8-1
次に目覚めたのは、開いたままになっていたカーテンからの朝日が顔に差し込み始めた時間。六時を少し回ったところだ。
朝の支度をしながら、モニターを見ると、衿奈の担当は、2Rと、そして最終レースになっていた。
その一つ前、メインは本人の希望通り、月夜の名前。この振り分けが何を意味するのか、今となっては確認のしようがなく、そして、大会の二日目が始まった。
1Rは障害競走で、倉女は不参加だ。
衿奈の出番まで、余裕があったことが良くなかったのだと思う。
この大会に賭ける月夜の意気込みと、前夜の落胆ぶりを思い返し、どうにか上位を維持したいという願望が強くなっていた。
そして、今の衿奈であれば、それに貢献できるはずだ。
仲間の役に立ちたいという想いは、だが、予想というステージの上では、ただの異物だった。
2Rのパドックに立ったとき、過去に失敗したときと似た気配を感じた。
単勝オッズの見方がわかる程度に知識はついている。人気の馬が通るとき、不調であってくれれば、とそんな邪念を頭から振り払うことができなかった。
誰の声も聞こえないまま、気づいたときには、周囲はすっかり閑散としていた。
前日より重く感じた控え室の扉。
中にいたのは、一日目とほとんど同じメンバーだった。篠塚は、またしても、最初の二つを担当させられているらしい。
「昨日だってさ、お姫様以外に当てたの、私とあと一人だけだったんだよ?そういう事情、全然考慮されてなくて、ホント、ムカつく。そりゃ外れるでしょ」
障害は専門の騎手がいるようで、彼女はあまり得意ではないのだそうだ。
「このレース、渡瀬ちゃんは、何買ったの?」
予想は、2番人気の馬からの三連複。
自信がないにもかかわらず、いつもの倍の金額にしてしまった。自信がないから、点数も多くなる。
結果は、軸馬が4着だった。
1、2着はそれぞれ1番人気と3番人気だ。よりによって上位で唯一、来ない馬から買ってしまい、4200円のマイナスとなった。
新千歳は天才がメインを担当している。掛け金と配当の上限が倍になる条件だ。もし、三連単が的中すれば、追いつけない点差まで突き放される。となれば、秋の決勝進出のために抜かなければならないのは、今、1位の習志野だ。だが、三人しかいない彼らは、午前中のレースは不参加で、現時点での差は15,000点以上に広がってしまった。
2着馬の複勝を的中させ、機嫌を直して去って行く篠塚に、どうにかおめでとうを言えたが、話せる相手がいなくなった状況で、次の出番までに、気持ちを立て直せる気がしなかった。
3R、倉女は不参加で、続く4R。細谷が担当だったが、外れて800円のマイナスだ。新千歳も、篠塚の2R以外は的中がなく、数字に変化のない習志野との差だけが広がる。
この時点で、部屋には誰もいなくなった。
最終まで、一人だけの時間が長く続く。そんな状況になることは北原もわかっていたはずだ。
それでも、しんがりを衿奈に託したのは、信頼を得ているから、なのだとは思う。ただ、初心者には荷が重すぎはしないか――。
ダメだ。余計なことを考えれば考えるほど、きっと当たらなくなる。
平常心の取り戻し方を検索したかったが、繋がる先がJRRしかなくては、それも無理だった。




