012 レンとユキナの連携
『双方、ルールは把握しているな?』
フィールドに風間教官の声が響く。
俺とユキナ、それにアリサと小野寺が頷いた。
『それでは――始め!』
最初に動き出したのは小野寺だ。
「楽しませてもらうぜェ! 来い! 〈エクソダス・レギオン〉!」
小野寺が両腕を広げる。
次の瞬間、彼の周辺に無数の召喚獣が現れた。
犬くらいの小型からトラックほどの大型まで色々だ。
「召喚系のスキルか……厄介だな」
「ど、どうしよう、レンくん。あれだと近づけないよ」
「建造物を迂回すればいいさ。正面から挑む必要はない」
俺たちは大通りから外れて路地に入った。
「そういう戦い方がザコの典型なのよ!」
アリサの怒声とともに派手な轟音が響く。
おおかた〈ヴァルキリー・ブレード〉で建物を破壊しているのだろう。
(攻撃力だけならミコト以上だが、戦い方がワンパターンだな)
聞こえてくる音を頼りにしつつ、路地を抜けて距離を詰めようとする。
しかし――。
「カァー! カァー!」
小野寺の召喚獣に見つかってしまった。
カラスを模した偵察用のようで、ビルの上に陣取っている。
「ワォオオオオオオン!」
「グォオオオオオオオオ!」
すぐさま他の召喚獣が詰めてきた。
「おいおい、アリサよりも小野寺のほうが厄介じゃねぇか」
苦笑いを浮かべながら召喚獣を倒していく。
ユキナも杖で応戦しつつ、俺の様子を窺っていた。
「そこ!」
アリサの声が聞こえる。
声のした方向に目を向けると雑居ビルがあった。
そして、ビルの向こうに光の刃が見える。
「ユキナ! 〈ホーリーシールド〉を俺の左斜め上に出せ!」
「は、はい!」
ユキナがスキルを発動。
あらゆる攻撃を一度だけ無効化する光の盾が現れた。
そこへアリサの〈ヴァルキュリー・ブレード〉が迫ってくる。
パリィン!
アリサの攻撃は光の盾によって無効化された。
と同時に、光の盾は粉々に砕け散る。
「ナイスだ! ユキナ!」
「ありがとうございます!」
ユキナの〈ホーリーシールド〉は、防御力だけなら最強だ。
ただ、発動範囲が自身の半径20メートル以内かつ視界内に限られており、最大で1つしか召喚できないという欠点がある。
「反撃だ!」
俺は〈魔石吸収〉を発動し、ゴブリンの魔石を二つ取り込んだ。
すぐさま魔力を解放し、鼻と耳を強化する。
「これで敵の動きが完璧に分かるぜ」
「すごいけど、レンくんの耳と鼻がゴブリンっぽい……」
「カッコイイだろ?」
「いえ……」
俺は「はは」と笑いながら、召喚獣を始末していく。
「おい、鳳条院。早く倒してくれよ。あいつら普通にツエーって。俺の召喚獣が全滅させられちまう」
「分かってるわよ! 黙ってなさい!」
アリサと小野寺が焦った口調で話している。
聴覚を強化したことで、二人の声が丸聞こえだ。
(なるほど、小野寺の弱点は“追加召喚ができない”ことか)
小野寺の召喚獣は非常に優秀だ。
どの個体にも役割があるので、使いこなせばSランクに匹敵する。
使用者が小野寺ですら驚異的なのだから、熟練者が使えば凄まじいだろう。
(さて、勝負を決めに行くか)
召喚獣の猛攻が一段落したので、俺たちは路地裏に逃げ込んだ。
敵の監視がなくなったことを確認すると、ユキナに耳打ちした。
「ユキナ、作戦を伝える」
◇
アリサ・小野寺コンビに勝つ方法はいくらでもある。
最も確実なのは持久戦に持ち込むことだ。
逃げ回って小野寺の召喚獣を減らしつつ、アリサのスタミナ切れを待つ。
アリサは短気なので、固有スキルを無駄に連発して動けなくなるだろう。
そこを突けばいい。
(だが、そこまで徹底する必要もないな。この程度の相手なら)
俺はゴブリンの嗅覚と聴覚を頼りに路地を駆け抜ける。
少しずつ距離を詰めていくと――。
「相手がスキル頼みのポンコツでよかったぜ!」
意表を突いて路地から飛び出した。
「なっ――!」
「後ろだと!? 前にいるんじゃないのか!?」
アリサと小野寺が驚いている。
小野寺の傍には主力と思しき大型の召喚獣が三体。
「それは俺じゃない――ユキナだ!」
俺はロングソードを横に払って小野寺の首を斬った。
――が、模擬戦なのでダメージはない。
『小野寺マサユキ、戦闘不能!』
風間教官の声が響く。
小野寺の召喚獣が消えて、小野寺はその場に膝を突いた。
「この!」
アリサが振り返りながらレイピアを振るう。
俺はロングソードで攻撃を受け止めつつ、小野寺に言った。
「今度から獲物の情報をもっと詳しく教えておくんだな。そうすれば、お前のカラスはユキナを無視して俺だけを捉えられただろう」
小野寺が対象を絞っていないことは分かっていた。
召喚獣がどちらか一方ではなく、俺とユキナを同時に狙っていたからだ。
今回のルールで勝ちに行くなら、まずは確実にユキナだけを落としている。
そうしなかったのは、使用者の腕が未熟であり、慢心していたからだろう。
「勝った気にならないで! まだ私が残っているでしょ! あんたとユキナ、両方を倒せばいいだけのこと!」
アリサがレイピアを振りかざす。
刀身に光が集まっていくところを見るにスキルを発動したようだ。
「やはりお前は馬鹿だよ、アリサ」
「なんですって!?」
「お前のスキルは、通常では届かない距離に強力な斬撃を放てる点が強みだ。距離を詰められたら本領を発揮できない――いや、スキルがないのも同然だ」
「うるさい!」
アリサがレイピアを振り下ろす。
――だが、その剣は俺のロングソードによって容易く払われた。
カキィン、と高い音を響かせながらレイピアが飛んでいく。
「終わりだな」
「うっ……」
武器を失ったアリサが、悔しそうに後ずさる。
「レンくん、すごい!」
ユキナが駆け寄ってくる。
「言ったろ? 俺は強いってな」
チラリと観客スペースに目を向ける。
風間教官はこちらを見ているが、校長は去ろうとしていた。
勝敗が決したので満足したようだ。
「……よ!」
アリサが何やら呟いている。
「勝手に……」
「ん?」
「勝手に終わらせないでよ! 私はまだ生きている!」
立ち上がるアリサ。
「どうした? トドメを刺してほしいのか?」
「いいえ」
アリサは首を振り、口元に笑みを浮かべた。
「死ぬのはあんたたちよ!」
次の瞬間、彼女のスカートに付いているリボンが光り始めた。
「なんだ?」
アリサがリボンを引きちぎる。
光は凝縮されると、形を変えて剣になった。
なんとリボンに〈ヴァルキュリー・ブレード〉を発動したのだ。
「私のスキルはどんな物にも発動できるのよ!」
アリサが切っ先をこちらに向けて突っ込んでくる。
彼女の突進に加えて、スキルの効果で光の剣が伸びていく。
「まずい!」
さすがにこの攻撃は予想外だった。
避けきれない。
(実戦なら問題ないが、模擬戦はAIが判定を下す……! 戦闘不能として扱われたらユキナだけになってしまう!)
アリサの見せた最後の抵抗に焦る。
だが、彼女の悪あがきは俺に届かなかった。
「レンくんは、倒させない……!」
ユキナが〈ホーリーシールド〉を発動したのだ。
これによって、アリサの剣とユキナの盾が消滅する。
「助かったぜ、ユキナ。 ――アリサ、これが連携の力だ!」
俺はロングソードを振るい、アリサの右肩から左脚にかけて斬った。
『鳳条院アリサ、戦闘不能! よってこの模擬戦、王城レン・白峰ユキナの勝利とする!』
風間教官が宣言した。
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