有意義な死
「有意義な死」
つまらないことでと人はいうかもしれないが、今回については僕も確かにつまらないことだと思う。それは僕が自殺を考えたことだった。二回も受験に失敗し、彼女は友人にとられ、バイトもクビになった。
ホームへージを見つめるたびに未来への希望もなくやりたいこともなくそんなぼんやりとした日々の中が続いていた。そんなある日のこと、変わった求人がインターネット上に掲載されていた。
求人:男女、年齢、職業とわず。 ただし、自殺志願者であること。
まさか、そんなことがあるのだろうかと本当に興味本位以外ない状態だった。
そのあとに日付と説明会会場の住所が掲載されていたがそれはただの会場を貸してくれる場所名で本社の名前や住所はまったくどこにも書かれていなかった。
その日、当日参加も可能だった。暇だったのででかけることにした。説明会は一時からと三時からになっていて、思った以上に多い参加者だった。おじいさんたちから若者、まだ二十歳前なのではないかという人もいた。印所的だったのはランドセルのような鞄さえも見えたことだったしかしそんな状況が見えたのも机につく前までの話で座っては何も見えなくなった。
そこにあった机は両サイドくぎられており、話など出来ない状態だった。話などしたくもないのでこれはよかったと思われる。
時間になると部屋の明かりが消され声だけが鳴り響いた。
「ようこそ、みなさま、わが社の説明会におこしいただきありがとうございます。まず、確認させていただきたいのはみなさま、自殺志願者であること、そうでないかたには時間の無駄になりますのでおかえり下さい。」
とても静かな時間が流れた。
「それでは説明をさせていただきますが、そのまえにみなさまからみて右手にドアがあります。そこからでてすぐ左にお手洗いがございます。さて、わたくしどもの会社では自殺希望者のバックアップを行っております。世間では自殺は反対されておりますがわが社はそうは思いません。みなさまの命、ご自由になされて、かまわないと思います。しかし、ただ死ぬのはもったいないと考えましたわが社はみなさまのバックアップと同時に人様のためになることを考えました。まずみなさまにしていただくことはパスポートの作成。前のスライドをごらんください。」
そこにうつしだされたのはただの荒れ果てた地とそこに住むのだろう痩せほそった子供だった。
「この子供たちの住むA国では地雷があまりに多く、そして危険なために多くの子供たちの命が失われています。」
僕は募金団体か、宗教団体にでもだまされたのかと思い始めていたがその声の人は言った。
「そこでみなさまにA国に渡っていただきこれらの地雷解除に参加していただきたいと思います。」
それはまるでこれからキャンペーンをやるので、どうぞという口調だった。
「詳しい説明をしますとみなさまにはまず献血を行っていただきますそれによりたくさんの人が救われる予定です。次にパスポートをとっていただいてAに渡っていただきます。そのあと、現地の人たちと集合していただいて、地雷削除に参加していただきます。本来ならプロがやる話ですが人手不足です。どうせ自殺なさるなら、わが社に命預けてください。」
「こちらを希望の方には、この方法で、皆様の命を買わせていただきます。働いた分に見合うだけの資金をお支払いいたします。では次に、その他の皆様のほかの命は臓器提供で買わせていただきたいと思い、そのための自殺方法を考えてみたいと思います。スライドをご覧下さい。」
カシャ
火傷のような痕をした体が写し出された。
「死ねれば一番美しいと言われる凍死ですが、発見されれば低温火傷と同じ状態になります。しかも日本では捜索が行われるため、費用がかかります。死に行くのなら、一年中雪のある山でなおかつ自己責任で上る外国の山をおすすめします。見付からないことを願いながら。ただ、かなりの体力は必要とされることは間違いありません。それから臓器移植には難しい状況ですのであまりおすすめはできません。」
カシャ
電車に引かれている人の写真が出た。少なくとも五人は会場から出ていった。なぜトイレの場所を説明したのか、いまになってようやく理解できていた。
「電車への飛び込みの場合は、金銭的にかなりかかるのと、なんの関係もない通勤途中の人々に迷惑がかかるのであまりいいことはありません。」
カシャ
「これが九階のビルから飛び降りた場合です。半分は残ります。」
カシャ
「これが三十階から飛び降りた人の場合です。ほとんど原型をとどめません。」
「飛び降りは中途半端な階からだと中途半端に生き残ります。それと下にどなたかいた場合、その人が被害に合う可能性があるので誰もいないときにどうぞ。ただ、形をあまり残さないので臓器提供にはやはり向いてないものと思われます。」
カシャ
風呂に手をつけている写真が出たがすでに風呂の水は真っ赤に染まっていた。
「自殺の代表的なのはリストカット、手首を切ることですが、時間がかかり発見されやすいと言えます。少なくするためにその前に献血に行ってからにしてください。睡眠薬もお忘れなく。」
カシャ
「他にはナタや…。」
カシャ
「オノ…。」
カシャ
「後はチェーンソウもありますが、騒音が凄いです。」
「ナタやオノの場合は首がおすすめですが、かなり血が飛ぶということも考慮してください。ふきとりは不可能ですね。壁紙は全部とりかえることになるでしょう。」
カシャ
いろんなサイズの拳銃からライフルまでが写し出された。
「日本では少ないですが銃による死亡方法です。心臓を撃つのもいいですが・・・、」
カシャ
「このように頭をぶち抜く方が確実さが高まります。しかし、脳や心臓、どちらも使えますのであまり、銃での自殺はおすすめできません。」
「う…。」
ついに、僕の両隣はいなくなってしまった。
カシャ
曲がった腕の部分が映し出された。
「今一番の死亡率の多いものに一酸化中毒があげられます。場所は家でも車などでも可能なので、どこにでも起こりうるといっても過言ではありません。生き残った場合、すぐにではなくとも、なんらかの体に異常を起こす可能性が高いことと、亡くなる人の時間が様々で特定しにくいことから難しい方法といえます。早くに発見していますと、中途半端に助かってしまいます。遅すぎると他の人に見つかってしまい、遺体の確保が難しくなってしまいます。そして、酸素不足によって一番脳が影響を受けてしまうので、脳の移植は難しいとお考え下さい。」
カシャ
引っかかれた喉の写真が映し出された。
「毒による自殺は早いかもしれませんが、これは自分の手で引っかいた傷跡です。これからもわかるようにあまり、楽な死に方とはいえないかもしれません。それに入手も困難でして、持ち出せたとしても責任者に迷惑がかかってしまいます。命を途中で捨てるのですから、ひとさまにあまり迷惑はかけてもいけません。生きている間はいいでしょうが。」
カシャ
首吊りをした人の後姿だった。
「後姿ではわかりにくいかもしれませんが、首吊りの場合、目玉が落ち、下が伸び、排泄物が落ちます。これも死亡までに脳と目玉の角膜が使えなくなります。後片付けも大変ですのですので、3日は何も食べないでください。発見者が我が会社社員なら良いのですが、他の人の場合だとかなりのショックを与えることになると思われます。ビニールに体を収めてから行ってください。あと、注意点といたしましては、天井が弱いと天井が先に落ちます。ご注意ください。」
カシャ
最後に出てきたのは矢での死亡方法だった。
「弓道、ボーガン、アーチェリーなどがありますが、ボーガンが一番、人の手を煩わせることなくできますが、使用際は首にお願いします。頭ですと脳に貫通するため使用不可能になります。」
カシャ
矢が貫通した脳の映像が写し出された。
カシャ
「焼死はほとんど使えませんのでお断りさせてください。」
カシャ
麻痺した状態の体の一部が写った。
「睡眠薬は最近のでは亡くなれません。中途半端になるのでやめましょう。体を悪くしても、あとでの価値が下がるだけです。」
カシャ
真っ黒な肺が映し出された。
「肺も使えなくなるので、タバコも控えてください。」
「それでは十五分休憩時間を挟みまして次に爆破での死亡結果と遺言書の書き方と葬式費用
についての説明を行います。」
灯りが消え、それから全ての灯りがついた。外のロビーに出て、外の風景をみたら少しほっとした…。
会場内から出ない人もいたし、気分悪そうに出ていった人もいた。僕はとりあえず最後までいることにした。
戻ってしばらくするとまた、電気が薄くなり、ぼんやりとした感じの人が現れて、説明を始めた。
「それでは、遺言に関する説明にうつります。遺言とは別に財産を残すだけではありません。あなたの死後、何をどうするのか、まず、家具や思い出の品の処分、家をどうするのか。自分のものなら売るとしてもその売り上げを誰に渡すのか…など、この世に心残りのないように死んでいただくためのメッセージです。少なくとも、自殺を決めましたら、それを文章として残していただきます。」
カシャ
スライドに
遺書内容
一、名前
二、生年月日
三、自殺します。(内容や理由なども可能です。人に残したいメッセージなども可)
四、日付 母印
とあった。
「これだけは最低でも一人ずつ必要になります。よろしければ、髪の毛も残していただければ幸いです。」
カシャ
またスライドが変わった。
「葬式費用に関しましては体をいただくことを前提としていますので、こちらで負担させていただきます。希望形式、希望会社などございましたら、自殺前におっしゃっていただければ、手配致します。臓器は新鮮さが勝負ですので自殺する一時間前にはお知らせ下さい。それと時間がかかるような場所で行う場合は一日前にお願い致します。」
葬式の会社なんてどれも同じだと思っていたが、そんなことはないらしい。
「亡くなった方は一体と数えますが、一体の値段は提供できる臓器によって決めさせていただきます。臓器提供の場合、提供する側が支払う場合の資金はもちろんわが社で提供させていただきます。みなさまの使える体の部分は、脳、両目の角膜、両方の内耳、あご骨、心臓、心臓弁四枚、両方の肺、胃、すい臓、肝臓、両方の腎臓、小腸、股関節二つに、じん帯や軟骨など二十七個、骨は二百六箇所、骨髄約二キロ半、皮膚成人で約二平方メートル以下、血管は九万と半分キロメートル以上となっております。それぞれ、値段は提供する臓器や時間によって異なりますので、一覧表を来週までに作っておきます。」
「では、さ来週に同じ時間にこの続きの説明を行いますので、その時までには処分できるものは行い、遺書を持っておいで下さい。パスポートの申請もお忘れなく。本日はありがとうございました。」
明かりが一度消えてまたつくとぞろぞろ人が動き出した。
ほぼ満席だった会場の人たちは半分以下になっていた。
当然だろう。
さて、僕はさ来週行くか迷っている。前でしゃべっていた人のマイクを片付けていた女性に聞いてみた。
「あの…。」
「ハイ。」
「ここで話していたのはなんて名前の人なんですか?」
彼女はにっこり笑って言った。
「あの人に名前などありません。だって彼女はホログラフィですから。」
「じゃ、生きているわけじゃないんですか?」
「はい、彼女の遺言で作りまして、彼女の遺言通り、我が社で使わせていただいています。」
「あの声は?」
「生前に残されたものです。あなたもいかがですか?」
「いえ!結構です!」
僕は慌ててその会場をあとにしていた。
さ来週はたぶん説明会には行かないで生きているだろう。
「ちょっと!」
「あら、玲子さん。今日もいい司会だったわ。」
「どーも。それにしても人のこと、立体映像にしたてあげるのはやめてよね。第一、今の技術で作れるの?」
「さぁ、どうかしら?」
「うわ〜、いいかげんだなぁ…。」
「だって、あの子、さ来週迷っているみたいだったから。若い子が死なないようにね。」
「顔でわかるの?だからって・・・。」
「まぁいいじゃないの。あの子は生きるんだから。」
「それはそうだけど…。」
二人の話はまだまだ続くようだった…。