないんじゃなかったのか?」

「あ、次はあれやりたい!」

「はあ・・・。」

なんか、せわしないなあ。忙しいというか、なんというか。まさに小悪魔。どのゲームも俺が払っている。そろそろ俺の金が尽きるぞ。もう次のゲームで最後にしよう。ったく、ふつうにゲームできてるし、なんか、俺よりもできてるし、俺の見せどころないし、立場ないし。

「次は・・・!」

「今度は俺に選ばせろ!」

「えー、なんでよ。」

「お前のやりたいものはたくさんやっただろ。俺のやりたいゲームをまだしていない!」

「分かったわよ。」

さあて、そうは言ったものの何をしようかな。ちょっと、俺の趣味でもあるあのゲームをしようかな。いいところみせたいし。

「何やるの?」

「シュミレーションゲーム。」

「まさか、恋愛シュミレーションゲーム?」

「ち、違う!」

「ああ、この人はあんな妄想ゲームが好きなんだ。ちょっとがっかりね・・・。」

「人の話を聞けー!」

それから、彼女は冷たい目で俺を見るようになった。だから、違うってば!

そして、それっぽいゲームを見つけると、ほら、貴方の好きなゲームよ、とか言ってくる。こりゃもう、言っても聞かないなと思った俺は、彼女の手を引いてやりたいゲームの場所へ連れて行った。

「こ、これがやりたいゲーム?」

「そう。妄想じゃないだろ?」

「確かにそうだけど、電車のシュミレーションゲーム!?」

「悪いか?」

「もしかして、電車ヲタク?」

「ヲタクほどではないけど、そこそこ好きってぐらい。男子ならそういうものを好きになるだろ?」

そう、俺が連れてきたのは、電車シュミレーションゲーム。実際の電車に装備されているようなブレーキやアクセル、メーターなどがついていて、画面には運転席からみた景色がでている。つまり、このゲームは、運転手をリアルに近い状態で体験できるというもの!

「どうだ?すごくないか?」

「す、すごいわね。」

「もしかして、ひいてる?」

「いえ、別にそうではないわ。」

「女子が男子をひく基準ってわかんねーな。」

お金を投入して、いざ出発進行!

レバーをひき、アクセルであるハンドルを押して・・・。はあ、これをホンモノの電車で体感したい・・・。このゲームは、1人用。俺だけ楽しんでるのはちょっと彼女には悪いかな?彼女は、俺の隣で画面をじーっと見ている。そんなにがっついてみなくてもいいんじゃないかな?

そして、俺は見事ゲームをクリア。なかなかの走行だったんじゃない?

「どうよ、俺のゲーム技術。」

「ふん、これだけで調子に乗らないでよ。」

「なんだよ。いいじゃん。ずっと、いいところ魅せられない俺の気持ちにもなってみろよ。」

「じゃあ、今度は私がやるわ。」

彼女が俺を外してハンドルを握る。なんと、はじめて彼女自身でお金を入れた。

彼女の走行は、途中まで順調だったがホームにつけるときに調子が崩れた。おかげで、ゲームオーバー。今日見た中ではじめて。彼女は、ゲームのミスが少なかったし、対戦ものでは俺ばっかりが負けていた。

俺たちは、ゲームセンターを出て帰りの道を歩いていた。偶然にも方向が同じだった。外はもう暗くなっていて、室内が暖かかったせいか、火照った顔をクールダウンさせるかのように涼しい風が吹いていた。

「はじめてだな、お前のミス。」

「え、ええ。そうね。」

なんか、ちょっと様子がおかしくないか?

「結構気にしてる?」

「そ、そんなわけないでしょ!」

「じゃあ、どうした?」

「別に・・・。」

なんか、隠しているけど、まあ気にしないことにするか。俺はデリカシーのある心やさしい紳士だから。

「なにバカなこと言ってんのよ。」

コイツ、俺の心を読んだ!?

「丸聞こえよ。あなた、普通に口に出して言ってるわよ。」

「マジでか!」

「それより、ゲームは、まだ終わってないことに気が付いているかしら?」

「ゲーム?・・・あ!あれか!」

「どうやら他のゲームのせいで忘れていたようね。」

えっと、確かなんとなくヒントを得たような気がするんだよね。

時間にうるさい、結構なドS、策士・・・ぐらいかな?

「君が隠しているのは、君が時間にうるさいこと!」

「違う!ふっ、貴方が正解するのはまだまだのようね。」

「な!まだあるぞ!ドS!」

「もっと違うわ!つか、ちょっとヒドイ!女子に対してSとかヒドイ!」

「そうか?普通に言わない?Mよりマシだろ。」

「だけど、間違いには変わらないでしょ!」

「そっか。あ、でもまだあるぞ!策士!」

「策士じゃない!」

「なんだよ。これもハズレかよ。」

「もうないかしら?」

「ねーよ。」

「じゃあ、まだ大丈夫そうね。そうやすやす秘密のヒントになるようなものなんてださないし、貴方があげた答えは別に隠すようなものではないわ。」

言われてみるとそうだ。あまりにも簡単すぎる。秘密だと、隠すほどだと言うなら人に気が付かないぐらいのものだ。

「もう、この辺でいいわ。すぐ近くだし。」

「いや、ちゃんと送るよ。暗いし、1人で歩かせるのは危険だもん。」

「大丈夫。護身術は習ってあるから。」

「そうかい。じゃあ、今日はありがとう。負けっぱなしだったけど楽しかった、お前とこんな風に遊べて。」

「こちらこそ、今まで経験したことのないものだったわ。また、今度遊びましょ。」

「ああ、また連絡する。」

手を振ってサヨウナラ。俺の彼女は、今日を楽しんでくれたみたい。嬉しいな。だって、好きな相手に喜んでもらえる、楽しんでもらえるって自分にとっても嬉しくて楽しいことじゃない?

俺はしばらくウキウキ気分で歩いていたが、それを消し去るような冷たい予感がした。いわゆる、虫の知らせというものだ。彼女を信じていないわけじゃないが、やっぱり心配。だって、俺と一緒にいたから帰りが遅くなったんだ。それに・・・。

元の道を戻る。どうか何事も起こっていませんようにと願いながら走る。彼女を見つけた瞬間、彼女は、男に襲われていた。これは、不味い!彼女、身動きできてないじゃん。なんだよ、護身術習っているから大丈夫?聞いて呆れるな。その成果出てねーじゃん。

俺は、彼女を信じていた。きっと見つけたときには、投げ倒しているのだろうと思った。しかし、実際はそうじゃなかった。彼女は、怯えていた。不審な男に襲われ、怖がっている。俺ができることは?助ける他ないよね。

「神田 日暮里ィィィ!」

「!」

近所迷惑ぐらいの大きな声で彼女を呼んだ。不審な男は、すぐに俺に気づいた。そして、暗闇に光る何かを持ってこちらに向かってきた。

しばらく俺は、不審な男の相手をしていた。相手は、刃物を持っている。気をつけて動かなければいけない。少しの間、なんとか攻撃を避けてきたが、一度だけ刃が右腕をかすった。血が滲み出てくる。この間に逃げて欲しかったがその場に彼女はいた。そして彼女が連絡してくれたのか警察がやってきた。

男はそれに気づいて咄嗟に逃げようとしたが、警察がすぐに取り押さえた。俺は、警察に事情を話して彼女の元へ駆け寄った。

「大丈夫?何もされてないか?怪我とかは?」

「それは、こっちのセリフ!大丈夫だって言ったのになんで戻ってくるのよ!」

「俺は、戻る直前も戻っているときもお前を信じてたよ。俺が行ったときには、役目なんてないんだろうなって思ってた。だけど、来てみたらどうだ?変な男に襲われて、身動きできていなかったじゃねーか。」

彼女が俯く。

「別に責めているわけじゃない。ただ頼ってほしいんだ。まだ付き合いばかりだし、ちゃんと君を理解しているわけでもない。だけど、守る権利はあるだろ?俺だって一応男なんだからさ。だから、俺を頼って。甘えていいから。」

彼女が顔を上げる。目が少し潤んでいて、顔も少し赤い。

「ごめん。強がった。あと、こういう事件ってこの地域じゃ滅多に聞かないから安全だと思った。」

「謝らなくていいよ。とりあえず無事だったわけだし、1人にさせたのは俺でもあるから。」

「あの、家くる?」

「え?なんで」

「貴方、怪我しているから。」

「ああ、まあ大丈夫だよ。圧迫していれば。」

「でもさっきから圧迫なんてしていないじゃない。」

言われてみれば、圧迫も何もしていない。右腕を見ると服は血で滲み汚れたままだが、出血サービスは行われていないらしい。

「貴方の許可はもう要らないわ。強制的に連れて行く。」

マジですか。ご両親に会ったらどう挨拶すればいいんだ?俺は台詞を思い浮かべ、少し歩いただけで彼女の家に着いた。

家に着くなり、彼女の部屋に行かされ、待たされた。しばらくすると、彼女は救急箱を持って現れた。上半身の服を脱げと言われ、言う通りに動き、怪我のある右腕に消毒液をかけられ、包帯を巻かれた。

「ありがとう。」

「どういたしまして、だなんて言えないわ。助けてもらったのに。こちらこそありがとう。」

「いえいえ。じゃあ、俺帰るよ。」

「え・・・。」

「だって、傷の手当をしてもらったんだ。もう、用はないだろ?あと、あまり長居しちゃいけない感じもするし。」

「そんなことないけど・・・。」

「でも、帰るよ。今日は、マジでありがとう。楽しかったし、手当もしてもらっちゃったし、お家に来れたし。お家なんて行くのはもっと後だと思ってた。」

「貴方、行く気でいたの?行く前に別れるという発想はでないのかしら?」

「付き合いはじめでそんなこと思う奴がいるか!」

「ここに、いるけど。」

「お前って、ヒドイよな。そんなこと言うんだったら、告白を受け入れるなよ!まだ、告白して玉砕した方が良かった気がする!」

「あら、誤解しないで。受け入れたのは、貴方と付き合ってもいいと思ったからよ。貴方が可哀想とかそういうのを思って受け入れたのではないし、ノリでもないわ。自分の気持ちに沿って答えたつもりよ。ただ、私は未来のことを真剣に考えているだけ。貴方が私の家に来るとしたら、普通に遊びに来たときか、結婚話を親に伝えるときぐらい。もしかしたら、そのような経験もせずに私たちは終わっているかもしれない。その可能性だって十分あり得るのよ。」

「確かにそうですけどね。まあ、ノリじゃないということを聞けて安心です。というか嬉しい。」

「そう、お互いに良かったわね。」

「ああ、良かった。じゃあ、またな。」

俺は、彼女の部屋を出て玄関へ向かった。最後にお邪魔しましたと言って出ようとしたら、彼女に呼び止められた。振りかえろうとしたら、頬に感触があった。彼女の唇が俺の頬にあたっている。数秒間動けなかった。それから、彼女が離れたときこう言ったのだ。

「お、お礼というかご褒美だから。」

とツンデレっぷりを発揮させていた。俺はどんな顔をしていたのかは分からない。ただ固まっていて、動きがおかしい状態で帰った。

今日は、俺にとって忘れられないだろう。何せ、キャパオーバーを過ぎて爆発しそうな状態になったのだから。



第2試合

初デートからかなり経ったある日。俺たちは、大宮に来ていた。あの日以来、俺と彼女の距離は最初より縮んだと思われる。親しくなったものの、彼女の秘密は未だに分からない。何度か遊んだが全く分からない。ヒントもくれないので見当すらつかない。しかし、俺としてはそろそろゲームに勝って終わらせたい。今日、大宮で遊ぶのは彼女の秘密を見つけるため。この大宮には、鉄道博物館がある。完全に俺が行きたいというわがままだ。意外にも彼女は嫌だとは言わずOKしてくれた。

そんなわけで、大宮の駅にいる俺達はそこからまた電車に乗って博物館へ向かった。人がたくさんいて、思った以上に混んでいる。俺は、はぐれないようにという口実で手を繋いだ。ドキドキする。彼女に伝わっちゃうかなこの高鳴り。

引退した電車達が展示されていて、中に入ることができるものもある。また、シュミレーションができたり、カフェがあったりと一日中楽しめる施設だった。

俺は、ずっと行きたかった場所だからかハイテンションだった。彼女は、同じくハイテンション。俺よりもハイのような気がしてならない。なぜなら、彼女の目はさっきからキラキラ輝いているのだ。今までにない笑顔をたくさん見ている気がする。そして、お昼はカフェで食べた。

「どう?楽しい?」

「え?・・・まあ、そうね。たくさんの展示物やシュミレーションがあって楽しいわ。」

「つい最近引退した新幹線もあるんだぜ。」

「そ、そう。よくは知らないけど。」

彼女、目を合わせてくれません。一体どういうことでしょう?

「なあ、こっち向けよ。」

「別に向かなくたっていいじゃない。」

「そうだけど、ずっと俺と目を背けてるじゃん。」

「そう?貴方が気づかないだけで、私は見てるわよ。ホラ。」

言うなり、チラッとこちらを見た。いや、そんなんじゃなくて、普通に目を見て話してほしいんだけど。

「なんか、言いたいことでもある?」

「ないわよ、まったく。」

そうですか。分かりませんね、女の子ってのは。彼女の様子のおかしさの原因はまったく分からない。

「なんか、隠してる?」

「そ、そんなことないわよ!」

あの、裏返ってますよ、声。やっぱ、なんか隠してるんだね。問い質したいところだけど、ここで聞くのはよくないな。またあとでにしよう。時間を見てみると、13時過ぎくらい。そろそろ帰るかな。

「帰る?」

「え・・・・。」

彼女は、急に悲しそうな顔になった。楽しかったら、帰りたくないよな。分かるよ、でも遅くならないうちに帰らせたいんだ。あのときのようなことが起こらないように。

帰り道、彼女は、おとなしかった。おとなしいよりも、悲しいのほうだろう。また、来れるからと言っても顔は晴れない。ちょっと失敗だっただろうか。

「ねえ、秘密分かった?」

ずっと黙っていたのに、一体どうしたっていうんだ。

「まだ分からない。」

「そう。今日はヒントが多かったのに。」

そして沈黙がでてくる。秘密・・・。今日はそれを探すためでもあったのにまた見つけることができなかった。ヒントが多かったのか。全然分からない。・・・もしかして今日様子がおかしかったことかな。だとすると・・・なんだ?

いつの間にか自分達の家の方へ戻ってきていた。それまで俺たちは、ほとんど無言。なんか倦怠期迎えたカップルみたいだな。

「今日も送るよ。」

「今日はいいよ。まだ明るいし。」

「明るさとか関係ないよ。」

「じゃあ、今日も甘えちゃおっかな。どうせいいって言ったってきかないんだろうし。」

まあね。あと、どうしてももう少し一緒にいたいんだ。聞きたいことあったのに電車の中で聞けなかったし、電車の中ではあまり話さなかったし、うかない顔してたし。

「ねえ、ちょっと聞きたいことあるんだけど・・・。」

「なに?」

「今日、すごい楽しかったか?」

「うん。」

「じゃあ、なんでうかない顔してるの?」

「うかない顔してた?」

「俺から見るとな。」

「別になんでもないんだよ。」

「そうか。じゃあ、質問を変えよう。お前、電車にはまった?」

「ええ!?」

めちゃくちゃ驚いてるし、裏返ってるしってことで図星ととらえていいですか?

「じゃあ、今日すぐに帰りたくなかったよな。」

「そんなことないよ。」

また目をそらす。

「ウソつくときって目をそらす傾向があるんだな。さっきのカフェの中でも今でも目をそらしてたし。」

「ウソついてないよ。」

まだめをそらす。

「ならこっちを向いて話せ。正直に答えてくれたらそれでいいんだよ。電車、好きになっちゃったんだな?」

彼女が頷く。

「そうか。じゃあ、すぐに帰りたくなかったよな?」

二度も頷く。

「お前の秘密、電車好きってことだな。」

彼女の顔が一気に赤くなっていく。

俺がこういう答えを出した理由は、ゲームのときの様子、今日の様子を見てそう思ったからだ。ゲームの方は、女子はあまりやらないだろう。あと、今日の方は、彼女は俺よりはしゃいでいたと思うし、帰りたくなさそうだった。あと嘘をついたしね。こんな理由でゲームの答えにするのはおかしいと思うけど、彼女は今日はじめてのヒントを与えてくれたのだ。そのヒントは、「今日はヒントがあった。」ということ。今日を振り返ってみてヒントとなるものは何か。多分電車だろう。すると電車が好きだということが彼女の秘密。

ちょうど答えの理由を言い終わったときに彼女の家に着いた。

「じゃあまた今度な。」

俺は、元来た道を歩いた。なんか、どういうことだとは問い詰めたくなかった。別に悪いことでもないし、隠す必要もない。俺はいいと思う。だけど、彼女に言えなかった。誤解されるかもしれない。

足音が彼女の家がある方向から聞こえる。どんどん大きくなって、ついに自分の真後ろまで来たかと思ったとき、腕を掴まれた。誰だと思って振りかえると息を切らした神田 日暮里がいた。

「どうしたんだよ。」

「あなたと話がしたい。だから家に来て。」

分かったと言って、彼女の状態を整えて家に向かった。これで2回目だ。今回も彼女の部屋に通された。前回と違うのは、彼女がずっといること。彼女は、ずっと俯いていた。俺は、何か言った方がいいかな?

「どうした?」

「・・・電車好きでショックだった?」

「なんで?」

「だって、答えの理由言ったあとすぐ帰っちゃったから。」

「俺は、ショック受けてないよ。逆にお前の方が落ち込んでるようにみえるけど。というか、なんで秘密にしたの?」

「嫌われたくなくて・・・。あと、女子が電車好きってひかれちゃうかとも思って・・・。」

「心配すんなって。俺はね、別にいいと思うんだ。電車が好きだろうがなんだろうが、個人の自由なわけだし、電車が好きならお互いの共通点が増えたということでプラスに考えろよ。あと、お前の秘密が分かって別れるほど安易な気持ちでお前を好きになったわけじゃない。」

「ほんと?」

「俺がふざけ以外でお前みたいに嘘ついたことがあるか?」

「・・・ない。」

「だろ?そもそも、覚えてるか?俺から言ったこと。」

「そういえば、そうだったね。」

「だから、もう隠さないで。嫌われるとかそういうのも心配しないでいいから。俺から好きになったのに俺から嫌いになるって勝手すぎるだろ?」

そして、俺は彼女を抱きしめた。安心させたい気持ちでいっぱいだった。君のことずっと好きだから。こんなこと恥ずかしくて言えないから行動で示そうと思うとやっぱこうなってしまう。分かってくれるといいな。

「神田 日暮里。お願いがある。」

「なに?」

「ふざけ以外で嘘をつかないこと。お互い名前で呼び合えるようになること。もっとお前のことについて教えてほしい。」

「分かった。名前って確か・・・えっと・・・。」

片倉かたくら 久喜ひさきだよ。」

「じゃあ、久喜って呼ぶ。私のことは、日暮里って呼んで。フルネームはいやだ。」

「分かったよ。」

抱きしめた体を離すと日暮里はこう言った。

「私からも久喜にお願いしてもいい?」

「なに?」

「もっと、電車乗りたい久喜と一緒にね。あと、この間のお返しやって?」

この間のお返しってなんだ?日暮里は、右手を彼女の唇に、左手を俺の右の頬に当てた。

・・・なるほど。あのときのか。

「同じ場所にやればいいの?」

「それはお好きに。」

お好きにって・・・。日暮里は、目を瞑った。完全に違う場所にすると思ってる。彼女の思い通りにはなりたくないけど、まあいいや。だって、弱いから。

そして、唇同士を重ね合わせた。初めてのキスは恥ずかしい。だけど、時間が経っていくと慣れていく。互いが離れると、顔が一気に赤くなってそっぽを向いた。


「ねえ、久喜は私でいいの?」

「日暮里でいいんです。」

「どうなっても知らないよ~。」

「別にいいですよ。もういろいろと味わったから。」

あれから、俺たちのデート先は、ローカル線で行くものが多くなった。ローカル線は、都心で走っている電車とはまた違った印象を与える。それが楽しいのだ。2人で感じるからもっと与えられる。

そんなことをもっと君と感じていたいな。

甘くしたのですが、加減ができているかどうか・・・。

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