表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/53

7-10

 夕食まで、いったん散会になる。何を話そうかと思案しているうちに、月夜は逃げるようにどこかに姿を消してしまった。

 部屋に戻ってもすることがない。仕方なく、グッズショップで、弟と大前姉妹に買う土産を物色して時間をつぶした。

 夕食の会場は、そうあってほしくないと祈っていたにもかかわらず、またしても他校との相席だった。

 憂鬱になりながら名前を探していると、篠塚が手を上げた。

「隣だよ、渡瀬ちゃん」

「ああ、良かった」

 ほっとして席に着いたとき、遠くの月夜が視界に入る。同じテーブルの男子たちから声をかけられていたが、返事をする態度は上の空で、前日とは大違いだ。取り繕う余裕もないらしい。

 篠塚から、アングルが違うだけの、同じ騎手の写真を何枚も見せられているうちに、料理が運ばれてきた。

 メインの肉料理のとき、北海道ではジンギスカンがよく食べられているという話題になる。

「確かラム肉ですよね。向こうは産地なんですか?」

 そう口にして、思い出した。

 伊香保の牧場で、羊の赤ちゃんを見たときのことを。しっぽを激しく振りながら、母親の母乳を飲む姿に、脳が溶けそうになったのだ。

 そうか――。

 あのときの感情が、今、月夜に抱いている気持ちに近い気がする。となれば、彼女への想いは愛情の部類ということになるのか。

「どうしたの、渡瀬ちゃん。顔、赤いけど」

「いえ。えー……と。例の天才の方って、まだ見たことなくて。どこにいらっしゃるんですか?」

 篠塚はいつかその質問をされることがわかっていたかのように、無愛想に、右の腕を上げた。

「三つ向こうのテーブル。あの、ダサいTシャツの子よ」

 彼女が向けた指の先にいたのは、なんしよっと、という文字の書かれた、くたびれたシャツを着た女子だった。

「新千歳って、制服ですよね」

 隣を見ながらそう言うと、さらに表情が険しくなる。

「あいつだけ特別扱いなの。学校でも上は自由にしてる。下だけは制服のスカートだけどね」

 化粧をするわけでもなく、肩までの髪は、同年代の女子としてはかなり無造作で、身なりには気を使わない人間らしい。

 それが天才の所以だと言われれば、そんな気もするが――確かに、オーラのようなものはまるで感じられない。

 同じテーブルの男子たちは、ちらちらと気にしているが、本人に交流する雰囲気は皆無だった。

「九州弁が好きなんですね」

「正直、どうでもいいんだ。あいつの趣味とかさ」

 篠塚は強い口調でそう言って、その後は推しの騎手の話題に終始した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ