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006 試験の結果

「朱鷺宮シオン校長だ……!」


「すっげー美人……!」


 受験生たちが驚きの眼差しを向ける中、シオン校長が小早川に近づいていく。

 まるでモデルのようにスラッとしていて、妖艶な大人の色気が漂っている。

 小早川と年齢的には大差ないはずなのに、まるで大人と子供のようだった。


「小早川、これ以上の試験は必要ないわ」


 小早川は一瞬きょとんとしたあと、それから慌てた様子で言った。


「でも、まだ二つ目の試験が残っています。実技試験の最終点は二つの試験の兼ね合いで決める決まりでは……?」


「わざわざ実施するまでもなく結果が分かっていると言っているのよ」


 そう言うと、シオン校長は受験生たちに目を向けた。


「次の試験は個人戦よ。この中で王城レンくんと戦いたい者はいる?」


「「「…………」」」


 受験生たちは沈黙していた。


「これで分かった?」


「はい……!」


 小早川も納得する。

 反論の余地はない、と判断したのだろう。


「話を進めているところ申し訳ないんだけど、俺の点数は……?」


 シオン校長に尋ねる。


「もちろん実技試験は満点よ。あとは筆記試験の結果次第ね」


「そういうことなら何も問題ありません!」


 俺は即答した。

 こちらとしても無駄な戦闘しなくて済むのはありがたい。


「そりゃ満点だよな……」


「むしろ納得しかない……」


 他の受験生も納得しているようだ。


「誰も異論がないようなので、レンくんの試験は以上をもって終了よ。先に帰ってくれてかまわないわ」


「ではお言葉に甘えて帰らせていただきます!」


 俺は「ありがとうございました!」と敬礼してから外に向かう。


「小早川、他の子らには改めて実技試験をやり直させなさい。レンくんが一人で180体以上の敵を倒したせいで、まともな採点ができないから」


「か、かしこまりました!」


 シオン校長と小早川の話す声が聞こえる。

 受験生らの「また戦うのかよぉ」という声も。


 なんだか申し訳ないな、と思いつつ俺は帰路に就いた。

 実技は満点が確約されたわけだから、あとは筆記試験の結果次第だ!


 ◇


 二月下旬。

 国立対魔高等学校――通称“国魔”の合格発表日がやってきた。


 俺は自宅の居間でうずうずしていた。

 家族共用のデスクトップパソコンの前に陣取って動かない。


 試験の結果は10時00分に発表される。

 現在の時刻は9時50分なので、あと10分で運命の時が来るわけだ。


「国魔なんて受かるわけないのに……。というか、どうしてスマホを使わないのかしら……」


 母親が少し呆れた様子で口を尖らせている。

 ソファに腰をかけ、無駄に高いインテリア雑誌を読んでいた。

 言葉に反して合否が気になるのか、チラチラとこちらを気にしている。


「母さんが思っているほど弱くないんだって、俺」


「親譲りのFランクでよく言うわよ」


 そう、俺の両親はどちらも固有スキルがFランクなのだ。

 スキルの強さは遺伝しないが、俺の場合は物の見事に遺伝していた。


 ちなみに、母親の固有スキルは〈オールクリーン〉。

 効果は任意の場所を綺麗にするだけ――つまりお掃除スキルである。

 もちろん戦闘に使うことはできない。

 魔物に向けて発動しても、魔物の体がピカピカになるだけだ。


「どうせ落ちるんなら、もっと普通の冒険者学校に行けばよかったのに。受験料が無駄になっちゃったわ」


「うるさいなぁ! あと10分で結果が出るんだから、それまでは黙っていてくれよ!」


 俺は不機嫌な声で返す。

 15年前に戻ったことで、人格まで中学生になりかけていた。

 ……と思ったが、前世でも大して変わらなかった気がする。


「あと2分だ……!」


 PCに表示された時計を眺めながらドキドキする。

 緊張で指先が震え、更新(F5)キーを連打してしまう。


「頼む、頼むぞ……!」


 俺は右手だけで祈った。

 左手はたらりと垂らしたままだ。

 ミコトとの戦闘で負った怪我が未だに回復していなかった。


「息子の努力が報われますように……!」


 母親も小さな声で祈っている。


 ピンポーン♪


 そんな時、家の中に鐘の音が鳴り響いた。


「合格の音色か!?」


「馬鹿ね、チャイムよ。セールスかしらね」


 母親が面倒くさそうに立ち上がり、玄関へ向かう。

 居間からだと玄関の様子が見えない。

 俺はパソコンの前で耳を研ぎ澄ませながら、時計を凝視していた。


「……はい、どちら様?」


 母親がドアを開けながら言った。


「王城レンは在宅か?」


 女の声だ。

 凜とした響きを帯びており、聞き覚えのあるものだった。


「レンなら居間でパソコン見てますけど……」


「よし、邪魔するぞ」


「え、ちょ、あの!?」


 女が強引に押し入ってきたようだ。

 母親の慌てる声が聞こえてくる。


「久しぶりだな、レン」


 現れたのは軍服姿の女性――神威ミコトだ。

 お供の軍曹も一緒である。


「ミコト!? なんでお前がここに!」


 思わず声が出る。

 母親も目を丸くして彼女たちを見つめていた。


「ちょっと、レン! なんだって軍の人が家まで来るのよ!? まさかあんた、何かやらかしたの!?」


 母親がヒステリックに騒ぐ。


「そ、そういうわけじゃないって!」


 と答えるものの、俺にもミコトの用件が分からなかった。


「レン、私との約束は覚えているか?」


 困惑する俺に、ミコトが真顔で話を切り出した。


「約束?」


 少し考えてハッとした。


「……不合格だったのか?」


 入試に落ちたら、俺のことを殺すとミコトは言っていた。

 それを果たしに来たということか。


「やれやれ、中将も人が悪い。誤解していますよ、レンくん」


 軍曹が呆れ顔で言う。

 ミコトは「そうだな」と笑みを浮かべた。


「レン、お前は合格だ。私は合格の通知書を持ってきた――軍曹」


「ハッ!」


 軍曹が封筒を取り出し、渡してきた。

 俺は座ったまま受け取り、その場で中の様子を確認する。

 中に入っている紙には、ハッキリと「合格」と書かれていた。


「おお! 本当に合格している! この俺が……!」


 喜びと安堵の気持ちが込み上げる。


 合格の通知書には点数や順位も書いてあった。

 それによると、俺は35位らしい。

 合格者が100人なので、平均よりやや上ということになる。


「う、嘘みたい……! ウチの子が、本当に国立対魔高等学校に……!」


 母親は口をポカンとして信じられないといった様子だ。


「な! 母さん、俺、実はそこそこ強いんだ!」


「そのようね……! すごい! すごいわ、レン!」


 母親がぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。


「「そこそこ強い……?」」


 ミコトと軍曹は首を傾げていた。

 何やら言いたげだが、どうでもいいので気にしなかった。


「喜んでいるところ悪いが、本題に入ってもいいかな?」


 ミコトが軽く咳払いをした。


「え? 合格の通知書を持ってくるのが本題じゃないのか?」


「馬鹿を言うな。私は対魔防衛軍の中将だぞ。どうして受験生の家に合格通知書を持っていかねばならない。そんなものはあくまでついでだ」


「じゃあ、何のために?」


「それはだな――軍曹、頼む」


「ハッ!」


 軍曹は俺の左肩に向かって右手をかざした。

 手の平から淡い光が放たれ、負傷している箇所を包んでいく。

 これまで続いていた痛みがすーっと引いていった。


「終わりました! 中将!」


「ありがとう、軍曹。――レン、お前の肩を治療するのが本題だ」


「なるほど。でも、どうして今さら? 痛みが残っているとはいえ、既にほとんど回復していたぞ。もしかして、軍曹の治癒能力が低いのか?」


「失礼なことを言うな。軍曹のスキルランクはBだ。今さらになったのはお前のせいだ」


「俺の? どういうことだ?」


「試験が終わるなり治してやろうと思い、我々は試験日に国魔まで行ったんだ。しかし、お前は既に帰ったあとだった」


「あー、そういうことか」


「校長に話を通しておけばよかったのだが……ま、過ぎたことをとやかく言っても仕方ない。お前はめでたく合格し、肩は完治した。万事解決だ」


「ああ、そうだな。助かったよ、ありがとう」


「気にするな。では、我々は用が済んだので失礼する。いきなり押しかけて悪かったな」


 ミコトが母親に会釈し、軍曹とともに玄関へ向かう。


「え、えぇ、まぁ……はい」


 母親は困惑した様子で頭をペコペコしていた。


 俺はミコトと軍曹を見送るため玄関までついていった。


「レン、今回の合格はスタートに過ぎない」


 ミコトは軍用のブーツを履きながら言った。


「私に対して対魔防衛軍でトップを狙うと宣言したんだ。国魔は首席で卒業してくれよ。私のようにな」


「そのつもりだ」


「もし国魔を首席で卒業できれば、その時は直属の部下にしてやる」


「……それって、喜んでいいことなのか?」


「一番の出世コースだ。総司令を目指すなら、これ以上のルートは存在しない」


「なら首席で卒業しないとな」


 ミコトは満足気に頷いた。


「期待しているぞ、レン。対魔防衛軍で待っているからな」


 最後の言葉を残して、ミコトと軍曹が玄関から出ていく。


「絶対に首席で卒業してやる……。2040年を変えるために……!」


 国魔の入学式はおろか、中学の卒業式すら済んでいない。

 そんな状況にもかかわらず、俺は国魔の卒業後を見据えていた。

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