011 初めての模擬戦
アリサは何が何でも認めたくないようだった。
もはや理屈ではなく、実力の差を分からせるしかないようだ。
「もちろん受けて立つ。お前がコネ入学と騒ぐザコに負けたら、ちっとは懲りてくれるだろうからな」
「あり得ないことだけどね。あ、そうそう、私が勝ったら、あんたはこの学校をやめなさい。いいわね?」
「は?」
謎の後付けだ。
シズハとユキナも驚いている。
「当たり前でしょ。私に恥をかかせたのだから責任をとってもらわないと」
「全く意味が分からないが……俺に条件を突きつける以上、お前も負けたら何かしてくれるんだろうな?」
「もちろん。あなたの言うことを何だって聞いてあげるわ」
「なら受けよう。タイマンだ」
俺は満面の笑みを浮かべた。
これでこのワガママ女を叩きのめせば、今後は協力させられるだろう。
本人がどう感じようが、俺の命令に従って連携するしかない。
――と思ったのだが。
「待て二人とも、その戦いは許可できない」
風間教官が止めてきた。
アリサが剣先を下ろさないまま、きつい目で教官を睨む。
「なんでよ! 相手も望んでいるんだからいいじゃない!」
「国魔では原則としてタイマン形式の戦いは認めていない。どうしても白黒を付けたいというのなら、PT単位での模擬戦という形にしろ」
「PT単位……4対4ってことですか?」
俺が尋ねると、風間教官は「いや」と首を振った。
「2人PTや3人PTでもかまわない。とにかくチーム戦であることが条件だ」
「なるほど。それは困るな。俺はともかく、ペアの人間に怪我をさせるわけにはいかない」
独り言のつもりだったが、風間教官が答えてくれた。
「その点は安心していいぞ。模擬戦では魔力で作った専用の武器を使う決まりだ。先ほどのテストで戦った魔物と同じで攻撃力がない。固有スキルにも適用されるから遠慮なく戦える」
「ダメージ判定はAIが行うのですか? ノーダメのままだと勝負がつかないと思うのですが」
「正解だ。AIが戦闘不能と見なすと、武器が使えなくなり、その場から動けなくなる」
「なるほど」
俺は苦笑いを浮かべた。
(そんな便利なシステムがあるのに命懸けの勝負をしたのかよ、あの女)
脳裏によぎるのはミコトの顔だ。
国魔の卒業生である彼女は、間違いなく演習場の仕様を知っている。
そのうえで、何も言わずに実戦形式で戦わせたのだ。
「じゃあ2対2でいいわね。あんたはシズハ先輩と組みたいでしょうし、私は他の演習場に行って相棒を探してくるわ」
アリサが話を進めようとする。
シズハもその気だったようで、「頑張るね」などと言っている。
「いや、俺のパートナーはユキナだ」
「「「えっ?」」」
アリサとシズハ、それに指名されたユキナまでもが驚いている。
「な、なんでユキナなのよ……!」
アリサが睨んでくる。
「俺がシズハ先輩と組んで勝利したら、お前、言い訳しそうだから」
「はぁ!?」
「上級生の力があったからだとか、シズハ先輩はフィールドの特性を熟知していたからだとか、何だかんだと喚きそうじゃん」
「い、言わないし! そんなこと!」
「ま、なんにしても俺の相棒はユキナだ。さっきのテストで動きは把握しているし、それになにより――」
俺はニヤリと笑った。
「お前が誰と組もうと、俺一人で余裕だからな」
「この……! 絶対に後悔させてやる! 35位の分際でふざけやがって! 1位と35位の壁を思い知らせてやるんだから!」
「今は20位だし、お前は15位だ。過去の栄光にしがみつくな。みっともない」
「うるさい!」
アリサは大股で演習場をあとにする。
こうして、2対2の模擬戦を行うことが決まった。
◇
フィールドの生成をするとのことで、俺とユキナは再び控え室で待機させられた。
シズハは戦いに参加しないため、風間教官と一緒に観戦スペースにいるはずだ。
「模擬戦だと相手のスキルランクも分かるんだな」
俺は上部のモニターに目を向けた。
名前、学年、順位、スキルランクの四つが書いてある。
アリサの相棒は小野寺マサユキという男子だ。
今の順位は4位で、スキルのランクはA。
ユキナによると、入試時の順位は5位とのこと。
「レンくん、本当に大丈夫……? 相手、2人ともAランクのスキル持ちだよ?」
ユキナは落ち着かない様子だ。
膝の上で杖を転がして、ソワソワしている。
「戦ってみないと分からないけど、どうにでもなるだろ。魔石も残っているしな」
シズハとユキナのおかげで、実戦テストでは魔石を温存できた。
だから、Fランクの魔石が10個ほど余っている。
念のためにEランクの魔石も持ってきているから問題ない。
「それにしても、よくできた武器だな。見た目も重さも本物と変わらないぜ」
俺は鞘からロングソードを抜いた。
魔力で作られた模擬戦用の武器だが、言われなければ違いが分からない。
「すごいよね。私の杖も本物にしか見えないよ」
ユキナは立ち上がり、「えいっ」と杖を振る。
「おー、いい感じだ、頼もしいぞ」
と言いつつ、俺の目は彼女の胸に釘付けだった。
シャツのボタンがはち切れているせいで谷間がよく見える。
おそろしく大きな胸がプルンプルン。
眼福とはまさにこのこと。
あまりにも圧倒的。
たまらない。
『フィールドの生成が完了した。レン、白峰のPTは西口から。鳳条院、小野寺のPTは東口からフィールドに向かえ』
風間教官の声で我に返る。
「行こうか、ユキナ」
「うん……! 私、頑張るからね!」
◇
「すっげぇ」
フィールドに着くと同時に漏らした感想だ。
そこには広大な“市街地”が広がっていた。
アスファルトの道路にビル群。看板や信号機、電柱まで。
全てが忠実に作られていて、それに動いている。
「本当の街みたいだね」
ユキナも目を丸くしていた。
「魔力を活用することで何でもできるんだな」
現代の技術力に感動する。
「その間抜け面を絶望に染めるのが楽しみね」
遠くから声が聞こえてきた。
真っ直ぐ延びる道路の先――約200メートル前方にアリサがいたのだ。
その隣には小野寺マサユキと思しき男子生徒もいる。
「見て、レンくん! ものすごい数の人がいるよ! 校長先生まで……!」
ユキナが観戦スペースを指した。
風間教官と校長に加え、他の教官も揃っている。
また、別の場所にも観戦席が設けられていた。
そちらには100人以上の生徒がずらり。
「アリサの奴、恥ずかしさのあまり退学しないといいけどな」
「そ、その前に、私たち、本当に勝てるのかな……?」
「安心しろ、ユキナ――」
俺はユキナの頭を撫でながら笑った。
「――俺は強い。この学校の誰よりもな」
くぐり抜けてきた修羅場の数が違う。
負ける気はしなかった。
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