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3-2

 それから週末まで、空き時間は、赤坂から競馬の基礎を教わって過ごした。

 まだ正式な部員ではなく、部室は使えない。

 カフェテリアや中庭のベンチに二人、携帯の画面を見る状況は、形だけ見れば、充実した高校生活の一ページで、悪い気はしなかった。

 ただ一点、流れている映像が、過去の録画実況だったことを除けば。

「いま見せた二つのレース、違いが何かわかる?」

「その前に一ついい?馬を引く人たちは、どうして馬糞の上を平然と歩いてるの?」

「馬糞やなくて、ボロな。あれに触ると幸せになれるねん」

「絶対ウソだ」

「ツッコミ速いな……。それで、問題の答えは?」

「うーん、難易度高いよ。走った馬の歩数、とか?」

「いやー……。それは、確かにそうやろうけど……。他には?」

「あとは天気かな。最初のが晴れで、次のが薄曇りだった」

「自分、想像以上の大器やな。的外れさが、常軌を逸してるわ。正解は走る方向。最初の東京競馬場は反時計回りやったやろ。で、次の中山が時計回り」

「何、それ。見たままじゃない。逆に問題が簡単すぎなんだよ」

 競馬を真剣に学ぼうとは思っていなかったが、彼女が時に大仰に肩を落とす姿を見るのは楽しく、他愛ない会話とともに、知識は増えていったのだと思う。

 せめて基本的な用語くらいは人並みにしておこうと、帰りの電車や自宅で一人のとき、JRRの公式ページを眺めていて、気づいたことがある。

 周辺の知識を増やしたとしても、実際のレースで、これから走る馬たちが、どの順番でゴールするのか、当てられる確率が著しく上がるわけではないのだと。

 個人のSNSを見ても、初心者のとき、適当に買った馬券が大当たりしてその道にのめり込んだが、経験値が上がるほどに結果は悪くなると、嘆く人が少なくなかった。

 買い方の手法をあれこれ変えているうちに、やがて、次に進むべき方向を完全に見失う。他人を当てにするのは、そんな深く険しい樹海に迷い込んだ人にこそ多いのだそうだ。

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