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雨上がりの空へ  作者: トランクス
1st STORY
7/129

3 メガネとポニーテールー2

「よ、よろしくお願いします」


「いや、そう毎回頭下げなくて良いから…」


 新しく通う事になる教室で挨拶を交わす。メガネをかけた女子と。


「同じクラスなんて奇遇ですね」


「そだね。まさかここまで一致するとはなぁ」


「んんっ…」


「何?」


「……へ?」


「俺の顔、なんか付いてる?」


「い、いや……特には」


 至近距離で視線が衝突。不自然な態度を指摘したら慌てふためいた反応が返ってきた。


「え~と……それじゃあ、また」


「バイバ~イ」


 またしても不穏な気配が漂い始めたので彼女が立ち去る。慌てていたのか別の生徒の机に足を引っ掛けていた。


「……変な子」


 様子がおかしい。自宅で会った時もそうだったが。


 しばらくすると担任となる若い女教師が登場する。教科書等が配られ、1年間の授業についての簡単な説明を受けた。


 その間、目立たないように心掛けて過ごす。さすがにまだお互いの素性を知らないからか何も言われる事なく終了した。


「ふぃ~、疲れたぁ」


 強ばった背筋を伸ばす。放課後の開放的な空気を堪能するように。


 まだ新学期明けなので授業は無し。貰ったばかりの教科書は全て机の中に放置だった。


「なに見てんだよ」


「ご、ごめん…」


 隣の席の男子を睨みつける。目が合ったので乱暴な口調で対応した。


「面倒くさ…」


 恐らく前日はいなかった人間がいる事を不思議に感じたのだろう。昨日の入学式から紛れていればと後悔した。


 ただ誤魔化してはいてもいつかはバレる。どこからか『留年してる奴がいる』と会話しているのが耳に入ってきたからだ。


「あ、あの…」


「ん?」


「もう帰るんですか?」


 教室を出て下駄箱までやって来たタイミングで話しかけられる。例のメガネの女子に。


「帰るよ。やる事ないし」


「そ、そうですか…」


「何か用だった?」


「え? いや、特には」


 問い掛けに対して適当に対応。動作は止めずにスニーカーに足を通した。


「あぁ、そういえばガラス割っちゃってごめんね。弁償もまだしてないし」


「そ、その件に関してはもう大丈夫です。気にしてませんから」


「お金はそのうち働いて返すよ。修理代っていくらぐらいしたの?」


「私にはちょっと……お母さんに聞いてみないと分からないです」


「ふ~ん…」


 人で溢れる昇降口を歩き出す。空に近い鞄を携えながら。


「……ん」


 従姉は部活に顔出しするので帰りは別々。1人きりの下校だった。


「腹減ったぁ…」


 鞄を持っていない方の手で押さえる。空腹感に襲われてしまった胃を。


「昼飯どうしよう…」


 今は家に帰っても誰もいない。父親は入院中で、母親はスーパーでパート。自宅で何か作って食べても良いのだが寄り道したい気分だったので大通りへとやって来た。


「い、いつまで付いてくんの。君!」


「へ?」


 後ろに振り返ってツッこむ。背後にいた人物に向かって。


「君の家、こっちの方じゃないでしょ。どうしてずっと付いて来るの?」


「え……マズかったですか?」


「マズいっていうか…」


「ご、ごめんなさい。すみませんでした!」


「いや、頭を下げられても」


 彼女は学校を出た後もピッタリと同行。ずっとスルーしていたのだが途中から明らかに追跡されている事に気付いた。


「別に怒ってるわけじゃないから謝らなくて良いよ。ただ疑問に思ったから指摘しただけで」


「あ……そうなんですか」


「君も暇なの? 俺と一緒でやる事ないとか」


「え~と…」


「友達いないんだっけ。まぁクラスメートなんてほとんど知らない奴だらけだよな」


「は、はぁ…」


 あちこちの中学から多種多様な面子が集まってくる。知り合いを見つける方が難しいだろう。


「こっちに用事だったの?」


「さ、さぁ?」


「おい」


 とりあえず自分でもよく分かっていないらしい。言動が一貫して理解不能だった。


「あのさ、腹減ってるから飯食いに行かない?」


「ふぇ?」


「肉食いたいからハンバーガー屋行こうぜ。あそこの」


 少し先の場所を指差す。あちこちで見かける有名チェーン店を。


「い、今からですか?」


「むしろいつ行くつもりなのさ」


「私も……ですか?」


「別に来たくないってんなら付き合ってくれなくても良いけど」


「ど、ど、どうしよう…」


 提案に対して彼女が人差し指の先端をこすり合わせ始めた。表情も歪ませながら。


「行かない?」


「それは…」


「お腹空いてないなら別に良いよ。1人で行ってくるし」


「え~と…」


「あぁ、もうっ!」


「あっ!?」


 埒が明かないので歩き出す。昔から忍耐力は低かった。


「来るの?」


「は、はい」


「誘ったりしたけど奢りはしないからね。俺、あんま金持ってないから」


「そ、それはもちろんです。自分の分は自分で払います」


「なら良かった」


 しばらくすると彼女が近付いてくる。転びそうにも感じる駆け足で。


 ガラスを割られた事を理由にたかりにきた訳ではないらしい。1人きりの食事を覚悟していたが良い暇つぶしの相手を見つけられた。

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