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002 日本最強の軍人

「受験できないって、どういうことですか?」


 受付デスクの前で、俺は困惑していた。


「だって、君の固有スキル……Fランクだよね?」


 受付のお姉さんが呆れたように言った。


「そうですけど……」


 たしかに俺の固有スキル〈魔石吸収〉はFランクだ。

 といっても、別に飛び抜けて弱い……というわけではない。


 純粋な強さで言えばCランク相当だろう。

 なにせ魔石の力――魔力を一時的に自分自身へ付与するという効果なのだから。

 魔力に比例して効果も強くなるし、何かと応用も利く。


 問題は発動条件にある。

 持っている魔石を消費しなくてはならないのだ。

 つまり、効果を使うたびに魔石を消費することになる。

 余談だが、昨日ボコボコにした黒門の場合、影があれば発動できるはずだ。


 世界的に冒険者が厚遇されているのは、魔石を回収してくるからだ。

 その魔石を自分自身で消費するのだから、勝手が悪いことこのうえない。

 実際、前世ではPTに入れてもらえなかった。


 当然だ。

 魔石を換金することでお金を稼ぐのが冒険者である。

 それなのに魔石を消費するのだから、誰だって組みたがらない。


 もっとも、だからこそ俺は強くなれた。

 否応なくソロを強いられ、一人で戦い抜く力を身につけたわけだ。


「国魔ではね、“固有スキルのランクがD以上”であることを入学条件なの。だから君は、そもそも受験する資格がないってこと」


 聞きたくない事実がどんと胸に響く。

 だからといって、「なら仕方ないですね」とはいかない。

 ここで諦めたら、対魔防衛軍で出世する道が途絶えてしまうのだから。


「そう言わずに受験させてくださいよ。国魔なら実技試験があるはずだ。それでぶっちぎりの1位を取ってみせる。ならランクなんて関係ないはずだ!」


 俺は受付デスクにしがみついて食い下がった。


「そう言われても規則は規則なので……。それに私、契約社員だし……」


 受付のお姉さんが苦い顔をする。


「そこをなんとか! 一生に一度のお願いだから!」


 こんなところで終わってたまるか。

 俺は上半身を乗り出し、必死に訴える。

 そんな時だった。


「何やら賑やかだな。どうした?」


 背後から女性が割り込んできた。

 対魔防衛軍の軍服を着た漆黒のロングヘアをなびかせた凜々しい女だ。

 芸術的とすら言える美しいレイピアを装備している。


神威(かむい)ミコト……!」


 反射的に女の名を呟いてしまった。


「ほう? 私のことを知っているのか」


「はは、神威中将のことを知らない者などいませんよ」


 ミコトの背後に控えている男の軍人が言った。


 神威ミコトは、前世で一緒に戦った仲間だ。

 いや、仲間というよりも戦友である。

 プライベートの話をしたことなどはない。


 彼女はSランクの固有スキルを持つ対魔防衛軍のエースだ。

 前世で知り合った時は、防衛軍の総司令として君臨していた。


(今のミコトは25歳半ばだ。それなのに中将か。すごいな)


 対魔防衛軍の組織図は少し変わっている。

 一番上が総司令で、次に大将、中将……と続いていく。


 ただ、大将は軍人ではなく内閣の大臣が担当する決まりだ。

 自衛隊における防衛大臣のようなもの。


 そのため、中将は実質的なナンバー2を意味していた。

 また、戦闘力に関しては、今の総司令よりもミコトのほうが強い。

 20代半ばにして中将にまで昇格していることからも明らかだ。


「それで、何を言い争っていた?」


 ミコトが受付のお姉さんに尋ねた。


「この少年が受験資格を満たしていなくて……」


 お姉さんは俺の書類をミコトに渡した。


「ふむ」


 ミコトは書類に目を通すと、「なるほど」と呟いた。


「固有スキルのランクがFか。なら受験資格がないな」


 そう言うと、間髪を容れずに俺を見て言う。


「国魔に入らずとも冒険者になることは可能だ。それに他の冒険者学校であれば、スキルランクの制限を設けていない。君の実力が本物なら、わざわざ国魔にこだわる必要はなかろう」


 ミコトは根っからの軍人だ。

 規則を曲げることなど絶対に許さない。

 故にこの反応は予想通りのものだった。

 だからといって引くことはできない。


「世界を守るためにはこの学校に入る必要があるんだ」


「卒業後は冒険者ではなく、対魔防衛軍の軍人になりたいわけか」


「ああ。それも出世コースを歩く。あんたよりも上――総司令になる必要があるんだ。絶対にな!」


「こいつ! 神威中将になんて口の利き方を!」


 後方に控えていた男の軍人が詰め寄ろうとしてくる。


「よせ、軍曹」


 だが、すぐにミコトが止めた。


「し、失礼しました!」


 軍曹と呼ばれた男は敬礼して一歩下がる。


「なんにせよ諦めることだ。軍人はルールを守らなくてはならない。対魔防衛軍に入りたいのであれば、他所の学校で実績を積んで正規の試験を受けて入隊するといい」


 ミコトが話を切り上げようとする。


(このまま終わらせちゃダメだ! チャンスはここしかない!)


 俺は一か八かの賭けに出た。


「神威中将、俺と戦ってくれ」


「なんだと?」


 ミコトの眉がピクピクと震える。

 受付のお姉さんや軍曹は口をあんぐりしていた。


「対魔防衛軍は実力主義の組織だ。そして神威中将、あんたは階級こそ中将だが、実力的には軍で一番だろ? そのあんたに俺が勝ったら、実力は問題ないと証明される。実力が十分なら、この学校に入る権利だってあるはずだ」


 我ながら無茶苦茶な理論だ。

 しかし――。


「いいだろう。その心意気に敬意を表して受けてやる。私を負かすことができたら、特例として君だけはFランクでも受験できるようにしよう」


 ミコトが話に乗ってくれた。

 思わず「よし!」と拳を握る。


「か、神威中将、それはいけません!」


 軍曹が慌てて止めに入る。


「なんだ軍曹、私がわざと負けると思っているのか?」


「違います! 中将の性格上、相手が中学生だろうと全力で戦うに違いありません! だから止めているのです! その子が死んでしまいます!」


「……と、軍曹は言っているが?」


 ミコトが挑発するような笑みを浮かべて俺を見る。


「そんなもん最初から分かってんだよ、こっちは。あと、俺だって戦いになったら容赦できない。互いに死んでも恨みっこなしでいこう」


「よく言った」


 満足気に頷くミコト。

 軍曹は「知らんぞ……」とため息をつく。


「演習場を一つ手配してくれ。この少年――王城レンとの決闘に使う」


 ミコトの鋭い声が飛び、受付のお姉さんが大慌てで電話を掛け始める。

 他の職員も駆け寄ってきて、場が騒がしくなっていく。


 こうして、俺は日本最強の軍人・神威ミコトと戦うことになった。

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