7-10
夕食まで、いったん散会になる。何を話そうかと思案しているうちに、月夜は逃げるようにどこかに姿を消してしまった。
部屋に戻ってもすることがない。仕方なく、グッズショップで、弟と大前姉妹に買う土産を物色して時間をつぶした。
夕食の会場は、そうあってほしくないと祈っていたにもかかわらず、またしても他校との相席だった。
憂鬱になりながら名前を探していると、篠塚が手を上げた。
「隣だよ、渡瀬ちゃん」
「ああ、良かった」
ほっとして席に着いたとき、遠くの月夜が視界に入る。同じテーブルの男子たちから声をかけられていたが、返事をする態度は上の空で、前日とは大違いだ。取り繕う余裕もないらしい。
篠塚から、アングルが違うだけの、同じ騎手の写真を何枚も見せられているうちに、料理が運ばれてきた。
メインの肉料理のとき、北海道ではジンギスカンがよく食べられているという話題になる。
「確かラム肉ですよね。向こうは産地なんですか?」
そう口にして、思い出した。
伊香保の牧場で、羊の赤ちゃんを見たときのことを。しっぽを激しく振りながら、母親の母乳を飲む姿に、脳が溶けそうになったのだ。
そうか――。
あのときの感情が、今、月夜に抱いている気持ちに近い気がする。となれば、彼女への想いは愛情の部類ということになるのか。
「どうしたの、渡瀬ちゃん。顔、赤いけど」
「いえ。えー……と。例の天才の方って、まだ見たことなくて。どこにいらっしゃるんですか?」
篠塚はいつかその質問をされることがわかっていたかのように、無愛想に、右の腕を上げた。
「三つ向こうのテーブル。あの、ダサいTシャツの子よ」
彼女が向けた指の先にいたのは、なんしよっと、という文字の書かれた、くたびれたシャツを着た女子だった。
「新千歳って、制服ですよね」
隣を見ながらそう言うと、さらに表情が険しくなる。
「あいつだけ特別扱いなの。学校でも上は自由にしてる。下だけは制服のスカートだけどね」
化粧をするわけでもなく、肩までの髪は、同年代の女子としてはかなり無造作で、身なりには気を使わない人間らしい。
それが天才の所以だと言われれば、そんな気もするが――確かに、オーラのようなものはまるで感じられない。
同じテーブルの男子たちは、ちらちらと気にしているが、本人に交流する雰囲気は皆無だった。
「九州弁が好きなんですね」
「正直、どうでもいいんだ。あいつの趣味とかさ」
篠塚は強い口調でそう言って、その後は推しの騎手の話題に終始した。




