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雨上がりの空へ  作者: トランクス
2nd STORY
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92/129

2 突き飛ばしと突き落としー1

「いらっさいませ~」


 お盆期間に突入してもサボらず真面目に働く。額から汗を流して。


 父親と母親は朝方に荷物を纏めて出発。途中で葵達の家族と合流して乗用車2台で行動していた。


 自分も2日後には皆の後を追いかける予定。1人だけ遅れての実家への帰省。


 忙しい日程だが充実感に溢れている。これまでの人生でもっとも生き生きとした日々を送っていた。


「君、クビね」


「えっ!?」


 休憩時間中に店長から衝撃の台詞を告げられる。唐突な死刑宣告を。


「な、何でですか。俺、なんかやりました!?」


「この前、お客さんと喧嘩してただろ。服を掴みあって怒鳴り散らしてたじゃないか」


「あぁ、そういえばそんな事があったような」


 3日ほど前の記憶を振り返った。夕飯時に現れた若者2人組と言い争いになった時の出来事を。


 その原因はタバコ。この店は全席禁煙なのに2人組が煙を撒き散らしていたので注意。そこから口論になり、大声を張り上げる事態にまで発展してしまったのだ。


「いや、けどあれは向こうが悪くて…」


「言い訳なんか聞きたくない。君のせいで周りの人達が怯えてしまったんだぞ」


「それは……面目ないです」


「さっきもお客様に対して文句をつけてたし。就業態度が悪すぎるんだよ、まったく」


「だって子供が走り回ってんのに母親が注意しないから…」


「とにかくっ! 君はもう明日から来なくていいから。分かったね?」


「……はい」


 反論を試みるが即座に封殺されてしまう。一方的で居丈高な口調に。


 どうやら執行猶予はつかないらしい。言いたい事だけ言うと肥満気味の店長は奥へと引っ込んでしまった。


「くっそ…」


 唐突に労働生活が終了する。夏休みはまだ半分程しか経過していないのに。


 あまりにも不本意すぎる形での幕引き。悔しいが頭を下げに行きたくなかった。



「という訳で俺、クビになった」


「は!?」


 シフト終了後に更衣室で着替える。隣で制服を脱いでいる友人にも解雇の件を報告しながら。


「もう明日から来なくていいってよ。今日でこの店ともおさらばだぜ」


「ま、待てよ。話を聞いてると祐人は悪くないじゃん。店の為を思って行動しただけじゃないか」


「でもそのやり方が店長には気に入らなかったらしい。もっと大人な対応をしてほしかったんだろうよ、経営者としてはさ」


「自分ではビビって注意しに行かないくせに勝手だ。俺、ちょっと文句つけてくる」


「あ……おい!」


 光太郎がパンツ一丁のまま部屋の外に移動。呼び止めようとしたが間に合わなかった。


「まったく…」


 彼は時々よく分からない事に激怒したりする。普段は恐ろしく温厚なのに。


「……良い奴だよな、アイツ」


 もうこの件は先程の話し合いで決着。今さら同僚が直訴した所で何も変わらないだろう。


 ただそれでも少しだけ誇らしかった。こんな人間の為に憤慨してくれる思いやりに溢れた行動が。


「お~い、祐人」


「ん?」


 しばらくすると引き返してくる。出て行く時と違い何故か笑顔で。


「何だよ。光太郎までクビを宣告されてきたのか?」


「いやいや、それがさ。店長が俺の時給を10円上げてくれるって言うんだってよ」


「はぁ?」


「頑張って働いてくれるからそのご褒美だってさ。いや~、参ったなぁ」


「……あ?」


「もうちょっとだけこの店で頑張ってみようかな。辛いけど続けてみるわ」


「俺は今日限りでお前との友達関係を辞めるわ」


「な、何でさ!?」


 その原因は呆れてしまうぐらいの懐柔。僅か数分で丸め込まれた友人に軽蔑の眼差しを送った。


「じゃあな。バイト頑張れよ」


「うん、祐人も元気でな。暇なら家にでも遊びに来てくれよ。歓迎するからさ」


「分かった分かった。気が向いたら突撃しにいくわ」


「約束だぞ!? もし来てくれなかったら夜中に泣きながら電話するからな?」


「おう。ところで着拒設定ってどうやってやるんだっけ?」


「ちょっ…」


 バイト先を出ると相方と別れる。それぞれ跨がった自転車で自宅の方角に走り出しながら。


「ふぅ…」


 予定が大幅に変更。家族に何と説明すれば良いのか。


「……ま、考えても仕方ないか」


 むしろ今日まで頑張れた事が誇りかもしれない。遅刻や無断欠勤だけはゼロ。サボリ癖のある人間には珍しい真面目っぷりだった。


「ん~…」


 頭上に広がる空を眺める。立体的な入道雲を。


「しょうがない。母ちゃん達の所に行くか」


 家にいてもする事がない。どうせゲームに没頭しながら夜更かしを繰り返すだけ。それなら予定を繰り上げてしまった方がマシだった。


「よっしゃ!」


 気合いを入れて自転車のペダルを漕ぎ始める。まだ昼過ぎなので今から迎えば夕方には到着する見込み。一足先に旅立った家族を追いかける為に自宅を目指した。

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