悪役令嬢は祟り神さま。
大きいことは良いことだ。
貴族学園の卒業パーティーだ。
「カガミ・クチナワ公爵令嬢、婚約破棄するっ」
アルフレッド王太子が、会場中に響き渡るように大きな声で叫んだ。
「そして、フェリシア男爵令嬢と婚約する」
その腕にはピンクの髪の小柄な女性。
胸がでかい。
「何故ですか」
王太子の視線の先には170センチくらいの身長のスレンダーな女性。
キレ長の黒い瞳。
腰まで伸びる濡鴉色の長髪。
白い肌。
少し茶色かかったマーメイドラインのドレスがよく似合う。
「真実の愛に目覚めたからだ」
キュッとフェリシアがアルフレッドに体を寄せる。
くすくすと勝ち誇った笑顔を見せるフェリシア男爵令嬢。
大きな胸を当てた。
「それから、フェリシアをいじめたな」
「何の話でしょうか?」
「うそをつくな、ノートや机に落書きしたり、階段で足をかけて転ばそうとしたな」
「怖かったですゥ」
上目遣いに王太子を見上げるフェリシア男爵令嬢。
再び大きな胸を当てた。
「そんな奴は国母にふさわしくない。 国外追放を命じる」
「それは、王陛下の許可を得ておるのですか」
王はいま外交に遠征中だ。
「今王太子である俺が代理だ」
「……そうですか」
◆
「一つだけいいですか。 建国の話は知っていますか」
カガミが頭上にかかげられた国旗を見上げる。
八つの頭を持つ蛇のデザイン。
「はっ、建国の時にこの土地の神と結婚して建てたという話だろ」
「岩に刺さった剣を抜いたり」
「アーサー王伝説ですね」
おっと、前世の、
「皇帝が子供のころ狼に育てられたとか」
「ロムルスとレムス、ローマ帝国ですね」
知識が、
「矛の先から出たしずくが島になったとか」
「淡路島ですか」
駄々洩れだぜ。
「ありふれた建国神話ではないか」
「……そうですか」
「衛兵っ、こいつを国境から叩き出せ」
「はっ」
「よろしいのですね。 初代王が娶った神は、神は神でも祟り神ですが」
カガミが小さくつぶやく。
「国が滅びますよ」
「やかましい、つれていけ」
カガミが出口に振り向く。
シュルリ
腰まで伸びた黒髪がまるで蛇のようにしなやかに揺れた。
◆
カガミの母は幼いうちに亡くなっている。
政略結婚であった両親は母が無くなると同時に、父は義母と義妹を家に連れてきた。
最初のうちはいじめられていたがしばらくすると止まった。
最近はほぼいないものと扱われている。
公爵家からの助けもなく粗末な馬車で国境の外に追い出された。
「ふむ、どうしたものでしょう」
卒業式のパーティードレスのままだ。
とりあえず隣国の街に歩こうとした時、豪華な馬車が近づいてくる。
馬車には、杖と絡み合う蛇の紋章。
「……世界保健機関《WHO》の旗印ですね」
おっと、前世の知識が駄々洩れだぜ。
豪華な馬車から同い年くらいの美丈夫が下りてくる。
「アスクレピオス王国が王、”カドゥケウス”です」
隣国の王が立っていた。
「ギリシャ神話ですか」
おっと、前世の……以下略。
「カガミ・クチナワ令嬢、我が王宮に来ていただけませんか」
「追放されたとのこと、ぜひ保護させていただきたい(祟り神である貴女を)」
「わが国では脱皮する蛇は死と再生を象徴します」
「医術の象徴でもありますね」
おっと、前……
「分かりました、お世話になります」
王にエスコートされて豪華な馬車に乗り込んだ。
◆
「な、なんてことをしてくれたんだっ」
遠征から帰ってきた王ががくりと膝をついた。
「父上、真実の愛に目覚めたのです。 フェリシアをいじめる女などいりません」
「……建国の話を知らんのか」
「知っていますよ、神を娶るなどばかばかしい」
「愚か者っ、細長の黒い瞳に長髪」
「クチナワ家は代々王妃の家系っ」
「カガミ令嬢は、八首のオロチが女性に化生した《《祟り神》》そのものだぞっ」
「ひっ」
フェリシア男爵令嬢がおびえた声を出した。
「ノートに落書き? それは血文字ではなかったかね」
「そして、その左足」
フェリシア男爵令嬢の左足に包帯が巻かれている。
「蛇のうろこのアザができていないかね」
「ひいい」
ガタガタと震えながら膝をついた。
「それはいじめなんて生易しいものではなく、”祟り”だ」
王が断言した。
同じような理由で義母と義妹も完封している。
「そ、そんなあ」
「これから、どうなるのですか」
しゃがみ込んだフェリシアの肩を抱きながらアルフレッドが聞く。
「……全身にあざが廻っていくという」
「い。いやあああああ」
フェリシア男爵令嬢の絶叫。
「大変です王っ」
「来たかっ」
北方の警備兵から連絡だ。
この国は北に山脈があり良質の鉄がとれる鉱山が多数あるのだ。
そしてその山から八つの大河が流れ出ている。
「山脈全体に大量の雨が降っていますっ」
「くっ」
山脈の向こうには温暖な海が広がっており、海からの風で湿気った空気が山脈に衝突。
「大量の雨を、祟り神である、”クチナワ”様が抑えてくれていたのだ」
今の神は、カガミ。
国外追放されたために抑えが効かなくなったのだ。
山脈に多数あった鉱山は崩壊。
酸化した鉄分が含まれ赤く染まる大量の土砂が八つの大河に殺到。
王都も含めて下流の街はことごとく流されていった。
◆
「滅んだねえ」
”カドゥケウス”王がしみじみと言った。
「ええ、……警告は致しました」
「それと、難民の受け入れをありがとうございました」
「いや、国際条約でも決められているし」
「1951年、『難民の地位に関する条約』と1967年、『難民の地位に関する議定書』でしたか」
これは、前世の話だ。
おっと、前世の知識が駄々洩れだぜ。
「これからどうするのですか」
「うーむ、王国の(祟り)神として土地に縛られていましたが護るべき民もいませんし……」
「では、この国を護ってくれませんか」
「えっ」
「その代わり貴方のことは一生かけて守り通しますっ」
「結婚してください」
”カドゥケウス”王が膝まづいて左手を取った。
正式なプロポーズの仕方だ。
「浮気とかしたら祟ってしまいますよ」
「浮気なんかしませんっ」
「よろこんでお受けします」
カガミはまなじりに涙を浮かべながら笑ったのである。
◆
その後、二人は結婚し五人の子宝に恵まれ幸せに暮らしたのである。
隣国はそのままアスクレピオス王国に吸収され、カガミの力で雨は止まった。
今急激に復興している最中である。
ちなみに避難民の中に全身蛇のウロコのようなアザを持つ少女と元王太子のような男性がいたということだが、その後二人がどうなったかはわかっていない。
「ふふ、このようにして、”断罪”と、”ざまあ”が成立したのです」
「? なんだいそれは」
愛しい人を膝の上に乗せた王が聞く。
「いえ、前世の知識が駄々洩れなのです」
濡鴉の髪が離さないというようにシュルリと二人を巻いた。
了
祟り神、カガミの固有神術、”八咫鏡”。
浮遊する鏡を召喚して光線を放つ。




