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1-3

 次の日、駅から早速スクールバスを利用した。

 混雑を嫌い、早めの時間にしたせいか、車内に大学生はもちろん、高校の生徒もほとんどいない。

 路線バスの停留所で待つ人たちを窓越しに見て、これが名門校の威力だと、ようやく倉女の生徒であることを実感した。

 授業は問題なくついていける内容で、そのことには心底安堵した。これ以上、心労を増やしたくはない。

 休み時間に残りの二クラスを覗いたが、赤坂はやはり見つからなかった。これで、彼女が神の導き手だったことが確定した。

 昼休みは、カフェテリアで横川たちと過ごした。

 中庭の先にある、平屋建ての別棟で、周囲を雑木に囲われた、小洒落たレストランのような場所だ。一人なら入る勇気すらなかったかもしれない。幸い、弁当持参の生徒も少なくなく、目立つこともなかった。

 アルバイトのことを相談したかったが、彼女たちにはきっと無縁な世界だろう。

 放課後、一緒に帰ろうと誘われ、部活を見て回るからと、準備しておいた言い訳でどうにか乗り切った。

 ただ、嫌われたのではないか、という一抹の不安が心のどこかに沈殿する。

 さらには、毎回、自然に断れるイベントがあるはずもない。

「あなたたちとは違って、うちは普通の家庭だから」

 いっそ、正直に告白して、相手の反応を見てみるという選択もあるだろうか。

 いや――。それは最後の手段だ。

 三人は、倉女の生徒と聞いて、人が想像するようなあかぬけた存在だ。そんな彼女たちが、今朝から、衿奈のことを名前で呼んでくれるようになっていた。仲間の一人として扱ってくれているのだ。せっかく得た地位を、やすやすと手放すなど、愚行にもほどがある。

 解決策がまるで見い出せない中、アリバイ作りのためだけに、校内を見て回る。

 最初に校庭へと向かった。

 もとより、本気で入るつもりもなかったが、やはり、運動部はとても無理そうだ。中学時代に体育で経験したどの競技も、他人に比べて明らかに劣っていたし、そもそも、ユニフォームや装備に費用がかかる。

 となれば、文化部しかない。これがもっとも現実味のある逃げ道だ。

 ただ、学校案内で、すべての部に目を通してはいたが、興味を引かれるところはなかった。

 できれば、多少は前向きに活動したいという考えは、今の立場では贅沢だろうか。

 運動部とは違い、見学するには部室に入る必要があるが、そこまでの心構えがない。歩き疲れていたことも言い訳に、その日は帰ることにした。

 第一陣の帰宅部がいなくなった、大学生が数人だけの、スクールバス乗り場。

 携帯で、学校の公式サイトを開いた。

 すでに何度も目にしたページだ。

 茶道と華道は着物が必要だろう。

 楽そうで、道具がいっさい不要なのは合唱部と文芸部くらいか。

 ただ、歌が下手なことには自覚がある。文芸部は、横川たちからの誘いを毎回断れるほどの盾としては、弱いかもしれない。

「参ったな。全部の条件を満たす先が見つからないよ」

 無意識についたため息に、入学してからずっと、悩みが途切れていないことを自覚した。

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