3 メガネとポニーテールー3
「はい、んじゃ良いよ」
「え?」
「もう俺、注文終わったから」
「え、え…」
店に入るといつも食べているメニューをオーダーする。品物が出て来るのを待つ間に相方にレジを譲った。
「いらっしゃいませ~」
「あ、あぁあ…」
「お決まりでしたらどうぞ」
「……えっと」
「はい?」
「よ、宜しくお願いします」
そのやり取りに呼応するように店員が声をかけてくる。自分達より一回り年上の女性が。
しかし品物を決めていなかったのか彼女が狼狽えた動作を披露。何を思ったか一歩前に踏み出して頭を下げた。
「店内でお召し上がりですか?」
「え?」
「それともお持ち帰りですか?」
「あ……ここで食べていきます」
「ではご注文をどうぞ」
「は、はい」
店員が手慣れた動きでレジを操作する。メニュー表を少しだけ前に差し出しながら。
「……どうしよう」
「適当で良いよ、適当で。自分の食べたいって思った物を選びなよ」
「へ?」
「直感で良いから。パッと見回して目についたの頼めば良いって」
我慢が出来ずに強めの口調で介入。早く注文を決めるよう促した。
「直感……ですか」
「そうそう、それか値段で決めるとか。もしくは好き嫌いやアレルギーとかでね」
「え……ど、どれを一番に優先したら良いですか?」
「どれでも良いよ、自分で決めな。それか全部合わせて考えたら良いから」
「全部…」
アドバイスに対して茫然とした表情が返ってくる。困惑している心境が窺える反応が。
「くっ…」
迷ってるみたいだから救いの手を差し伸べたのに。焦らすような言い方がマズかったのか、余計に混乱へと陥れてしまったようだった。
「……えっと、ならコレとコレのセットで。サイズは一番小さいのでお願いします」
「お飲み物はどれになさいますか?」
「ん~と……紅茶でお願いします」
「ホットかアイスどちらで?」
「ホ、ホットで」
店員の指示に従いながら何とか注文を終了させる。そこに至るまでにかなりの時間を費やしてしまったが。
まだ混雑前なのが幸いしたらしい。ピーク時にこんな真似をされては反感を買うのは必至だった。
「……なんなんだ、この子」
もしかしてこのチェーン店を利用するのが初めてなのかもしれない。ジャンクフード初体験のお嬢様とか。
確かに彼女の意思も確かめずにレジに進んでしまったのは自分が悪い。ただその要素を抜きにしても一連の態度は変だった。
「じゃあ先に座ってるから」
「あ、はい。私もすぐに行きます」
品物が乗ったトレイを持つと一足先に移動する。景色を眺められる窓際の場所を確保した。
「お、お待たせしました」
「ん」
やや遅れて相方も到着する。注文した商品を持って。
「さ~て、食うとしますかぁ」
「もしかして私が来るのを待っててくれましたか?」
「いや、アプリやってただけ」
「……ごめんなさい」
「だから謝らなくて良いって」
弄っていた端末の操作を中断。汚さないようにポケットに仕舞った。
「い、いただきます」
手のひらサイズの紙袋を開けると勢い良くかぶりつく。肉汁が垂れている物体に。
「もしかしてここ来るの初めてだった?」
「へ?」
「慣れてなかったみたいだから。この店のハンバーガー、食った事ない?」
「た、食べた事はあります。一応…」
「ならどうしてさっきレジで迷ってたの?」
「え~と…」
彼女が目線を外して辺りをキョロキョロ。今日だけで何度目になるか分からない仕草だった。
「いつもはお母さんが買ってきてくれてましたから」
「なら自分で来た事は?」
「……今日が初めてです」
「友達と来た事はないの? ここじゃなくて別の店舗とか」
「んっ…」
質問に対して頭が上下に動く。必要以上に何度も。
「ふ~ん…」
今時、珍しすぎるウブな子。うちの生意気な従妹とは大違いだった。