3 メガネとポニーテールー4
「そっちの中学って武蔵野?」
「あ、はい。そうです」
「俺、若葉台」
「ならこの近所ですね」
「そうそう。通学は今も昔もチャリか徒歩よ」
適当な話題で盛り上がる。1年前にもクラスメートとした内容の会話で。
「休日に友達とどこか行ったりしなかったの? もしかして校則で禁止されてたとか?」
「特にそういう決まりはなかったです。ただ家族以外の人と外食に行く事自体がほとんど無くて…」
「ふ~ん、真面目な子なんだねぇ」
「そ、そんな事はないです」
「美味しい? それ」
「あ、はい。まだ食べてませんけど」
「……おい」
目の前にある物体を指差した。まだ歯形のついていないハンバーガーを。
「中学の時は友達いたの?」
「ま、まぁ…」
「なら高校が別々になっちゃったんだ」
「え~と…」
「もしやこっちに引っ越してきたパターン? 違う?」
「い、いえ……昔からあの家に家族3人で住んでいました」
「そっか」
沈黙を作らないように無難なトークを展開。大して興味もなかったので深い追求はしなかった。
「しかし君も変わり者だよね。こんな変な奴にくっ付いて来るなんて」
「そ、そうですかね」
「俺なら近付きたくもないわ。話しかけられても無視しそう」
「そこまで自分を蔑まなくても…」
普通に考えたらこんな人間と関わろうとはしないハズ。自分と彼女は窓ガラスを割った男とその自宅の住人。いわば加害者と被害者の関係だった。
「ふぅ、食った食った」
中身が無くなった包装紙をグシャグシャに丸める。そのままトレイの上に投げ捨てた。
「食べるの早いですね」
「君が遅いだけだよ。まだ半分しか減ってないじゃないか」
「す、すいません…」
「だから謝らなくても良いって」
喋りながら食べる事が出来ないタイプなのかもしれない。質問にはいちいち手を止めて返答していた。
「はぁ…」
炭酸ジュースの余る紙コップを手に取る。ストローに口をつけながら窓の外に視線を移した。
「どうすっかなぁ…」
学校に行ってみたものの、やはり楽しくない。思い込みが激しいだけなのかもしれないが常に場違い勘が漂っていた。
この苦痛を3年間も耐えなくてはならないのかと考えると辛い。同い年の奴らと同級生だった去年ですらしんどかったというのに。
早くもリタイアしたい気分で満ち溢れている。翌日からの授業をサボる気満々だった。
「……ご馳走様でした」
考え事をしている間に相方がようやく食べ終わる。食べ始めの時と同じように両手を合わせて挨拶した。
「んじゃ行くか」
「は、はい」
2人してトレイを持って立ち上がる。片付けを済ませた後は店員の掛け声を背に退店した。
「君はこれからどうすんの?」
「……私ですか?」
「それ以外に誰がいるというんだ…」
振り向きながら話しかける。相変わらず挙動不審な女子生徒に向かって。
「これといって特には」
「ふ~ん、なら帰るか」
「ど、どこにですか?」
「……自宅以外どこがあるというんだ」
会話がまるで成立しない。小学生でも相手にしているかのような気分だった。
「あ、あのぉ…」
「ん?」
「1つお願いがあるんですけど」
「お願い?」
呆れていると珍しく彼女の方から声をかけられる。何故か頬を真っ赤に染めながら。
「何?」
「んんっ…」
2人してその場に停止。往来の場で正面から向かい合った。
「わ、私と……友達になってくださいっ!!」