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この電話番号はこの通話をもって終了となります…

作者: 大山 晶登
掲載日:2026/02/10

※この作品は、日常に紛れ込む「違和感」と「置き換わり」をテーマにした短編ホラーです。

固定電話、自動音声、アップデート――

どれも現代では珍しくないものですが、

「もしそれが、あなた自身を更新するためのものだったら?」

午後の静かな時間に、どうぞ。

午後の陽射しが柔らかく差し込むリビング。

誰もいないはずの部屋に、固定電話のベルが低く響いた。


「ああ〜もうっ!誰よ!」


ナンバーは非表示。受話器を取ると、沈黙のあと、自動音声が淡々と告げる。


『この電話番号はこの通話をもって終了とな――』


「…っ!」


恐ろしくなり受話器を乱暴に置いた。時間が止まったような、重苦しい沈黙。


「こっ…わ…」背筋がゾクゾクとした。


その直後、スマホもパソコンも、まるで意志を持つかのように動き出す。


「え…なに?」


彼女のIDや情報は、勝手に書き換えられ、指先は自然に動き続ける。

抗おうとしても、意思は空っぽ。体はまるで誰かに操られているかのようだ。


「まって…止まって…いや…やめて……」


鏡を覗くと、顔がじわじわと歪む。口元や目元から、微妙に遅れて崩れるノイズ。


「え…え……」


リビングから、すべての電子音が消えた。

皮膚が、脱皮のように静かに剥がれ落ちる。


その際、“ミチ、ミチ……”と、濡れたビニールを引き剥がすような粘り気のある音が、静かなリビングに響いた。


脱け殻となった古い皮膚の裏側には、琴葉が今朝まで食べていた食事の残り香や、昨日かいた汗の匂いが、かすかに、けれど生々しく残っている。


だが、新しい『彼女』には、もう匂いがない。


彼は床に落ちた『かつての自分』を、汚れた雑巾でも見るような無関心な目で一瞥すると、窓を開けて午後の風を通した。


自分の存在が『無機質なデータ』へと完全に置き換わったことを、その鼻腔が、風の匂いすら感知しなくなったことで確信する。


新しい体、新しい意識。

動作に淀みはなく、バグはすべて修正されている。


鏡の中の自分は、不敵な笑みを浮かべたまま、指先で顔をなぞる。

笑みは、親愛なる友人さえ疑わないほど自然で完璧だ。


スマホの液晶には『アップデート完了』。

彼はそれを指で愛おしそうになぞり、消す。


アドレス帳を開き、「琴葉」という存在が築いた人間たちのリストから一人を選ぶ。


発信ボタンを押すと、数秒後、相手が出た。


「……あ、もしもし? ごめん、昼間に。今、ちょっといいかな。話したいことがあるんだ」


声は完璧に、琴葉本人のものを再現している。


リビングの空気は穏やかだが、読者にはわかる――

この“新しい存在”は、元の主人公を完全に置き換えたのだと。


固定電話が再び、誰かを待つように低く、けれど確実に鳴る。

今度は、この存在が次の“誰か”に宣告を届ける番。


陽光に照らされた平凡なリビングで、悪意は何もない顔で、静かに侵食を始める。


突如かかってくる固定電話から流れてくる自動音声――あなたは抗えますか?


『次は、あなたの番です。』

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

作中の「彼/彼女」は、特別な存在ではありません。

いつもの部屋、いつもの時間、いつもの端末。

ほんの小さな違和感が積み重なった結果です。

固定電話がある家庭ならこそ、「鳴ったらおかしい」と気づける。

けれど――

もし本当に置き換わったとして、周囲は気づくのでしょうか。

次にアップデートされるのは…


画面の向こうかもしれません。

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