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両親の気持ちが反対なのか、賛成なのか。真意を図れないまま、ただ、わがままを押し通しているような、そんな罪悪感を胸に抱きつつ、それから受験日まではあっという間に過ぎた。
進学担当教諭の認識通り、他に趣味もなく、普段から勉強に費やしていた時間が多かったこともあり、改めて予備校に通うこともないまま、過去問や、何度かあった模試はA判定が続いた。
クリスマスプレゼントには手袋を求め、お年玉は封を開けずにそのまま引き出しに仕舞う。
一月の終わりには、逆に、受かってしまったらどうしようなどという、不安さえ覚えるようになっていた。
受験当日。
多くの受験生は、前夜から緊張し、朝も早くに目が覚めるのだろうが――本当にこの選択が間違っていなかったのか、そんなうしろ向きとも言える悩みがずっと解消していなかったせいだろう、すっかりいつも通りにその日を迎えた。
学校までは一時間半。三年間、毎日この経路を通うのだろうかと、不思議な気持ちで車窓からの景色を眺める。
正門を越えるとき、場違いな感覚に襲われ、足がすくみ、それを払拭するため、この場にいる最大の目的を思い浮かべた。
あの少女、赤坂に会うことだ。
季節は流れ、冬服のイメージがわかなかったが、ベレー帽はおそらく今日もかぶっているのではなかろうか。
大学が併設されていることもあって、門を入った先は広大とも言える敷地だった。
受験生たちの頭部に目をやりながら、会場へと向かうが、おそらく千人の単位で人がいるのだろう、結局、対象を見つけられないまま、試験の開始時刻になってしまった。
倉女は、関東の女子校では上位の扱いだ。ただ、関西にだって有名な学校は数多くあるはずで、わざわざこんな田舎を選んで通う意味はいったい何なのだろう。
ペン先が紙にこすれる音を聞きながら、頭の三分の一くらいに、ずっといつくかの疑問が引っかかっていたせいで、最後まで緊張する暇がなかった。
試験が終わり、その独特の開放感の中、校内を見学しながら、他の教室の前も通ってみたが、結局、最後まで関西弁の少女を見つけることはできなかった。
帰りの電車の中、手渡された書類の中にあった新年度版の学校案内をめくる。ただ、やはり全国大会で活躍するような部活は見当たらない。
母から首尾を尋ねるメッセージが届くまで、試験そのものへの関心が、ほとんどなかったことにすら気づいていなかった。
両親は、衿奈の帰宅を待ちかねていた。
父の表情は、合格を期待しているようにも、家計を心配しているようにも見えた。
「自己採点、まだしてないから」
そう答えたが、手応えはあった。
きっと合格してしまうだろうという不安は、一週間後に簡単に的中した。
父と母が、心の底から喜んでいる姿を見て、この選択が間違っていなかったのだと、ようやく知った。
普段買わないような高い肉を使ったすき焼きを前に、意味もわからずはしゃぐ弟を見て、彼の高校受験よりあとにかかる費用は、衿奈の給料から必ず補填するからと心に誓った。