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雨上がりの空へ  作者: トランクス
1st STORY
75/129

19 遅刻と待ち合わせー5

「今日の放課後、一緒に愛莉の家に付いて来てください」


「……え?」


「お願いします」


 休み時間の教室で1人の人物に声をかける。三つ編みが特徴的な女子生徒に。


「突然こんな事を言い出してごめん。ただ君に力を貸してほしくて」


「な、何ですか……いきなり」


「愛莉を学校に来させる為に協力してほしい。俺1人の力じゃ無理なんだよ」


「火浦さん…」


「迷惑だってのは重々承知してる。でもそれを理解した上で日向さんにも付いて来てほしいんだ」


 周りには誰もいない。会話を聞かれないようにタイミングを見計らって接触していた。


「昨日、愛莉の家に行ってきたんだ。様子を見に」


「え?」


「そしたら本人に追い返されちゃった。もう来ないでくれって」


「……そうなんですか」


「学校を辞める気らしい。このままだと二度と会えなくなっちゃう」


「んっ…」


 投げやりな言動を振り撒いていたが本心では復学を望んでいるハズ。クラスメートが自分を受け入れてさえくれれば。


「どうかな?」


「えっと…」


 問い掛けに対して日向さんが視線を机の方に移動。戸惑っているのが曇っている表情から分かった。


「……私なんかが行っても何も変わらないと思いますけど」


「そんな事ないよ。だって君、愛莉と仲が良かったじゃないか」


「それは先週までの話です。今は仲が良いとは言えません」


「つまり愛想を尽かしたって事?」


「え?」


 少し強めの口調に切り替える。このままでは埒があかないと判断して。


「もし日向さんが愛莉の事を何とも思ってないって言うなら無理強いはしない。学校に来てほしくないと考えてる人間を説得に同行させるのは間違えてるから」


「いえ、私は…」


「その場合は諦める。また俺1人で愛莉の家に行ってくるだけだし」


「1人で…」


「ただ君がまだ愛莉の事を友達だと思っているなら一緒に付いて来てくれないかな?」


 彼女とはまともに会話を交わした事がない。あくまでも友達の友達といった関係。


 それでも縋り付かずにはいられなかった。他に良い方法が思い付かなかったから。


「わ、私は……火浦さんに謝らないといけません」


「ん?」


「手帳を拾った時、直接返す事が出来なかった事を」


「いや、あれは砂原が…」


「本人を前に言い出すのが怖かったんです。ずっと騙されてたみたいで火浦さんの事を信じられなくなりました」


「……なるほど」


 どんな反論をされるか身構えていると予想外の言葉が返ってくる。自責の意味を込めた台詞が。


 隠し事が原因で自分にもとばっちりが来るかもしれない。そんな展開を恐れていたから彼女は友人との距離を置いたのだ。


「でも一番悩んでいたのは火浦さんだと思うんです。打ち明けたいのに、それがずっと出来ず苦しんでたんだろうと」


「そだね。隠し事って首を絞めるだけで無きゃ無い方がいいに決まってるんだから」


「なのに私は助けてあげられなかった。砂原くん達にからかわれてる火浦さんを」


「それでその事を謝りたいと?」


「……はい」


 目の前にあった体が小さく頷く。視線を合わせてくれないまま。


「なら愛莉の家に一緒に付いて来てくれる?」


「えっと……そうしたいのは山々なんですが。私、放課後は部活がありまして」


「あ、そうか」


「先生に言えば休ませてくれるとは思うんですけど」


「けど?」


「んんっ…」


 言葉の歯切れが悪い。明らかに何かを言い淀んでいた。


「大丈夫。俺、こう見えてもビビりだから」


「……え?」


「粋がってても本当は小心者だよ。ケンカする時だっていつも震えてるんだ」


「は、はぁ…」


「愛莉や日向さんと少しも変わらない。1人じゃ何も出来ない無力な奴さ」


 怯えている心情を察知して喋り出す。卑屈にさえ感じる台詞の数々を。


「……じゃあ、一緒に行きます」


「本当!?」


 そしてそんな誠意は無事にクラスメートの心に到達。初めて肯定的な意見を口にしてくれた。


「け、けど私なんかが行って役に立てるかは分かりませんよ?」


「大丈夫だって。隣にいてくれるだけで効果はあるもん」


「そうでしょうか…」


「愛莉もきっと苦しんでると思うから。日向さんを騙してたっていう罪悪感に」


「……あ」


 事実を知っている留年生に対してもあれだけ自虐的に。友人なのに秘密を打ち明けられなかった彼女に対しては、それ以上に負い目を感じているに違いない。


 放課後になると約束通り2人で学校を出発する。彼女は部活を休み、自分は病院の検査をズル休み。


 念の為に父親を通して医者側には連絡。今は怪我の経過より自主退学をするかもしれない友人の存在が心配だった。

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