022 新たな手がかり
「実は私が魔工研に勤めていた頃、魔人を生み出そうとしている研究者連中がいたんだ」
「え? 魔人を生み出す!?」
「厳密には魔物の細胞を取り込むことで、身体能力の飛躍的な向上や長寿化を目的としたものだ」
俺は思わず息を呑んだ。
「魔物の細胞を人間に……!? そんなこと、本当に可能なんですか?」
「いや、実験は失敗続きだったそうだ。もっとも、彼らは初期段階で追放されたようだから、その後の結果は知る由もないがね」
「追放?」
「魔工研の理念に反する――つまり、倫理的に問題のある連中だったんだ。新人類に関する研究もそうだが、他にも魔石から魔物を復元しようとするなど、とにかく軍事利用を目的としていた」
「そういう連中の研究が、未来のどこかで成功して、そして……魔人が現れた。そんな可能性がある、と」
柳生さんは「そうだ」と頷いた。
「レンくんから魔人の話を聞いてピンと来たよ。奴らの研究が進み、実験が一定の成果を出したのではないかとね」
2040年問題は自然に発生したものと思っていた。
ところが、柳生さんの話によって人為的である可能性が急浮上。
俺は戦慄した。
しかし、人為的なものだとすれば阻止することは容易い。
新人類に関する研究者を叩けば済むからだ。
「柳生さんは、その研究者たちの居場所を知らないんですか?」
当然のことを尋ねる。
すると、柳生さんは首を振った。
「居場所はおろか名前すら知らないよ。複数人で研究をしていたことは知っているが、具体的な人数なども分からない」
「どうしてですか? 同じ魔工研のメンバーだったんですよね?」
「当時の魔工研は特殊な組織でね、秘匿主義が徹底されていたんだ。今の魔工研と違い、一つの大きな研究所に白衣を着た研究者が集まるようなことはなかった。全ての研究者が自国で作業を行い、研究成果はメッセンジャーを介してやり取りする形になっていたんだ」
「そんな……!」
「だから、先ほど述べた“新人類”や“魔物の復元”などを目論んでいた連中については、直接的に見たわけではないんだ。私の実績が一般には知られていないのも、こうした理由からさ。成果物の所有権は、魔工研や各国政府が持つという決まりになっている」
柳生さんの実績は、通常だと全国に銅像が建てられるレベルだ。
紙幣になってもおかしくないだろう。
それなのに、全くと言えるほど知られていなかった。
「少し逸れるのですが、柳生さんは嫌じゃなかったんですか? 自分の実績が半ば横取りされるような形になって」
「まーったく気にしとらんよ」
柳生さんは笑顔で即答した。
「私は他の科学者と違って名誉に興味はないからね。成果物の所有権は保持していないが、それに見合うだけの対価として莫大な報酬を得ている。金さえもらえればなんだってかまわんさ! がっはっは!」
「なんとも現金な……!」
俺は苦笑した。
「話を戻すが、レンくん、君からすれば新人類に関する研究をしていた人物を一刻も早く見つけたいはずだ。そうだろ?」
「その通りです。どうにかなりませんか?」
「もちろん、どうにでもなる」
柳生さんは迷うことなく言い放つ。
しかし、俺の目が輝き出すのと同時に「だが……」と続けた。
「すぐに……というわけにはいかない。全力で探ってみるが、結構な時間がかかるのは確実だ。数週間、数ヶ月、下手すると数年を費やすかもしれない」
「ど、どうして、そんなに……!」
「新人類――すなわち魔物の細胞を人間に移植する研究が成功すると、長寿化が見込めるからだ。死は誰にでも平等に訪れるものだが、権力者ほど死を恐れ、死を避けたいと願っている。だから、長寿化に関する研究には多くのスポンサーがつくんだ」
「スポンサーがつくと厄介なんですか?」
俺には今ひとつ分からなかった。
「研究には様々な制約や制限が設けられている。だから、どんなことでも自由に研究できるわけじゃないんだ。新人類に関する研究は、一般的には絶対に認められないものだ」
「つまり、裏で動いている研究だから見つけにくい、ということですか」
「子供っぽい言い方ではあるが、その通りだ。新人類に関する研究チームを探し出すというのは、別の言い方をするなら犯罪組織を特定することになる。それも、多くの権力者が裏で支えている組織のな」
「たしかに、そう聞くと探し出すのは難しそうだ……!」
話を聞けば聞くほど、困難というより不可能に思えてくる。
「だからレンくん、君はこれまで通り対魔防衛軍のトップを目指しなさい。新人類に関する研究チームの捜索は私が行う。そして、何か分かり次第、速やかに連絡を入れるよ」
「ありがとうございます!」
「こちらこそ、楽しい時間を過ごさせてもらって感謝するよ」
柳生さんはにこりと笑うと、掛け時計に目をやった。
いつの間にやら夕方が近づいてきている。
すっかり話し込んでしまっていた。
「レンくん、今日は家に泊まっていくかい?」
「いえ、この時間なら間に合うので帰ります」
「ではタクシーを呼んでおこう。待っている間、適当にくつろいでくれ」
「すみません、何から何まで……」
気さくな笑みを浮かべる柳生さんにお礼を言い、俺はログハウスを出た。
外に出ると、海風の香りが微かに漂っていた。
鳥のさえずりが聞こえてきて心地いい。
この大自然を満喫しようと、俺は適当な方角に歩き始めた。
(日に日に手応えが強くなっていくな……!)
2040年の惨劇から地球を守り、最高の人生を送る。
そのための道を、俺は確実に歩めている。
この調子で進めば、未来を変えられるかもしれない。
いや、必ず変えることができる。
「二周目も【絶滅エンド】なんて絶対に許さねぇ」
俺は決意を強め、これからも活動していく――。
持続的に更新をしていくことが難しくなってしまったため、連載を終了することにしました。
猛省し、再発防止に向けて今後は無理のない執筆を心がけます。
誠に申し訳ございませんでした。