第2話 うわっ…僕の能力、弱すぎ…?
「いよいよ僕の番か…」
ついに僕が装置を使う番になり、ふと独り言がこぼれた。さて、どうなることやら。ステータスは期待しないとして、せめて能力さえ良ければどうとでもなるんだけど。本当に来てくれ、頼む、神様!
そう考えつつ、装置に手をかざした。すると眼前にゲームのGUIのような表示と、頭上にプロジェクションマッピングのように自身の持つ能力――表層観念――が表示された。
個体名:山田 生唯(紘断人)
表層観念:【生きる】【訳す】
は?【生きる】?何だそりゃ。しかももう一個の【訳す】は他のクラスメイトも持ってたやつじゃん。ということは実質これ一個…?はい、人生\(^o^)/オワタ。おしまいおしまい。僕の異世界生活、次回作を乞うご期待!!!
「はっwww、あいつ、【生きる】だってよwww」
「何が出来んだよwww」
やめてくれ、その言葉は僕に効く。え、本当に何ができるの?あ、そういえばあの枢機卿能力の詳しい使い方は僕にしかわからないって言ってたな。頼む、使えるもので有ってくれ。
そう思い、すがるような思いでGUIの能力欄を凝視し、能力の説明文を読んでみた。
【生きる】:生きるための行動を起こす。
【訳す】: この世界の各地の言葉と日本 語とを翻訳する。文章を話す、書く、聞く、読む時全てに自動発動。
はい、二度目の\(^o^)/オワタ。いよいよお亡くなり案件じゃまいか。おしまい。もう無理だね、諦めよう。ないものはない、戦う必要はなくなったとして、後は衛生兵的なポジションを取ればなんとかなるかな。うん、もう考えないようにしよう。
そう思い、僕はトボトボと装置から離れていった。
「あ、ちょっとお待ち下さい。指輪を忘れていますよ。」
多少の驚きから冷めたようなグラウェが僕を引き止めた。
そういえば忘れていた。ステータスか、ワンチャンこっちがみんなより高ければ冒険の前半は持つかも。
そう一抹の光明を見出しながら指輪をはめ、そしてステータスを見た。
個体名:山田 生唯(紘断人)Lv.1
HP:60 MP:50 ST:40
STR:41 INT:81 DEF:36
MND:102 VIT:80 DEX:72
DV:47 LUK:50 KRM:0
うーん、この。なんとも言えないけどどうなんだろうか。これを見た感じ最高と最低の差がありすぎるな。特にKRMとか、何だこれは。DVってなんだろうか?流石にドメスティックヴァイオレンスではないと思うが。相手もいないし。
その時、なにか思い出したかのようにグラウェが
「ああ、すっかり忘れていました、申し訳ない。皆さん、今指輪を嵌めて自身の能力値をご覧でしょうが、あなたがたと同年代の一般市民を基準として、大体全て50という数値が平均的です。ですので、皆さんの今の強さもそれと同じくらいだと思います。」
ほうほう、ということは…ST、STR、そして謎のDVとKRMが一般人未満か。前二つに関しては召喚前から体育が苦手でしてこなかった弊害かな。そして、HPとINT、MND、VIT、DEXは普通より高いな。何ならMNDは普通の二倍だね。どうしてかな。HP、VITに関しては前から虚弱だったのに高まってるから、ワンチャン能力で底上げされてるのかも。INTとDEXに関しては前から勉強と手芸とか料理とかが得意だったし、その影響かも。まあ平均より高いものがあるってだけで少しマシか。
そう安堵していたところ、他のクラスメイト数名が話しかけてきた。
「やあ、【生きる】君、きちんと生きられてますか〜?」
「てか生きるのが上手って、逆に何ができるんだよw」
「流石!生きるの上手君!」
「でもお前この世界で生き残れるの?普通に心配なんだが。」
やめてくれ、その攻撃は僕に効く。まあ気にしないけど、めんどくさいから適当にあしらうか。
「やめてください、そんなこと!」
ここで救世主、委員長の理慈が登場した。
「まああまそう怒んないでって委員長、ちょっと冷やかしただけだよ。」
謎の軍勢の一人はそう繕った。
「冷やかしなんてもってのほか、駄目です。いいですか、どんな能力だって使い道があります。そもそも能力だけで人を見るのはどうかと思いますよ。」
「ごめんって、誤るよ〜」
「きちんと謝ってください。」
ちょっとめんどくさくなりそうだな。止めるか。
「まあまあ、【生きる】ことしか出来ない僕より、もっと見応えがありそうな人を見に行ったら?委員長も、僕は言われても特に気にしてないからもういいよ。ありがとう。」
「はあ、そうだな。つまらんし他のとこ行こ。」
「そう、ですか。お礼はいりません。私のすべことですから。」
そうして謎の軍勢と委員長は帰っていった。
っふう、助かったな。めんどくさいことは御免だよ。まあそれはそれとして、結構能力の当たり外れが激しくないかな?他の奴らはどうなんだろうか。
辺りを見回すと、能力に歓喜するもの、そして嘆息するもの、その二極化が起こっていた。まあそうなるわな。これで扱いが決まるも同然だもんな。
そう思い自身もまたこれからのことを憂いていると、クラスメイトがざわめき出した。どうやら委員長の理慈の能力で盛り上がっているようだ。どれどれ、僕も見てみるか。
個体名:渡辺 理慈(紘断人)
表層観念:【正す】【執る】【訳す】
おお、さすがは委員長。普段からクラスの風紀を正し、指揮を執っているだけのことはある。そういえばグラウェが言っていたけど、この表層観念という能力は今のところ喚び出される前に得意だったことやしてきたことが強化されたものとして現れるらしい。ということは…え、ちょっと待って。それじゃあ僕って生きること以外何もしてないし上手じゃない判定なのか…え、ショック。
そんなふうに僕の心に深い傷が刻まれている間、クラスメイトが委員長を持て囃していた。
「さっすが〜、いいんちょ〜」
「やっぱかっこいい!これからもよろしくな!」
「【正す】って、なんか勇者みたいじゃない?よっ、一組の勇者!!」
その時、委員長が口を開いた。
「皆さん、そう持て囃さないでください。結局は使いようですし、強いかもわかりませんよ。どんな能力でも慢心したら終わりです。まあ落ち着いて、自分の能力の使い方でも見ていてください。」
何処か神妙そうな面持ちでそう言うと、装置から離れ一人でステータスを確認し始めた。
さて、これからどうするかね。魔法とやらが能力に関係なく使えるのであれば魔法使いとか僧侶的なポジを取れるが、いかんせん狙われやすそうだしな。となるとやっぱ補助的で目立たない立ち位置でのうのうと過ごしていきたいな。
「ねぇ、ねぇってば!」
思索に耽る僕の肩を叩き、なにか話したそうな顔で優絆は僕の背後に立っていた。
「ああ、気付かなかった。で、なにかな?」
「ねえ、さっきの生唯の能力の話だけど、大丈夫。」
こいつ、また僕の心を傷つけるつもりか…?
「なに、もうやめてくれよ。何も出来ないからってバカにしないでくれよ。ごめんって、はいはい、どうせ僕は無能で使えませんよ。どうせ囮になるのが関の山だよ。もうほっといてくれよ。」
「もう、巫山戯ないでって!そんなやさぐれたふりして、ホントはそう思ってないでしょ、もう。どうやって慰めようかと考えたのに、とんだ無駄骨じゃん!」
ちぇ、バレたか。流石に優絆を騙すのには演技力が足らないか。
「ふう、でも良かったよ。あんまり気を落としてなさそうで。」
そういえば、優絆はどんな能力だったっけ。自然に聞いてみるか。
「まあそれはそれとして、そっちはどうなんだよ。」
「こっちもなんとも言えないかな。名前がわかっても能力の説明文が曖昧だし。」
ふーん、その感じだと他のやつも能力の詳しい意味がわからんのかな?委員長のを見る限り能力の名前自体が動詞で、しかもその動詞の説明しかされてないっぽいね。そう考えると応用の効く普段から聞く動詞とかが使えるのかな。
「ちなみに名前は何だったの?」
「【繋ぐ】と【募る】、それとみんな持ってる【訳す】だね。」
ほう、なるほどね。やっぱりみんな能力が動詞なんだな。
「ちなみに説明文はどんなの?」
「【繋ぐ】は『繋いだり繋げたりする』、【募る】は『集めたり促進したりする』、だって。どっちも意味がわからないね。前者はそのまま何の説明にもなってないし、後者は語句の意味と少し外れてない?」
「いや、募るには不安が募るとかでますます激しくなる的な意味があるから、あながち間違ってないのかも。」
「へ〜、さっすが!やっぱ理系は違うね!」
「やめてくれ、その術は僕に効く。そっちだって理系のくせに。いくら僕が国語のほうがうまいからってやめてくれよ。」
「はーい。」
「まあ、いい能力なんじゃないかな。確かにグラウェが言っていたように、その人の得意なことが能力として反映されてるっぽいし。」
「だとしたらやっぱり生きるって…」
「五月蝿い。もうあっち行って。しッ、しッ!」
「はいはーい。わかりましたよ〜だ。」
そうして僕は優絆を追い払い、冷静にこれからのことについて考え始めた。
さて、能力の把握が済んだな。聞いた感じ能力の説明は大体能力名の語句の意味だな。そうすると僕の【生きる】は何なんだろうか。まあそれはいいとして、この仕様、結構汎用性が高くないか?語句の意味を正しく捉えられれば一見よくわからないものが最強になる可能性だってある。動詞の対象を拡張すれば何でも出来そうだな。
そこで唯生に電撃が走った。宛らデ◯ノートを再び手にした新世界の神(笑)が勝ちを確信したような表情を心の中で作り、ある事実に気がついた。
あ、ふ〜ん。これってつまり、アレさえあれば結構勝ち確定じゃまいか?
そう思った僕は誰にもバレないよう、こーっそりと忍び足で先程召喚された場所に向かった。そこにはまだ召喚されたときと何ら変わらずに教室内のものが在った。
駄目だ、まだ笑うな、怺えるんだ。
そう思いつつ自身の机の端に掛かっている手提げを探る。そうして手に触れた硬い物を引き、徐ろに取り出した。出てきたのは、重厚な装丁の、よく使い古した国語辞典であった。
そう、これこそが召喚された僕達が使える最終兵器だ。よし、きちんと使えるな。ちなみにほかに気づいていそうな人間は…
辺りを見回したが、それらしき者はいなかった。
良かった。とりあえずこれを隠しつつ、後で確認しよう。あとは、化学とか物理、一応英単語も持っていってみよう。なにかに使えるかも知れない。
そう思った僕は近くにあった自身のカバンに音が出ないようにゆーっくりしまい、その場を離れた。
「皆さん、そろそろ自身の能力を確認できましたか?」
ふいに、グラウェが呼びかけた。
「それでは皆さん、本日は大変疲れたと思うので、今日のところはこの城内を案内したら終わりにしましょう。では、こちらの方へ。」
その声を聞いた式先生が
「で、では、皆さん。とりあえず一列になって並んでください。」
と言った。それに続けて委員長も
「ほら、皆さん静かにしてください。先生からのご指示に従ってください。」
と言った。
さて、僕もこれに倣うか。
その時、何故か隣に追い払ったはずの優絆が居た。
「ねえねえ、ワクワクするね。」
「相変わらず能天気だね。」
「だってそうじゃん!初めての異世界なんだよ。」
「そりゃみんな初めてでしょ。第一そんな期待してても意外とファンタジー要素ないかもしれないし。」
なぜ、優絆はこんなにも馬、、、ゴホンゴホン。えー、なんでこんなに楽天家なのか。その勇気と能天気さをいくらか分けてほしいよ。
「なんかやっぱり酷くない?塩対応にもほどがあるよ!!」
「塩対応は必ずしも悪意があるわけではないし、何なら感情の発露が苦手だっていうことにも表せる。僕の場合は只只薄情なだけだよ。」
「そんな細かいことはどうでもいいよ…もう、知らない。で、話は変わるけど結局なにか異世界に望むことはないの?」
「相変わらず切り替えが早いね。うーん、望むこと…となると、ご飯が美味しいこととベットがめっちゃふかふかなことくらいかな。」
「結構あるけど、どれも欲望に忠実だね。」
「まあ、それがなければ生きていられないからね。」
「ちょっとそこのお二人、静かにしてください。先生のご指示が聞こえなくなってしまいますよ。」
「「ごめんなさーい。」」
委員長に怒られた二人は反省し、しょぼんとしていた。
あーあ、悪目立ちしないつもりが優絆のせいで怒られちゃったよ。ま、いっか。当面の問題はなにか考えないとな。とりあえず知識を蓄えて死なないようにしないと。あと布団、ベットでもいいからもふもふで柔らかいのがいい。そんじゃまあ、とりあえず行ってみるか。
そうして一同は、この、自身が召喚された大広間を後にした。




