寝言で本心が聞けるという薬を、旦那様に使ったら。
ポタリ。
小瓶の薬を一滴、寝室に用意した酒杯に落とす。
(これで全てが判るわ)
結婚して半年。
後継ぎを作るための行為はまだ、ない。
(所詮私は、旦那様にとって箔付のために買った小娘なのね)
私の実家は、由緒ある伯爵家だ。不運が重なり困窮していたところに、旦那様から援助の申し出があった。
旦那様は仕事で成功し、爵位を買った新興貴族。
他貴族との顔繫ぎ目的で、私を娶られたのだろう。
にも拘らず。
(とても良くしてくださるわ)
折につけ心を配り、不自由のないよう、衣食住諸々において最高のものを用意してくださっている。
私を想ってくださってる?
ではなぜ、指一本触れてくださらないの?
どこかに愛人を隠していて、後ろめたいせい?
わからない。
ご多忙な旦那様とはあまり会話もなく、どうお聞きしたら良いのか。
以前それとなく話を振った時には、はぐらかされてしまった。
だから薬を、入手した。
"寝言で本心が聞ける薬"。
私は小瓶をそっと、脇机の抽斗にしまう。
(旦那様にお酒をお勧めして、お眠りになったら尋ねてみよう)
卑怯な方法だとは思うけど、旦那様が私に求めている役割を知りたい。
実家を、ひいては領地領民たちを救ってくださった恩を返したい。
お飾りの妻をご要望なら、寂しいけどきちんと務めたいもの。
ノックで、旦那様が部屋に来られたことを知った。
「どうぞ……、えっ?」
めっちゃ花束。山盛り花束。
しかも珍しいルリーローズ!
「お待たせ、シア。君が希望してた花が、ようやく手に入ったんだ」
「えっ、えっ、えっ」
「プロポーズにはルリーローズの花束を望んでいたと聞く。ごく限られた時期にしか咲かない花だから、結婚式では用意出来ず、今まで待たせてしまった」
呆気にとられる私に、旦那様が片目を瞑る。
「"初夜はこの花に埋もれて過ごしたい"とも、言っていたとか?」
「?! それは昔、実家の侍女にはそう言いましたけども!」
何てこと。まさか、今まで夜に何もなかったのは!
「情報収集は基本だからね」
情報は本人に尋いてくださいまし!
「私が……お嫌だったわけではないのですか?」
「まさか! 僕がどれだけ我慢していたか。だがそれも昨日までの話だ」
ぐい!
旦那様は勢い良くお酒を煽ってしまった。
(ああっ、薬入り!)
その後私は。旦那様に熱烈な愛を囁かれて一晩を過ごし。
寝言でもさんざん「好きだ、綺麗だ」と褒め倒され続け。
身の置き所なく真っ赤になりながら、朝陽を迎えたのだった。
やだ、もう。
お読みいただき有難うございました。
いやそれって自白z…。いえいえいえ、"おまじないみたいなもので、効き目は定かじゃないけど"、みたいな文も入れたかったのですが、文字数の都合で入りませんでした。
なろうラジオ大賞、7作目の参加です。楽しんでいただけましたら嬉しいです♪(*´艸`)
※ルリーローズはこの短編用の架空の花です。「ルリール」という薔薇もありますが、"珍しい"設定にしたいので架空! 青薔薇にしようかと迷ったけど「青は新婚っぽくないよね?」という理由で、こんな感じに。奥様の名前「シア」は多分愛称です。