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008 初めてのテスト

 シオン校長は妙な威圧感を放っている。

 そんな相手だろうと、アリサは臆することなく食ってかかった。

 よほど俺たちと同じPTが嫌なようだ。


「どうして変更が必要だと思うのかしら?」


 シオン校長はステージに上がって尋ねた。


「私は学年1位なのだから、仲間だって優秀であるべきです! こんなのあんまりですよ!」


「そう、他には?」


 シオン校長は素っ気ない調子で返した。


「他も何も、それが全てですよ! どう考えたっておかしい!」


 一瞬だけ躊躇うも、アリサは強い口調を維持した。

 もはや他のPTは話すのをやめて二人のやり取りを眺めている。

 俺やユキナ、シズハにしてもそうだ。


(まさか入学初日にこんな面倒が待ち受けているとはな……)


 俺は「やれやれ」とため息をつく。


「アリサさん、あなたの気持ちはよく分かったわ」


「校長先生……!」


 アリサの顔がパァっと明るくなる。

 俺の顔にもニコッと笑みが浮かぶ。


「でも、却下よ」


「「えっ?」」


 アリサは固まり、俺は絶望した。

 このキーキーうるさい女が去ると思ったのに……。


「対魔防衛軍では最先端のテクノロジーを活用しているの。PTの編成にしたって、最先端のAIを駆使して徹底的に分析し、あらゆる可能性を検討した上で最良の形にしている。変更の余地はないわ」


「え、AIにだって間違いはあるかもしれませんし……」


 食い下がろうとするアリサ。

 それを許すまいと、シオン校長はさらに畳みかけるように話し続けた。


「アリサさん、あなたの実力は素晴らしいと評価しているわ。だからこそ、あなたにはそういう編成が組まれている。分かるかしら? 言い換えれば、これは期待の表れでもあるのよ」


「でも……」


 アリサは口を開きかけるが、校長の言葉は止まらない。


「それにね、あなたは誤解しているわ」


「誤解……?」


「レンくんが入試を受けられたのは、あなたが言うところの“コネ”で間違いない。でもね、彼のコネは楽に入学するためのものじゃない」


「というと……?」


「レンくんは他の生徒と同じように入試を受けて合格したけれど、他の生徒よりも過酷な条件だったのよ」


「過酷な条件って、どういうことですか?」


「細かい話は端折るけど、彼は実質的に左腕が使えない状態で実技試験を受けたの」


 これには場がどよめいた。

 アリサも目をぱちくりさせて驚いている。


「右手一本しか使えない――その状態で、彼は満点を叩きだしたのよ。あの実技試験でね」


「なっ……!? 私ですら65点なのに……! 右手だけで……!? そんな……!」


 アリサの強気な表情が揺らぐ。


「それだけじゃない。彼は入試を受けるにあたり、入試よりも過酷な特別試験を突破している。それがあなたの言う“コネ”を使うために神威中将が出した条件だったからね」


 特別試験とは、ミコトとの決闘を指しているのだろう。


「神威中将って……ミコト様がこの男を推薦したんですか!?」


 これまでにないほど愕然とするアリサ。


(ミコト様……?)


 どうやらアリサは、ミコトの熱狂的なファンみたいだ。

 どう見てもプライドの高い女だから、類は友を呼ぶということで惹かれるのかもしれない。


「神威中将の推薦って……」


「すごすぎだろ……」


「なのにスキルがFランクってどういうことだよ……」


 他の生徒がざわついている。

 いや、生徒だけでなく、教官も驚いていた。

 どうやら俺とミコトの件は共有されていないらしい。


「でも……コネはコネだし……Fランクだし…………」


 アリサは声を震わせて、俯きながらブツブツと言っている。

 シオン校長に対する反論ではなく、混乱からくる独り言だった。


「そういうわけだから、PTの変更は却下よ。雑談はここまでにしましょう。風間教官、次の進行をお願い」


 シオン校長はそう言うと、ステージから下りた。

 入れ替わりで風間教官が壇上に上がる。


「それでは、さっそくPT単位での実戦テストを行う。詳しい内容を説明するから、目と耳をこちらに向けてくれ」


 案の定、PTメンバーと話すだけでは終わらなかった。


「…………」


 アリサは黙り込んでいる。

 顔を見る限り納得していないようだが、喚くのはやめたようだ。


「テストのルールはシンプルだ。制限時間内にできるだけ多くの魔物を倒してポイントを稼いでもらう。魔物は無限に召喚されるから、入試の時みたいに慌てて倒す必要はない。むしろ冷静に戦わなければかえって振るわない結果に終わるだろう」


 風間教官の声が演習場に響く。

 新入生や在校生からは真剣な眼差しが注がれていた。


「ポイントを取る方法は主に“魔物を倒す”ことだが、それ以外にも“仲間と連携して戦う”ことで追加得点が入る。今回のテストに限らず、本校では原則としてPTの質が評価基準になる。その点を意識するように」


 皆が「はい!」と口を揃える。


「なお、魔物からダメージを受けたり、他のPTに被害を与えたり、妨害したりすると大幅に減点されるから気をつけること。また、得点の計算については、公正を期すために専用のAIが行う」


 俺はその説明を聞きながら、「なるほど」と頷いた。


(露骨に強調しているし、スタンドプレーは厳禁ということだな)


 PT単位の評価が基本というのは厄介だ。

 まず間違いなく、アリサは協調性が低くて仲間と連携できない。

 彼女のようなタイプは尊敬する相手としか組めないものだ。


 そして、俺もまたPTでの戦闘に関しては素人も同然だった。

 ソロでの戦闘であれば教官にだって負けないが、PTとなれば話は別だ。


(国魔を首席で卒業するのは思ったよりも厳しそうだな)


 そんなことを思っていると、風間教官が話を進めた。


「今回のテスト結果は、学年別の順位にも反映される。つまり、このテストは友好を深めるためのお遊びではない。授業の一環だと思ってほしい」


「ぐっ……!」


 アリサが悔しそうに唇を噛みしめている。

 彼女が何を考えているのか、顔を見るだけで分かった。

 俺たちのせいで自分の順位が落ちると思い苛立っているのだ。


 無理もない。

 アリサの順位は1位だ。

 下がることはあっても上がることはない。

 できればこのタイミングでは受けたくなかったはずだ。


「それでは、これよりフィールドの生成を行う。複数の演習場を使って効率良く進めるから、PTごとに指定されたエリアへ向かってくれ。案内役が立っているから指示に従うように」


 風間教官の合図とともに、各演習場にPTが振り分けられた。


 ◇


 俺たちは演習場内にある控え室にいた。

 この場にいるのは同じPTのメンバーだけだ。

 準備ができるまでここで待機とのこと。


 控え室は狭いが、4人なので窮屈さは感じない。

 俺たちは適当な椅子に座って向き合った。

 不満そうな顔のアリサも、今のところ大人しく参加している。


「毎回というわけじゃないけど、テストの前にはブリーフィングタイムがあるの」


 シズハが穏やかな口調で言い、視線を上に向けた。

 頭上にモニターが設置されており、同じ演習場でテストを受ける生徒の情報が載っている。

 PTごとに縦に並んでおり、リーダーが一番上のようだ。


「見ての通り、今回のテストは私たちを含めて5つのPTで行うの。フィールドのサイズに対してPTの数が少ないから、避けるように動けばうっかり攻撃することはないと思う」


 シズハが説明する。


「こっちから他所のPTに突っ込んで攻撃を受けた場合、ポイントってどうなるんですか? 他のPTを攻撃したってことで相手が減点されるんですか?」


 俺が尋ねると、シズハは「ちょっと違うわ」と首を振った。


「相手のPTはレンくんが言った理由で減点されるけど、ウチも相手を妨害したってことで減点される。この学校のAI、どういう仕組みか分からないけどすごく正確でね、意図的に妨害をしようとしたら見抜かれるわ」


「なるほど」


「あ、あの、先輩、攻略法は、連携重視が、いいのでは、ないでしょうか……?」


 ユキナが恐る恐るといった様子で質問する。


「正解よ、ユキナさん。風間教官も言っていたけど、国魔ではPTの質が問われるの。だからむやみに突っ込んでも――」


「それは実力が同じメンバーでの話ですよね?」


 ここまで無言だったアリサが口を開いた。


「どうやら1位のアリサ様は連携プレイが気に食わないようだ」


 俺がからかうように言うと、アリサは「ふん」と鼻を鳴らした。


「当たり前じゃない。あなたたちが私に合わせるならまだしも、私があなたたちに合わせるんじゃスコアが伸び悩む。そうなったら私の順位が下がっちゃうじゃないの」


「すると、アリサはどういう作戦がいいと思うんだ?」


 俺が尋ねると、シズハとユキナが頷いた。


「決まっているでしょ。私が一人で魔物を蹴散らす。あんたたちは減点されないようにだけ動いてくれればそれでいいわ」


 アリサは立ち上がると、腰に装備している武器を叩いた。

 ミコトを彷彿とさせるレイピアだ。


「あのね、アリサさん、単独行動は減点のリスクが最も高いの。あと、テストのポイントが高いからって学年別の順位が良くなるわけじゃなくて、テストはあくまでも――」


「いいじゃないですか、先輩」


 俺はシズハの言葉を遮った。


「アリサの提案を採用しましょう。アリサは一人で暴れ、俺たちは三人で連携すればいい。優秀なAIが採点してくれるんだから、どちらが正しいかはすぐに分かるはずだ」


「話が分かるじゃないの! コネ入学のくせに!」


 アリサが「ふふん」と得意気な笑みを浮かべる。


「私たちはいいけど、アリサさんが……」


 シズハの反応を見て、俺は確信した。

 このまま進めた場合、アリサの順位が間違いなく落ちるのだと。

 どうしてなのかはよく分からないが、とにかくその点は間違いない。


「今の俺たちがどれだけ言ったって、アリサからしたら聞く気になりませんよ。そうだろ? アリサ」


「当たり前よ」


「だから、まずは試したいように試せばいいじゃないですか」


「分かったわ」


 シズハは戸惑いながらも了承した。


「じゃあ、私たちは三人で頑張りましょうね」


「は、はい! 足を引っ張らないよう、頑張ります……!」


 ユキナが両手に拳を作って決意を固めている。

 大きすぎる胸が揺れていて、俺の決意も揺れている。


『準備が整った。各PT、フィールドへ移動するように』


 そんな折、備え付けのスピーカーから風間教官の声が響いた。


「みんな、幸先のいいスタートを切ろうぜ!」


「馬鹿ね、それはリーダーのシズハ先輩が言うセリフでしょ」


 アリサにツッコミを入れられた。

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