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それからの数日は、馬の世話で慌ただしく過ぎた。
寝藁の高さの不満に始まり、食事が薄味だとか、水に虫が浮いているなどといった、わがままな要望に応えていたせいで、与えられた仕事以上のことをこなしてしまうはめになったが、そのせいか、馬たちの機嫌が絶好調になり、馬術部のメンバーから、いたく感謝されることになった。
中野から帰寮したと連絡があったのは八月に入ってからだ。
その次の泊まりの日、彼女の部屋を訪ねた。
細谷の父親の職業のことを伝えると、予想通り仰天した。
それから、DVの件について相談したことを謝罪した。
「出すぎた真似をしてすみません。余計なお世話だと思ったのですが――」
だが、それ以上、続けることができなかった。彼女に強く抱きしめられたのだ。
「わたくしの心配をしてくださったのですね。ありがとうございます。衿奈さんはもはや生涯わたくしの親友です」
震えた声のあと、首筋に温かい液体が落ちるのを感じた。
感激屋というよりは、いいほうにも悪いほうにも、感情が先鋭化する性格なのかもしれない。であれば、細谷との関係も、前向きにさえなれば、改善する可能性はあるだろう。
「母はもちろん離婚したいと考えています。ですが、それはわたくしが大学を出たあとだと。それまで頑張るつもりだと言い張っているのです」
「細谷先輩のお父さんのお話だと、もし家庭内の暴力が証明されれば、養育費はもちろんですけど、慰謝料とかも、もらえるみたいです」
さらには、担当の警察署から警告させるよう、働きかけることも可能だと話していた。
「わかりました。母を説得できるかはわかりませんが――あの男がいない間にカメラを取り付けようと思います。あと、録音の装置も」
中野が直接細谷と会うことはなかったが、今後、呪いをかけることはなくなったように思えたのは、決して希望的な見方ではなかったと思う。
人生初の労働はその後も滞りなく、八月の終わり、小遣いに換算して一年と半分くらいのバイト代を手に、いよいよインターハイがやってきた。




