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Dear…  作者: Dear
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第十二話―鳥月 敬―


「ぃやーっ、ちょっとコレ重い! 男子手伝ってよぉ!」


 学祭の準備で賑わう学内で、女子の声が響く。

 視線だけ動かして見ると、クラスメイトの一人だった。しっかりこちらを睨んで、救援要請をしている。

 固まって看板造りに励んでいた男子達が、敬に倣って彼女の方へ顔を向けた。


「可愛い子ぶんなよ、青木〜」

「そーだぞ、怪力女」

「俺らだって働いてんだよ」


 次々と飛ぶ小学生並の揶揄に、敬はうんざりしながら再び彼女を見た。

 真っ赤に染まった顔を背けて、無言で段ボールを手に取る。持ち上がったはいいが、その足元はフラフラと頼りない。


「誰か行けよな」


 ぼそっと呟いて、敬は彼女の背を追いかける。

 背後で起きたざわめきは、彼らしくない行動のせい。クラスメイトの中では、自分の為にしか動かない薄情な人間だと思われているのだ、きっと。


 空しさを頭を振って払い、青木の手から段ボールを奪う。ペンキや工具等、雑多な物が詰め込まれた段ボールは、なるほど女子には重く感じるだろう。


「どこまで?」

「えっ、鳥月!?」


 心底意外そうに声を上げる彼女に、自然と眉をしかめてしまう。

 不機嫌な敬を見て、青木は慌てて笑顔を作った。


「や、ごめん、ちょっとビックリしちゃって。鳥月、優しいね! ありがと、教室までお願い」


 少しはにかんで向けられた「ありがとう」に、頬が熱くなる。くすぐったくはあるが、嫌な気はしない。

 照れ隠しに足を早めて、敬はその場を去った。




「けーい、見たぞ〜」


 教室の隅に段ボールを降ろした敬に、向けられた声がある。


 見上げると、廊下に面した窓枠の中で見慣れた顔がニヤニヤと笑みを作っていた。

 平均よりも低めの身長、大きな目がキラキラと輝く笑顔はイタズラ少年のそれだった。



「……具紀(ともき)


 幼馴染みの好奇心を刺激してしまった事に苦味を感じつつ、敬は彼の方へ近寄った。

 具紀も窓枠を抜け出して、教室に入ってくる。


「お前が女子に関わるなんて珍しいじゃん。青木狙ってんの?」

「アホか」


 彼の言葉を一蹴して、手にしていた絵筆で軽く諫めた。敬の一撃を避けることなく受け、具紀は晴れやかに笑い声を上げた。


「あっはは! だよなぁ。お前の恋愛話とか聞いたことねぇし」

「悪かったな、期待に添えなくて」

「花の男子高生が、好きな女子もいないってどうよ? 勉強もできて運動もできて顔も良くて、それで女に興味ないって何なワケ?」


 机に腰掛けながら、具紀は口を尖らせた。非難がましい友人の視線をかわし、敬は窓側へ逃れた。



 何なのかと聞かれても、答える術はない。


 開け放たれた窓からは、ようやく秋を感じさせる涼しい風が吹き込んでくる。

 中庭には、所狭しと並べられた看板やら横断幕やらが並んでいた。その隙間を縫うように動く小さな生徒達も、時々上がる歓声も、夢のように遠いものに感じられた。


 ぼうっと外を眺めていると、いつの間にか具紀が横に並んでいる。手摺りに体重を預け、じっとこちらを見ていた。



「敬さぁ、最近何かあった?」

「何かって……何?」

「いや、俺が聞いてんだけど」

「どうして、そう思う?」


 質問で返すと、彼は小首をかしげて「んー」と唸った。


「幼馴染アンテナ」


 真面目な顔をして答える彼に、ふっと笑いが漏れる。


「何だそれ。アテになんねー」



「そーか? 多分オレ、敬より敬のことわかってると思うよ」


 真面目な顔を崩さない幼馴染を、眼を丸くして見つめ返す。沈みかけた夕陽のせいか、彼の顔は少し紅く染まって見えた。


「さっきの青木のもそうだし、最近の敬は人と関わろうとしてる感じがする。前はそんな事なかったから、何かあったのかなって思っただけ。そんで、慣れないコトして、ちょっと疲れてる風に見えたから、聞いてみただけ。以上」


 そっぽを向いて、ふてくされたようにボソボソと言う。



「……心配してくれてたのか。サンキュ」


 久し振りに、心から笑えた気がした。

 敬が笑うと、具紀もパッと明るい笑顔を作った。



 それから時乃とのやり取りの件を話すと、大きな目を更に見開いて驚いていた。


「敬からの手紙なんて、オレですら貰ったことないのに……」

「いや、そこ驚く所じゃねぇだろ」

「冗談だよ、冗談」


 しばらく沈黙が流れた後、躊躇いがちに敬が口を開く。


「どう思う?」

「どうって?」

「祖父ちゃん達のこと、俺らが首突っ込んで良いのかって、迷うんだ。個人的な事だし、触れられたくないかもしれない。だから……」

「オレだったら、人が自分の為に何かしてくれたら嬉しいって思うけど。まぁ、敬のじーちゃん頑固そうだし、表面上嫌がるかもしれんけど、孫が何かしてくれたら嬉しいもんじゃないの? 普通。それに、敬は良い方向に変わってきてるから、今ここでやめたらもったいないと思うよ。敬が良いと思った通りにやりゃあ良いじゃん。ダメだったら『ゴメンナサイ』ってことで」



 ポンと軽く背中を叩いて、具紀は教室を出て行った。


 触れられた背中がひどく温かくて、敬は一人きりの部屋で、静かに微笑んで呟いた。



「ありがとな」





羽瀬時乃様


 お手紙ありがとうございます。


 自分の行動がもたらす結果が周りにどう影響するのか……。

 僕もまだ不安です、迷います。やめておいた方が良いのかもしれないとも、正直思いました。

 でも、僕たちは大切な人の為を思って、何かを為そうとしている。


 こんな言い方ズルイかもしれませんが、誰かを想っての行動ならば、多少失敗があったとしても良いんじゃないかと思います。一生懸命やったら、周りにもそれが伝わるはずだから。

 今日、幼馴染にそのような事を言われました。幼稚園からの付き合いで、僕が一番信頼している友人です。少し楽観的な部分があるのですが、今回は僕も彼の考えに倣ってみようかと。


 羽瀬さんも、あまり気負わずに、前向きな気持ちでいて下さい。笑っていた方が、良い方に事が運ぶ気がしませんか?



 さて、僕から見た祖父の話をします。

 祖父は、一言でいえば「頑固親父」という感じです。昔気質というか、融通の利かない人です。

 今回の入院でも、散々嫌がって家族を困らせてくれました。

 厳しいけれど、多分優しい人です。いつも、誰かのことを考えているような人で、近所の人からも慕われています。表現が不器用なので、伝わりにくい時もありますが……。


 モノ作りが好きで、小さい頃はよくおもちゃを作ってもらったりしました。日曜大工も大好きです。本棚や椅子も作っていました。

 身体を動かすのも好きな人なので、入院生活がとても窮屈そうです。よく病院の屋上や、近くの公園に散歩に行っています。


 ……こんなところでしょうか。

 改めて聞かれると、何と言って良いかわかりませんね。



 最後に一つ。

 男の人が苦手とありましたが、僕とやり取りするのは大丈夫でしょうか?

 僕も女子は苦手ですが、羽瀬さんは平気です。

 すみません、負担になっているといけないと思って聞かせてもらいました。



 では、そろそろ涼しくなってきましたので、お身体に気をつけてお過ごし下さい。



 平成22年 9月15日   鳥月 敬




「けーい! 出したんならさっさと行くぞー!」


 この手紙の中に自分のことが書いてあると知ったら、具紀はどんな顔をするだろう。

 あの日みたいに、夕陽色に染まるだろうか。

 想像して、つい忍び笑いが漏れる。


「何笑ってんだよ?」

「別に」

「……敬、よく笑うようになったな」


 柔らかい朝陽の中、少年達は目を見合わせて笑った。



 次の手紙が届く頃には、自分はどう変わっているだろうか。


初登場、幼馴染の具紀です。

人付き合いの苦手な敬にも、ちゃんと友達はいます(笑)


冒頭で出てきた青木さん、陸上部で砲丸投げのエースという裏設定が……。出そうと思っていたのですが、何か入れにくく(^_^;)


お互い異性が苦手な敬と時乃、これからが楽しみです☆

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