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次の日、駅から早速スクールバスを利用した。
混雑を嫌い、早めの時間にしたせいか、車内に大学生はもちろん、高校の生徒もほとんどいない。
路線バスの停留所で待つ人たちを窓越しに見て、これが名門校の威力だと、ようやく倉女の生徒であることを実感した。
授業は問題なくついていける内容で、そのことには心底安堵した。これ以上、心労を増やしたくはない。
休み時間に残りの二クラスを覗いたが、赤坂はやはり見つからなかった。これで、彼女が神の導き手だったことが確定した。
昼休みは、カフェテリアで横川たちと過ごした。
中庭の先にある、平屋建ての別棟で、周囲を雑木に囲われた、小洒落たレストランのような場所だ。一人なら入る勇気すらなかったかもしれない。幸い、弁当持参の生徒も少なくなく、目立つこともなかった。
アルバイトのことを相談したかったが、彼女たちにはきっと無縁な世界だろう。
放課後、一緒に帰ろうと誘われ、部活を見て回るからと、準備しておいた言い訳でどうにか乗り切った。
ただ、嫌われたのではないか、という一抹の不安が心のどこかに沈殿する。
さらには、毎回、自然に断れるイベントがあるはずもない。
「あなたたちとは違って、うちは普通の家庭だから」
いっそ、正直に告白して、相手の反応を見てみるという選択もあるだろうか。
いや――。それは最後の手段だ。
三人は、倉女の生徒と聞いて、人が想像するようなあかぬけた存在だ。そんな彼女たちが、今朝から、衿奈のことを名前で呼んでくれるようになっていた。仲間の一人として扱ってくれているのだ。せっかく得た地位を、やすやすと手放すなど、愚行にもほどがある。
解決策がまるで見い出せない中、アリバイ作りのためだけに、校内を見て回る。
最初に校庭へと向かった。
もとより、本気で入るつもりもなかったが、やはり、運動部はとても無理そうだ。中学時代に体育で経験したどの競技も、他人に比べて明らかに劣っていたし、そもそも、ユニフォームや装備に費用がかかる。
となれば、文化部しかない。これがもっとも現実味のある逃げ道だ。
ただ、学校案内で、すべての部に目を通してはいたが、興味を引かれるところはなかった。
できれば、多少は前向きに活動したいという考えは、今の立場では贅沢だろうか。
運動部とは違い、見学するには部室に入る必要があるが、そこまでの心構えがない。歩き疲れていたことも言い訳に、その日は帰ることにした。
第一陣の帰宅部がいなくなった、大学生が数人だけの、スクールバス乗り場。
携帯で、学校の公式サイトを開いた。
すでに何度も目にしたページだ。
茶道と華道は着物が必要だろう。
楽そうで、道具がいっさい不要なのは合唱部と文芸部くらいか。
ただ、歌が下手なことには自覚がある。文芸部は、横川たちからの誘いを毎回断れるほどの盾としては、弱いかもしれない。
「参ったな。全部の条件を満たす先が見つからないよ」
無意識についたため息に、入学してからずっと、悩みが途切れていないことを自覚した。