メシイヤなエルフ
「えっと、素材集めないと!!」
私は村の外れの森の中で薬師を営んでいるエルフなんです。
どうやら、村では病気が流行っているみたいで。
村の薬屋に頼まれて私は治療薬の素材を集めているんだ。
早くしないと、大変なことになっちゃうから頑張ろう。
えっと、森の中で集めようか。
ヒルダの薬草。
キルヒの根っこ。
スライムの核。
なんかそこら辺に落ちてた動く触手。
暗黒物質。
毒。
「うん!こんなところでいいかな!!」
塩とか砂糖は家の中にあるし。
そろそろ作り始めないと。
じゃ。家に帰ろう。
「うん、これでよし」
よし、準備できたね。
早速作るぞー!!
「まずは、ヒルダの薬草からだよね」
乳鉢の中に薬草を入れて。
粉々になるまで、すり潰した。
「うん、粉々になったね。大きな鍋に移そうか」
じゃあ、次はキルヒの根っこも乳鉢に入れてっと。
うん、いい感じ。じゃ、鍋に移そう。
水を入れて煮詰めよう。水はこのくらいかな?
「鍋にスライムの核をそのまま入れてっと。煮詰めようか。”燃えろ”」
呪文を唱えてかまどの薪に火をつけた。
その上で鍋を煮詰めていく。
……。
さて、ここからだね。
この触手動いてるけど、まあ。殴れば動かなくなるかな?
私は触手に拳を振り下ろした。鈍い音と共に触手の動きが緩やかになる。
まだ動いてる。動かなくなるまで殴ろうっと。
「よし!この触手も鍋の中に入れてっと」
ポチャン。
触手は動き出した。鍋からは湯気が出ていた。
まだ生きていたの?鍋の中で触手は暴れている。まあ良いかな。いつかは動きが止まるだろうしね。
そして、暗黒物質。これをどうしようかな。
うーん。そのまま入れようか。こういうのフィーリングが大事だよね。
「えい」
うん、鍋の中が虹色になってる。良い感じかな?
触手がまだ暴れている。元気だなぁ。
毒も入れてみようか。毒も薬になるって聞いたし。
よし、触手の動きが止まった。
後は味を整えたらいいかな?
「うん、味見してみようかな」
ちょっと塩味が足りないかな?
袋一個分入れてみようか。
あ、入れすぎた、砂糖で中和しよう。
うーん、今度は甘くなりすぎかな?
もうちょっと塩を注ぎ足してっと。
隠し味にそこにいたトカゲも入れて。
うん、美味しい、私ながら良い出来だ。
「完成!!早く村に届けないと」
私は鍋を持って、村に駆け出した。
◇ ◇ ◇
「このままじゃ村は全滅じゃ…」
ワシは村長をやっておる。つい先日のことじゃった、1人の村人が高熱を出した。それだけじゃなく次々と熱を出し始めた。まだ誰も回復しておらぬ。どうしたら良いのか分からず村外れの森に住んでいるエルフ様にお願いをしたところ、薬を作ってくれるそうじゃ。
もうエルフ様しか頼るところがないがそんな早く薬を作れるわけも無い。ワシも熱っぽくなってきた。ここまでかと思っていると。
「はぁ…はぁ…。村長、遅くなりましたが薬は完成しました、これを飲ませてあげてください」
大きな鍋を持ってエルフ様が来てくださった。肩を上下させて、額には汗で光っている。ここまで急いで来てくれたのか。涙が出てきた……エルフ様。ありがとうございますじゃ!!
「ありがとうございます……では、この薬を。なんだこれは……」
鍋の中で何か蠢いておるぞ、しかも虹色に光っておる。
えっ、これは飲まして良いものなのか?
「はい、飲ましてあげてください」
キラキラした目で見ておる。これは試されているのか?
まさか、これを……。
「あの、この蠢いたものは?」
「触手です!!落ちてたので入れてみました!!」
あの、落ちてたって……。
これがなんだかご存知ないのですか?
ワシは誤ってしまったのだろうか。
無邪気な笑顔で人体実験するエルフに騙されて。
「これは……飲めるものなんですか?」
「ええ、飲めますよ」
エルフ様は手で掬って飲んだ。
えっ、飲んだ?
エルフ様は私に笑顔を見せてきた。
「ほら、大丈夫でしょ?」
口元が虹色に輝いておる。
とりあえず、飲めるものなのか。
この色といい、蠢いているものといい。
身体が拒否反応を起こしておるぞ。
「ギシャー!!」
え、鍋の中から声が聞こえた……。
「元気ですよね?毒も入れたんですけど」
は?今なんて言った?
このエルフ、ヤバいやつじゃ。
だけどもう遅い。
どっちみち、他に手はないんじゃ。
ワシが犠牲になったとしても一抹の望みにかけよう。
だが、その前にやる事がある。
「ちょっと失礼」
ワシは席を外した。
そして、筆と紙を手に取って書き始めた。
『この手紙が見つかる頃には、ワシの命はないだろう。おそらく村外れの森に住んでいるエルフが薬を勧めてくるかもしれん。だが、それは飲むな。飲むと死ぬ、その女はワシらの現状を知って、人体実験をしに来たのだ。村は疫病で全滅するかもしれない。だがその女の思い通りにはさせないでくれ、頼んだ」
ワシは戻った。
「エルフ様、席を外してすまんのう」
「いえいえ、村も大変な状況ですものね」
エルフ様は笑顔でこちらを見ていた。
「では、の、飲んでみます」
「はい、どーぞ!!」
覚悟を決めて手で掬って飲んでみた。
口の中にドロっとした感覚が広がる。
苦い。しょっぱい。甘い。辛い。
これは人が飲んではいけないものだ。
口の中に酸味が広がる。
でも飲まないといけない。
無理矢理喉に押し込んだ。
何かが喉を通る感覚がある。
蠢く。何かが喉を蠢く。
喉の奥で何かが……。
「…長!」
遠くから何かが聞こえてくる?
「村長!!」
目の前には綺麗な顔があった。
「よかった、飲んだら気絶しちゃったので心配しました」
ワシは生きてるのか?
身体の熱も消えている、まさか本当に。
あれは薬だったのか?
「体調はどうですか?」
「ああ、熱も治っておる……」
「よかった、効いたんですね」
このエルフ様は本物だったのか?
だが、効いておる。
これを、これを村の皆に飲ませば
助かるのか!!
「エルフ様、ありがとう!!早速飲ましてくるのじゃ!!」
「えっ、はい。元気になったようで何よりです」
その後、皆に飲ませに行った。
「こんなの飲むくらいなら死んだ方がマシだ!!」
「助けて、村長が狂った!!」
「悪魔だ、村長の顔をした悪魔に違いない!!」
村人は皆大喜びで薬を飲み始めた。
これで助かるのじゃ。
ワシは良いことをした。
そう思え。
「どうやら、疫病は収束したようだ。エルフ様、感謝致します」
ワシは村の会議で村長を降ろされることになったが後悔はしてない。
村人が助かればいいのじゃ。
「いいえ、助けになれたようでよかったです」
「はい、その、村にはお金が……」
疫病で働き手が減ったから村には余裕がない。
どうしたらお返し出来るだろうか。
「お金なんていいですよ」
「えっ?」
「助けられた。それだけで十分ですよ?」
続けて、エルフ様はこう言った。
「私だって困ることはあります。だから困ったときは相談に乗ってくださいね」
エルフ様はまるで女神様のように微笑んでいた。
そう言った後、家に帰りますと部屋を出て行った。
ふと涙が流れてくる。
こんなに優しい方がいるのか。
それと明日から仕事どうしよう。
◇ ◇ ◇
「味がしない…」
エルフ様の薬は万能では無かったようだ。
代わりに誰もが味覚を失った。
「助かったのはいいんだけどさ、これじゃ飯を食べる気にならねーよ」
「文句言うつもりは無いけど、もう飯を食べるのも嫌!!」
お前ら、あの薬が無ければ村は全滅していたんだぞ!!
奇跡的にエルフ様が近くにいたから助かったんだ。
まあ、飯が嫌になるのは同感だけどな。
…………。
たしかにエルフは村を救った。
だが、皆味覚を失い。飯を食べるのが嫌になった。
そして、その後もエルフは味覚を犠牲に多くの人を救った。
だが、副作用にも苦しんだようだ。
いつしか、そのエルフは
「命が助かるけど、飯が味しないの嫌!!」
「飯が嫌……」
「メシイヤ……メシイヤ……」
そう。
後世に『メシア』と呼ばれる事になった。




