第9話
「ひっぎゃぁぁぁぁぁ!!」
冒頭から醜い悲鳴で申し訳ありません。村人Aです。何故私がこんな死ぬ間際の豚のような悲鳴を上げながら村中走り回っているかと申しますと、今現在、私はデッドオアアライブのぎりぎりの逃走劇の真っ最中なのです。
とりあえず声を上げた地点からしばし走り、民家の物置の陰に滑り込みます。もうかれこれ一時間はこうして走っては隠れての繰り返しで、体力は既に限界。膝は若干笑い始めていますし、喉もカラカラ。深呼吸をしようと息を吸い込んだところで、隠れた物置の後ろから、地獄からの使者の声が聞こえてきました。
「お姉様!声はこちらから聞こえましたわ!」
「ほーら、どこに隠れたいお嬢さん!」
「四対一なのですから、勝ち目はありませんわよー!」
思わず息を止めた私のところまで、盗賊風のお姉さんとお姫様の降伏勧告が聞こえてきます。体力の限界は既に超えているので、うっかりすると、ふらふらと物陰から姿を現してしまいそうになりますが、そういうわけには参りません。先ほど言ったとおり、私は今、村人Aとして、いえ、RPGの由緒あるモブキャラとして、生きるか死ぬかの瀬戸際なのです。それだけはいけません。諦めたら、そこで試合終了なのです。
そもそも、何故私がこの様な状況に陥っているかといえば、話は今日の朝に遡ります。
酔っ払いと化した勇者とタイマン勝負をし、うっかり地雷のようなものを踏んでしまった気がしないでもない夜から一夜明けて、私はのっそりと目を覚ましました。今日ばかりは村人Aの職務を全うするのも億劫でしたが、そういうわけにも行きません。村人Aの仕事は、雨天荒天関係なしににこにこ笑顔で年中無休のハードな仕事なのです。
のそのそと着替えをし、寝室から出ようとしたところで、自宅の異変に気がつきました。寝室からドア一枚で区切られた台所というか居間というかダイニング的な部屋に、複数の人の気配がするのです。昨夜、逃げるように帰宅した私は、室内に誰もいないことを確認してから、厳重に施錠をしてから眠りにつきました。なので、自宅に人がいるはずがないのです。いるはずがないのに、人の気配がするのです。
嫌な予感が胸いっぱいに広がりますが、とりあえず状況は把握せねばなりません。恐る恐るドアを開けてみると、案の定目の前には絶望が広がっていました。勇者様ご一行がダイニングテーブルに大集合してお茶をすすっているのです。何故お前らがここにいるッ……!
ドアを開けたまま、呆然と立ち尽くすしかない私に最初に気付いたのは、魔法使いのお兄さんでした。
「お、嬢ちゃんおはよう」
その声に、勇者様御一行の視線が一斉にこちらに向きます。口々に挨拶をされ、とりあえず挨拶を返す小心者の自分が、今日ばかりは恨めしい!
「朝早くから押しかけてごめんなさい。でも、ひとつお聞きしたいことがあったのですわ」
立ち尽くす私に、お姫様が申し訳なさそうに声をかけてくださいました。眉を顰めた表情がなんとも悩ましい。そのお姫様の横で、盗賊風のお姉さんが口を開きます。
「いやぁ、お嬢さんごめんねぇ。勝手にお茶まで貰っちゃって」
「はぁ、いや、もう……なんでもいいです」
何しろ相手は勇者様御一行。常に門戸を開いておかなければならず、諸アイテムをかっぱらわれても文句も言えませんので、微妙な返事になってしまいました。しかし、気になることはあります。昨夜、私は確かに鍵をかけて就寝したはずです。イベントのある建屋ならば、無駄に屋外に鍵が転がっていたりするものですが、残念ながら我が家は村人Aの家。その様なイベントなどがあるはずもありません。その疑問を口にすると、盗賊風のお姉さんがあっけらかんと疑問に答えてくださいました。
「あたしにかかればこの程度の鍵、なんでもないやね」
けらけらと笑いながら、お姉さんがその豊かな胸の谷間から取り出したのは、一本の針金。なんという収納場所!私が男子中学生だったら、今の映像と情報で一ヶ月は頑張れます。何がって何が。いやしかし、針金程度であっさり開けられてしまう我が家のセキュリティは酷いものですね。いくらモブだと言っても、防犯意識は必要です。
鍵の交換を検討するかと玄関扉の方に目をやると、挨拶をよこしてから無言だった勇者様とばっちり目が合いました。一瞬、思わず真顔で見つめ合ってしまいましたが、みるみるうちに勇者様の顔が赤くなり、嬉しいけれども恥ずかしくて仕方ない、というような笑顔を覗かせます。その笑顔を見て、なんだかこっちまで恥ずかしくなってしまい、私は慌てて勇者様から視線を外しました。
「あああああの。それで、ご、御用というのは?」
お姫様の言葉を思い出し、そちらの方へ神経を集中します。勇者様の笑顔のせいで頬が熱くなり、若干動悸が激しくなっているのは気のせいということにしておきましょう。あとめっちゃ動揺して噛みまくっているのも気のせいです。気のせいということにしておいてくれ!
ひっひっふー、と息を吐いて己を静めていると、魔法使いのお兄さんが、茶碗を傾けながらこちらに笑顔を向けてきました。なんとも胡散臭い笑顔に、こちらの気のせいも自然と収まります。つまり、動悸が治まるくらいに、こいつは信用しちゃならねぇって見本のような笑顔なのです。
「いやぁ、お嬢ちゃんが心配でさー?」
「はぁ……」
そんな笑顔に添えられた言葉ですから、心底信用ができません。私の信用できないオーラを感じ取ってくれたのか、魔法使いのお兄さんが小首を傾げて、嫌だなー本当だよ?と言ってきます。いや、大の男のそのポーズは別に可愛くもないし求めてもいない。むしろウザい、ときっぱり言ってやろうかと口を開く寸前、正真正銘の可愛らしい声が私の耳に聞こえてきました。
「昨晩、腰痛がと仰っていたので、心配だったのですわ。もう大丈夫かしら?」
「だ、大丈夫ですお気使い無く!持病ですので、もう慣れっこです!」
心配そうな表情のお姫様に、あわあわと両手を振って無事をアピールします。そもそも昨晩腰痛云々と言って逃げ出したのは、あくまで逃げ出すための口実であって、持病が発動したわけではありません。本当に大丈夫かしら?と小首を傾げるお姫様に、首振り人形のごとく頷いてみせると、お姫様を含めた勇者様御一行の表情がすっと険しくなりました。あ、あれ?
「集合ー!」
険しい表情のまま、おもむろに立ち上がった盗賊風のお姉さんが挙手をしてそう声を掛けると、勇者様ご一行は険しい表情のまま無言で席を立ち、わらわらとお姉さんのもとへ集まって行きました。なんなんだこの状況。そしてこの珍しい画。
私が物珍しく勇者様ご一行の動向を眺めている間に、輪になった勇者様ご一行はぼそぼそと会話を始めました。まぁ、広くも無い室内でのことですから、会話の内容は丸聞こえなのですが。
「持病、と認められましたね。様子からするに、嘘では無いようですが……」
「そもそも、モブに持病っておかしいよな?」
「そうだねぇ、その持病がストーリーに絡んでこない限り、ただの村人Aに持病があるってぇのはおかしいねぇ」
「ああ、おかしいといえば、気のせいかとは思っていたのですけれど、前に一度だけ、あの方、勇者様と会話をしていらしたわよね」
「は!?いつですか姫君!?」
「ほら、私が初めて村に来たときに、あの方がわたくしをかばってくださったときがあったでしょう?あの時、勇者様たちがお説教をしたじゃない。それに返事をしていたわよね……」
勇者様ご一行がぼそぼそと会話を交わしている様子を眺めながら、私はじりじりと家の玄関に向かって蟹歩きで移動をはじめました。いや、深い意味は無いのですが、めっちゃ嫌な予感がしてきたもので。
勇者様ご一行のご指摘どおり、ストーリーに関係のある設定以外は全てそぎ落とされているモブに、持病があるということはありえません。病気の村人のために薬草を取ってくるというようなイベントがある場合は別ですが、私は本当に純粋な村人Aなので、そのようなイベントもありません。それなのに、私には腰痛という持病が存在します。また、お姫様が仰ったように、確かに一度だけ私と勇者様は意思の疎通が取れたことがありました。あの時は必死で忘れかけていましたが、どんな状況になろうと、モブと勇者様の間に会話が成り立つことはありえません。
以前ご説明しましたが、このRPG世界には、ありえないことが起こっているキャラクターやアイテムが存在します。プログラミングの欠陥という不具合である、バグを抱えたキャラクターやアイテムです。そしてそのバグを持ったキャラクターやアイテムを、要素持ちと呼びます。そう。私、ルルトの村の村人Aは、バグを抱えた要素持ちなのです。
「となると、やはりあの方は要素持ち、ということになるか……」
「そだなぁ、ほぼ確定だろあれは」
うんうんと頷き合っている男性陣の横で、盗賊風のお姉さんが、何か面白いことを思いついたような笑顔でぽんと手を叩きました。その笑顔に、ぶわっと汗が吹き出ます。なにこれ、ヤバくね?モブの本能がものすごい勢いで警鐘を鳴らし始めたんだけど。
恐怖におののく私の内心など知るはずもなく、お姉さんはにやりと笑うととんでもないことを言い出しました。
「ちょっと思ったんだけどさぁ。あのお嬢さんが要素持ちってことはだよ?バグが発動すれば、モブの縛りとかいうのからも外れるってわけだよね?」
「……そうだなぁ。システム外に弾き出されるわけだし、そのあたりも効力なくなるんじゃないか?」
「あらあら、そうなったらわたくしのお城にあの方をお招きすることが出来ますわ!勇者様も、あの方とお話ができますわね?」
お姫様が、ころころと鈴が転がるような笑い声を上げてそう言った途端、モブの私ですら目視できそうな物凄いオーラが、勇者様から間欠泉のように噴出してきました。オーラと言うより、殺気一歩手前ぐらいのやる気と言った方がいいかもしれませんが。
勇者様の殺気も恐ろしいですが、それより何より、先程からの勇者様ご一行の会話内容が怖すぎます。なんて恐ろしい事を言い出したのでしょうかこいつらは!?確かに要素持ちは、己が抱えているバグを発動させると、ゲームのシステム外に弾き出されてしまいます。しかし、弾き出された後どうなるかは生憎要素持ちである私自身も知りません。要素持ちの存在自体が稀な上、あえてバグを発動させるもの好きなんて滅多にいないので、バグの発動後のことを詳しく知っている人物がいないのです。ていうかそんな恐ろしいこと知りたくねーんだよ!むしろ考えたくもねーんだよ!システム外とかどういうこと!?いきなり消えてなくなるとかマジ勘弁ですよ!?
「バグを発動させるって言っても、発動条件が分からないとどうしようもないよなぁ。姐さん、村人のバグで思いつくものある?」
「そうさねぇ、村人ってことになるとバグも絞られるけど……袋小路で障害物と移動中の村人に挟まれて一歩も動けなくなるとか、メジャーなバグだよねぇ」
「でも、あの方は村人Aでしょう?行動範囲には袋小路も障害物もありませんわ」
「あとは……村を救うイベントがある場所で、村を救った後も、台詞が村を救う前と一緒とか」
「お嬢ちゃんは村人Aなんだから、そういうのあまり関係ないんじゃない?そもそもこの村、奥のダンジョン探索しかイベント無い村だし」
いやホントこいつら何言ってるの?マジなの?マジで私のバグを発動させる気満々なの?まごうことなき美男美女しかいない勇者様ご一行ですが、今の私の心理状態では、黒ミサに集まった悪魔崇拝の怪物にしか見えません。恐ろしすぎワロタ。この状況では、盗賊風のお姐さんの豊かな胸も、お姫様の背徳的な色っぽさも、私に幻想を見させてはくれないのです。
脂汗をだらっだら流しながら、私は未だじりじりと玄関までの距離を狭めていました。脱出を試みようとしていることを感づかれたら一巻の終わりですが、ありがたいことに勇者様ご一行は議論に夢中で、私が移動していることに気づいていないようです。よし、玄関扉まであと一メートル強。気づくなよ気づくなよ気づくなよ!某お笑いトリオの振りじゃなくて、心から本気で気づくなよ……!!
じりじりと距離をつめる私の目の前で、あれでもないこれでもない、と白熱した議論を繰り広げていた勇者様ご一行ですが、ふと、お姫様が声のトーンを落として静かに呟きました。その様は朝日を反射してきらきらと光るお姫様の美しい銀髪と相まって神々しさすら覚える光景でしたが、生憎内容は哀れなモブへの死刑宣告です。
「入り口近くの村人Aで考えられるバグといえば、ひとつ、有名なものがありましたわね?」
お姫様の呟きに、今まで白熱していた勇者様ご一行がすっと冷静になりました。
「……ああ、あったねぇ」
「……ああ、あれか。まぁ、確かにそれが一番可能性高いな。なぁ?」
お姫様の視線を受けた盗賊風のお姉さんがぽん、と手を叩き、そのお姉さんの目配せを受けた魔法使いのお兄さんが大きく頷き、最後に勇者様ご一行の全ての視線が、腕を組んで俯いたまま、物凄い勢いで殺気という名のやる気を噴出している勇者様に向かいます。朝日が差し込む和やかな我が家のダイニングが、それに似つかわしくない緊張であふれ返りました。張り詰めた空気に耐え切れず、ごくり、と思わず私が唾を飲み込むのと同時に、無言だった勇者様が口を開きます。口からこぼれる声は、明確な意思を持った力強い響きでした。
「村の外に押し出せる、ってやつか」
その勇者様の声が聞こえると同時に、私はすぐ横にまで距離をつめた玄関扉を派手に開けると、自宅から脱兎のごとく飛び出しました。チクショー!発動条件ドンピシャだよ!これだから勇者様は!これだから!!
背後から、あ、逃げた!お待ちよお嬢さん!追いますわよ!という勇者様ご一行の声やら椅子を蹴り倒す音やらが聞こえてきますが、そんなことにかまっている暇はありません。まさに今、私は己の存在意義をかけた一歩を踏み出したのです。
そんなわけで、現在私は絶賛逃亡中の身の上となっていました。思い起こせば、朝から何をやっているのだという猛烈な虚無感が襲ってきますが、実際にデッドオアアライブの状況に追い込まれている今、脱力している暇はありません。ため息一つをついて、今度はどこへ逃げようかと視線を上げると、唐突に絶望が目に飛び込んでいました。
盗賊のスキルなのか、完璧に足音を殺した状態で、盗賊風のお姉さんがこちらに向かってきているではありませんか。私が今朝のことに意識を飛ばしている間に、お姉さんはぐるりと私の後ろに回りこんでいたようです。隠れた物置の陰の反対側から見れば、当然私の姿は丸見え。その上先程視線を上げた際に、お姉さんとばっちり目があってしまっているのです。
「もう逃げられないよ……」
ぎゃあああ、ヤバいヤバい!盗賊風のお姉さんの目は、明らかにヤバい目です。昨日見た、親戚に一人は必ずいる見合いを勧めまくってくるオバちゃんより更に危ない目つきです。足音を殺すことは止めたのか、ぺた、ぺた、という早くも無ければ遅くも無い単調なリズムが、更に恐怖を煽ります。こえぇぇぇぇぇぇ!!今すぐ立ち上がって駆け出したいところですが、悲しいかな私の体力は限界。立ち上がることすらできずに、物置の影から這い出すのが精一杯でした。
そんな私の様子を見て、お姉さんはにや、と物騒な笑顔を浮かべました。明らかに、肉食獣が獲物に飛び掛る前の笑顔です。こえぇぇぇぇぇぇ!!でもそこはかとなく色っぽいのがすげぇぇぇぇぇ!でもこえぇぇぇぇぇぇ!
「なかなかしぶとく逃げ回ってくれたねぇ、お嬢さん」
お姉さんがそう言うと同時に、お姉さんの後方からお姫様がひょこりと顔を出しました。先程お姉さんと一緒に私を探し回っていたお姫様ですが、このお姉さんの様相は流石にヤバい。きっと止めてくれるに違いないと、現れたお姫様へ縋る様な視線を向けると、にっこり、というそれは素晴らしい笑顔が返ってきました。可愛らしいのに、妙にサディスティックな笑顔のまま、お姉さんの後方に控えるお姫様。こ、これダメだー!止める気ゼロ!ナッシング!敵だ!間違いねぇ!こっちも敵だー!!
お姫様の、まさしく天使のような悪魔の笑顔に気をとられておりますと、近くからパキパキパキっという音が聞こえてきました。思わず音のした方に目を向けると、いつの間にか盗賊風のお姉さんが私まであと数歩のところで立ち止まっており、その手に握られている円月刀の刀身が、ものすごい勢いで氷に包まれていっておりました。これはアレですか。物理攻撃の上に魔法属性を乗せる、という例のアレですか。そんな物騒なものをこんな街中で発現させて、一体どうする気ですかお姉さん。いや、うっすら分かるような気もするっていうか分かりきっているけどぶっちゃけ分かりたくないっていうかそんなの認めたくないっていうか現実を直視したくないっていうか。
「あんまり使いたかぁ無かったけど、ここまで逃げ回られちゃあ仕方ない」
ざり、とお姉さんが一歩踏み出すと同時に、氷の刃となった円月刀を逆手に持ち直しました。魔法で生み出された氷は、陽光に晒されても解けることなく、ひんやりとした輝きを放っています。
「ちょおーっと痛いかもしれないけど、なぁに大丈夫だ。蘇生魔法も蘇生アイテムも準備万端だからね!」
盗賊風のお姉さんのその言葉に、後ろにいるお姫様がどこから取り出したのか、麻袋を持って頷きます。おそらくあの袋は、アイテムを入れておく袋でしょう。あの袋の中に薬草だのパーティー全員の武装備品だのが各九十九個まで詰め込めるとか、なんというロストテクノロジー……。ていうか、袋に気を取られていたけれども、蘇生魔法と蘇生アイテムてどういうこと!?何!?やっぱりフルボッコにさせられるの!?そもそもフルボッコにさせられたところで、勇者様御一行やモンスターのように、HPやMP設定がきっちりしてあって、戦闘に対応できるシステムが組まれている方々はともかく、私のような戦闘非対応なモブに、蘇生魔法や蘇生アイテムが効くの!?ぶっちゃけ私は効かないと思う!だってそもそもHPの設定が無いんだもの!死んだら多分終りだもの!!
頭の中には色んなツッコミが浮かんでは消えてゆきますが、実際に口にできた言葉はなく、魚のようにぱくぱくと口を開閉することしか出来ません。しかし、そんなことは気にもならないのか、盗賊風のお姉さんが肉食獣の微笑を浮かべたまま、円月刀を構えました。
「うふ、覚悟しなお嬢さん!」
「だ、誰か助けてーッ!!」
とりあえず頭を抱えてうずくまってみました。いや、ただのモブが勇者様御一行のメンバーに勝てるとか万に一つもありませんので。まさか、こんなしょうもないことで人生を終えることになるとは、生まれてこの方考えたこともありませんでした。要素持ちとして生まれた以上、なんかロクな死に方とかできないんじゃないかなーとか思ったことはありましたが、この最期は完全に予想外。ていうかマジでこんなくだらないことで死にたくないんですけど!?