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009 連携を学ぶ

 今回のフィールドは今までよりもタフな場所だった。

 高低差の激しい起伏が特徴的で、岩だらけの崖や青々と生い茂る森が点在している。

 魔物の隠れられそうなスペースが多く、ダンジョンだと避けたいタイプ。

 平たい道のほうが少なく、足場の悪さが際立っていた。


「レンくん、あれ」


 白銀セミロングの爆乳・ユキナが上空を指す。

 半透明のスコアボードが浮かんでいて、各PTの点数を表示していた。

 戦闘が始まっていないため、今はどのPTもゼロだ。


『各PT、準備は出来ているな?』


 フィールドに風間教官の声が響く。

 彼は観戦室にいて、フィールドには俺たちを含む5つのPTのみ。


「足だけは引っ張らないでよね」


 アリサがレイピアを抜く。

 その背中には強い自信が表れていた。


「そっちこそ、ルールを守って戦えよな」


 俺たちも武器を構える。


『それでは、戦闘開始!』


 風間教官が宣言した瞬間、大量の魔物が召喚された。

 見えている範囲だけでも数体いるが、遠くからも咆哮が聞こえる。


「格の違いを見せてあげるわ!」


 アリサは単騎で突っ込むと固有スキルを発動した。

 レイピアに派手な光がまとわりついて、刀身が何倍にも伸びる。


「やあっ!」


 アリサは思い切り前に踏み込み、剣を横に薙ぎ払った。

 光の刃が魔物だけではなく岩や木々まで真っ二つにする。


「あれがアリサのAランクスキル〈ヴァルキリー・ブレード〉か」


 スキルの詳細については、事前に教え合っていた。

 だが、実際に目の当たりにすると、その威力は驚嘆に値する。

 発動条件が特にないというのも強烈だ。

 ただ、体力の消費が凄まじいので連発はできないとのことだった。


「すげー……」


「なんだありゃ……」


 他のPTも愕然としている。

 フィールドごとぶった切るスキルに衝撃を受けていた。


「さて、俺たちも動こうか」


 俺の発言で、シズハが「ハッ」とした。


「そ、そうね! 作戦通り、他のPTやアリサさんから距離を取って戦いましょ」


 俺たちは戦闘を避けて移動した。

 隅の方からフィールドの奥地へと進んでいく。

 他に気を配ることなくのびのびと戦うのが今回の目標だ。


「この辺なら快適に戦えそうかな」


 俺は周囲を見回した。

 ミコトと戦った荒野に雑木林を融合したような場所だ。


「まずは私の〈ミスティック・マップ〉で敵の位置を割り出すわね」


 シズハが固有スキルを発動する。

 彼女の目の前に、半透明の立体マップが表示された。

 半径50メートルの地形や敵味方の位置を視覚化するという効果だ。

 味方は青い点で、敵は赤い点で表示されている。


「あの岩の向こうに魔物が3体いるわ。近くに別の魔物もいるから気をつけて」


「分かりました! 俺が倒してきます! ユキナ、サポートを頼む!」


「うん! が、頑張ります!」


 俺はロングソードを握り、シズハが指した大きな岩に突っ込む。

 念のために〈魔石吸収〉でスライムの魔石を二つストックしておいた。

 左右の肩が青色に染まって水を垂らしている。


「レンくんのスキル、なんだか強そう」とユキナ。


「残念ながら見た目以外に変化はないんだ。この状態の時に効果があったら最低でもEランクだったんだけどな」


 岩を回り込んだ先には、カブトムシ型モンスターが3体いた。

 全長は1メートル50センチ程度で、羽を兼ねている鋼の甲羅が特徴的だ。


「アイアンビートルか、厄介な魔物だな」


 レッドマンティスと同じDランクだ。

 純粋な攻撃力はレッドマンティスよりも遥かに低い。

 その一方で、見た目通りの硬い装甲が特徴的だ。

 また――。


「「「フシュー!」」」


 ――飛行状態でのタックル攻撃が鬱陶しい。

 角だけではなく、羽にも鋭利な刃物としての攻撃力が備わっている。


「きゃあ!」


「伏せろ、ユキナ!」


 俺は後ろにステップすると、ユキナの肩に左腕を回して伏せさせた。

 そうしなければ、彼女は今ごろ真っ二つになっていただろう。


「ごめん、二人とも! 二年の私が先行するべきだった!」


 シズハは冷静に対処していた。

 迫り来る一体を矢で打ち落としつつ、残り二体を回避している。


「あ、ありがとう、レンくん、助かりました。私、怖くて、つい……」


「仕方ないさ。だが、次からは〈ホーリーシールド〉で身を守るんだぞ」


 〈ホーリーシールド〉はユキナの固有スキルだ。

 敵から身を守るのに適している。

 まさに今のような状況でこそ使うべきスキルと言えた。


「はい!」


「よし! あとは俺に任せておけ!」


 俺は立ち上がり、木に止まっているアイアンビートルに突っ込んだ。


「飛べなくしてやるよ!」


 スライムの魔力を左手に付与する。

 手の平に強い酸性と粘性を持った水の塊が現れた。


「ほらよ!」


 左手を横に振るって塊を飛ばす。

 それは空中で横に伸び、二体のビートルを捉えた。


 ジュワァ……!


 ビートルの羽が溶けて煙を上げる。

 虫だから悲鳴などは上げないものの痛そうにしていた。

 とはいえ、Fランクのスライムから得た魔力では決定打にならない。

 トドメを刺すには剣を使う必要があった。


「これで動き回れないだろ?」


 俺は距離を詰めると、左手でビートルの角を掴んだ。

 木から剥がして地面に叩きつけると、柔らかい腹部に剣を突き刺す。

 同じ要領で残りも仕留めた。


「ふぅ」


「レンくん、ナイス!」


 シズハがウインクする。

 ユキナも「すごいです!」と拍手していた。


(生成された魔物だし、実技試験もそうだったから分かってはいたが……)


 俺は敵の死骸に目を向ける。

 本物の魔物と違い、魔石を落としていなかった。


(この環境、2040年の時よりも厳しいよなぁ)


 時空の歪みから魔王軍が侵攻してきた2040年。

 あの時に俺が最後まで生き残れた理由の一つが〈魔石吸収〉だ。


 数十・数百万の魔物は、倒すと必ず魔石を落としていた。

 それを拾って即座に使うことで、固有スキルを無限に連発していたのだ。


 だが、演習場ではそういう戦い方ができない。

 これは俺にとって、かなり大きなハンデと言えた。


「この調子で進めていこっか」


 シズハの言葉に、俺とユキナが「はい!」と頷いた。


 ◇


 その後も俺たちは問題なく戦いを進めた。

 ――というのは嘘で、しばしば危ない場面があった。


「レンくん、足元にアースワームがいるよ!」


「え、本当ですか!? うおっ、マジだ!」


 こんな感じで、何度か攻撃を受けることがあったのだ。


「ごめんなさい、レンくん。〈ホーリーシールド〉が遅れちゃった」


「私も〈ミスティック・マップ〉の確認を怠ってしまったわ」


「いえいえ、気になさらず。この“仕様”なら仕方ありませんよ」


 今回の魔物は、本物とは違う設定が施されていたのだ。

 まるで存在しないかのように、スキルを使うか視認しないと感知できない。


 俺ほどのレベルになると、五感を駆使して敵を探す。

 そのうち、視覚が占める割合はそれほど大きくなかった。

 だから、足元の魔物を見落とすことが多々あったのだ。


「今後はこれに攻撃力も追加されるよ。そうなると、20人くらいは演習中に死んじゃうんだよね」


「それは怖い」


 今回の魔物には攻撃力が備わっていなかった。

 なので、敵に攻撃されても痛くも痒くもない……というか何も感じない。

 最初のビートル戦で身を挺してユキナを守ったが、仮にそうせずとも彼女は死なずに済んでいた。


『そこまで! テスト終了だ!』


 突如、風間教官の声が響いた。

 フィールドにいた全ての魔物が消える。

 木々や岩も消えて、地面が平面になった。

 他のPTやアリサの姿が見える。


『上空に表示されたスコアボードを確認してくれ』


 風間教官に言われて、スコアの存在を思い出す。

 確認したところ、俺たちのPTはぶっちぎりの1位だった。


「圧倒的じゃないか、俺たち」


「レンくんが活躍していたからね。私は先輩なのに微妙だったかな」


「そ、そんなことありませんよ! シズハ先輩も活躍していました! むしろ私が足を引っ張っていました……。何度も〈ホーリーシールド〉の発動が遅れたし……」


 ユキナがしょんぼりしている。


「別にいいじゃないか。他にトリプルスコアでの1位なんだし。他所のPTって3年もいるんだぜ? そう考えたら文句ないだろ」


 シズハが「その通りよ」と微笑む。


(俺も含めて連携の甘さが目立つものの、普通に戦えるな)


 それが今回の印象だった。

 シズハはもとよりユキナにしても本人が思うほど酷くない。

 国魔の受験を通過するだけあって、それなりに動けている。

 ただ実戦経験の少なさから突発的な展開に弱いだけだ。


(あとの問題は……)


 金髪ロングのワガママ女が近づいてくる。

 唯一の問題であり、PTメンバーのアリサだ。


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