私の世界で居させて
子供のころから内気でいじめられていた私には、可愛い親友とたくさんの友達がいた。
緑色の帽子に、緑色の服。暖かい茶色の髪をした、女の子の人形。
私の握ったクレヨンが描いた、動物たち。
人形が親友であり、紙の中にいる動物たちが友達。
絵を描いてる時、それが私達の遊んでいる時だった。
* * * * *
――あの人形、どうしたんだっけ
授業中、ふと思い出した人形と紙の中の動物たち。
結局、私の性格は変わらない。
内気で、人と関わるのが苦手で。
人付き合いが怖くて、人と一緒にいるのが嫌で。
気づけばいつも一人だった。
それをいまさら悔やむこともしないし、何かをするわけでもない。
少なくとも、人と関わらなければ自分の世界で生きていける。
できるだけ、人と接したくない。
皆がいる世界に踏み込むと、私はいつも追い出される。
追い出されるくらいなら、
疎まれるくらいなら、
人が大勢いる世界よりも、自分の世界に居たい。
自分の世界は、いつでも自分を歓迎してくれるから。
――ああ、そうか…
あの人形、私が描いた絵と一緒に捨てられたんだっけ
* * * * *
休み時間、周りの皆はそれぞれ集まってはしゃいでいる。
私は、自分の世界に入り込んだ。
――目の前には、親友だったあの人形。
その人形は、私をジッと見ている。
『ごめんね、一緒に世界に居られなくて、ごめんね…』
私の呼びかけに、人形は首を横に振ると消えてしまった。――
チャイムによって、またあの世界に戻される。
重たい空気と雰囲気が、私を押し潰すくらいの勢いで圧し掛かってきた。
* * * * *
「あら?」
夜、長年使ってない棚を掃除していたお母さんが声をあげた。
目をやると、お母さんの手には紙が何十枚か握られている。
「懐かしいわねぇ。あなたの描いた絵が出てきたわよ」
お母さんの言葉に、思わずその紙を奪うように取る。
そのまま、階段を上がって自分の部屋に入った。
絵は今見ると、お世辞にも上手とは言えなくて。
でも、そこには私の世界が綺麗に映し出されていた。
――目の前にある、親友だった人形。
私をジッと見た彼女は、手を振った。
その瞬間、私の世界は音をたてて崩れ落ちた。――
嫌いな世界に戻り、しばらくして人形が手を振ったのは、別れのバイバイだったんだと気付く。
私は何十枚もある紙を濡らさないように、涙を流した。
* * * * *
「そろそろ写生コンクールか~」
「クラスに最優秀賞が出れば、私達でも自慢できるよね~」
「ああ、それだったら大丈夫だよ。ほら、あの子がいるじゃん」
「え?あの暗い子?」
「知らないの?彼女、すっごく絵が上手いんだよ」
―end―
――絵を描いてる時は、私の世界で、親友に、友達に会えるから――