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帰りの新幹線で、一度は機嫌を直したはずの月夜の様子がどこかおかしかった。
三人席の中央に座った彼女は、衿奈を無視して、窓際の中野とばかり話すのだ。
「何?何か怒ってるよね?」
肩を掴み、強引に顔を向かせる。
「別に。そっちこそ仕返ししてるつもり?」
「え?仕返し?何言ってるのか、本気でわからないんだけど」
「嫉妬返しやろ。うち以外の女子と仲ええとこ見せつけて。昨日、上泉さんに声かけられたんもそうやけど――衿奈は愛想が悪いのが長所やのに、いつあんなに友達作ったんや」
そんな長所、聞いたことない。
「人脈が大事だっていう指針と、真逆の反応なんじゃない?」
あの程度の立ち話で、月夜の独占欲が発動することを知れたのは、今後の関係性において重要な発見かもしれないなどと、彼女の取説を更新していたときだった。
通路をはさんで向こうにいた、北原が突然立ち上がった。携帯の画面を見ながら、珍しく興奮しているようで、目が潤んでいるようにすら見える。
「どうした、お嬢?」
隣の細谷の声は届いていないようで、周囲の乗客の注目を集めながら、彼女は転げるように衿奈のそばに膝をついた。
「た、大変なことになった」
それが、冗談などでないのは明らかだ。ただ、内容には、まるで思い当たることがない。
誰かの家族が事故にあった、だろうか、という不安はあっという間に却下された。
「驚かないでほしんだけど――。うちの部の決勝進出が決まったんだ」
「ええっ」
どうやら、札幌会場で2位になった学校の、携帯の不正利用が発覚したらしい。
全体の七位だった倉女が、繰り上げで決勝にいけることになったのだという。
隣に振り返るのと同時に、月夜が抱きついてきた。
「やったっ。もう一回、戦える。衿奈、最後当ててくれてホンマにありがとうなっ」
結果論にはなるが――最後のレース、三連単を選んでいれば、この結果にはならなかった。
親友が流す涙に感動するより、決勝進出を喜ぶより先に、頭に浮かんだのは、いつもと同じにすべきと指南した、占星術への畏怖の念だった。
決勝で再会したとき、渋川に今後の高校生活を占ってもらうことにしよう。




